鬼憑き
あらあ、また、鬼憑きのお客さんなの。聞いてるかしら、あたしはなんにも直さないのよ。あなた自身が直すの。この場合の「なおす」は、さんずいの「治す」じゃなく、まっすぐ元に戻すって意味の「直す」よ。誰も、どこも悪くないんだからさ。
あなた、鬼に憑かれて立ち行かなくなってるんでしょ、それでここに来たのね。あたしが魔法みたいに鬼を追っ払えたらって思ってるかもしれないけど、仮にそんなことできたらあなたの命を無駄にするようなものよ。誰かが自分でやろうとしていることを邪魔するほど台無しってものはないわよね。なんで「人生」っていう舞台を選んだか、それを思い出したら人に頼めるものじゃないし、そんなもったいないことするわけない! って頭がはっきりするはずよ。
それで、もう気がついたんでしょ、あなたの人生ずっと鬼が憑いてたこと。鬼がおとなしいときも、ほとんど影をひそめてたときも、変わらずあなたの中で「同居してた」ってわかったわけよね。
中にはそう知っても共存する道がある気がしてね、鬼をそのまんまにしてる者もいるし、あとは鬼をすっかり自分だと思ってる者も多いわ。
でもあなた、そのどっちもできなくて、鬼憑きを認めてしまったんでしょ。
鬼が憑いてることをどうにかするかわりに鬼に餌をやってね、暴れないようなだめ続けることが人生だと思ってる者もいるわ。鬼を刺激しないようおびえて生きてる者もいるわ。
この世じゃわりによく見るどっちの選択も、あなたにはできなかったのね。ああいう選択を「正常」って呼ぶ今の傾向に照らし合わせれば、あなたは「正常」になれなかったってところよね。
あらやだ、そんな暗い顔をしなさんな、あたしならおめでとうを言うわよ。あなたは自分で鬼を追い払うことにしたんだからさ。
追い払うっていうのは正確じゃないわねえ、本を閉じるみたいに、あなたのその物語は終わるのよ。それには本気でやらなくちゃならないけど。あなたの知っている物語には戻らない覚悟で。
今から言うことをようく聞いて、あなた自身で実行してね。
いい、これから伝える前提を疑ったら、その度にふりだしに戻っちゃうわ。
だけど、言っとくけどあなたは何度も何度もこの前提を疑うわよ。それでもあなたの知ってる物語に戻っちゃだめ。
あたしの話はこうよ。
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