軌跡から山口晃:2022 → 2023年 アーティゾン美術館 東京都中央区
東京駅周辺のミュージアム事情は、ここ数年充実してきています。
丸の内側には東京ステーションギャラリー(2012年リニューアル)と東京大学系のインターメディアテク、三菱系は三菱一号館美術館と静嘉堂文庫美術館(2022年に世田谷区から移転)。そして老舗の出光美術館(近い将来、建替予定)や皇居内の三の丸尚蔵館(2024年リニューアル)。
一方、八重洲側には2005年にオープンした日本橋の三井記念美術館、そして再開発でリニューアルされたタイヤの会社の老舗ミュージアム。
ブリヂストン美術館からイメージチェンジしたアーティゾン美術館。東京駅界隈では縁の薄いミュージアムでしたが、西洋絵画の印象が強かったせいでしょう(モネとかマネとか区別がつかないレベルなので)。
ただしキッカケさえあれば、幅広い収蔵品の一端に触れる良い機会に。
アーティゾン美術館
東京都中央区京橋1-7-2
前身のブリヂストン美術館は石橋正二郎によってブリヂストン本社ビル内に1952年に開館。休館を経て2020年に建て替えされたミュージアムタワー京橋内にアーティゾン美術館としてリニューアルオープン、設計は日建設計。
展示空間は都心のビルにあるミュージアムとは思えないほどゆったりとしていて、全館撮影可(たぶん)という今時なミュージアム。
正二郎さんの蒐集した美術品をコアに約3,000点を収蔵。印象では和洋を問わず絵画中心のコレクション。
近年、この手の案内を掲示だけでなくカード等を置いてあるミュージアムが増えてきています。
書いてあるマナーはフツーのコトのように感じますが、その上を行く人も少なくないのでしょう。
教育の場としての役割も求められるミュージアム?
チビッ子なら分かりますけど。
このタイプの展示ができるのは、歴史を重ねたミュージアムならでは。
昭和感がハンパないポスターデザイン。
開催年が記載されていないモノは、後に非常に困るコトになります(昭和や平成表記も)。当時の学芸員さんは気にならなかったのか不思議。
石橋正二郎という人
石橋正二郎(1889-1976)は築後久留米の生まれ。地下足袋からブリヂストン(BS)を創業した人。
久留米の殿さまといえば有馬家。競馬の有馬記念の創設や、安産祈願で知られる水天宮を久留米から江戸に分社したお殿様。
現在の久留米はブリヂストンがお殿様の企業城下町。ブリヂストンの工場や久留米大学(創立時に石橋家が多額の寄付)が久留米城跡を囲んでいます。
正二郎さんは、アーティゾン美術館の他にも1956年、故郷久留米に石橋美術館(現久留米市美術館:菊竹清訓設計)を寄贈。また1969年には東京国立近代美術館の建物(谷口吉郎設計)を寄贈し、日本美術界への貢献度はハンパではありません。歴史系では久留米城跡に有馬家の大名道具を展示する有馬記念館(菊竹清訓設計:競馬関係ではありません)も寄贈しています。
タイヤメーカーとしてのBSは、モータースポーツに積極的に参加していますが、4輪の最高峰F1や2輪の最高峰Motogpからは、ワンメイク化(1社供給)のために残念ながら遠ざかっています。
モデルは築後の人、彫刻家は豊後の人。
山口晃
山口晃(1969- )は上野(群馬県)の人。
山口作品の入口は、洛中洛外図のような六本木ヒルズの俯瞰 というか鳥瞰図(たぶん森美術館)。
ピンときたのは、上杉博物館(山形県米沢市)所蔵の狩野永徳の傑作洛中洛外図(国宝:上杉本)の現代版。金色の雲の使い方が印象的です。
今回の展示にも、洛中洛外図が展示(永徳ではないけど)。
サンサシオンはセンセーションのフランス語表記。
山口風なら仏蘭西語か。
外国の方が熱心に見ていましたが、ひらがなが分からないと理解は不能。
なんとも凝った手法です。
今回の図録は入手せず。サイズがちょっと引っ掛かりました(デカすぎ)。
山口作品については、少し古いモノですが館林美術館の図録が役に立ちます。
百貨店圖 日本橋 新三越本店(三越伊勢丹蔵:図録表紙)や倉敷金刀比羅圖(大原美術館蔵)が掲載されています。
以下は特別展での展示作品
自分の家を探しているのか、多くのお客さんが熱心に見ていた絵。
江戸城本丸には御殿等の建築群が健在です。皇居の北西、現在の防衛省は白ヌキでマル秘と表現。
西には東京タワー、そして東にそびえるのはスカイツリーではなく浅草にあった凌雲閣。
また上野公園にはトーハクが描かれています。表慶館に今はなきコンドル設計の初代本館が。不忍池の西側には岩崎邸、そして東京大学には加賀前田邸も。
製作途中の資料類も展示。立体化したサンプルで俯瞰をイメージ。
東京オリンピックには、山口さんもイロイロと思うトコロやコトがあったらしい。マンガのタッチも山口流。
そしてこの作品も展示されていました。実見した印象は思いのほか小さい。
上記の日本橋三越の図より南側、日本橋を渡ったあたりを描いた洛中洛外図的な一品。原本にあるグリッドの意味するトコロは・・・
実はステンドグラス化された盛況の図が、東京メトロ 日本橋駅 B1出口付近にドドーンとあります。ほとんどの人々は素通りしていきますけど(三越方向に歩く人には死角になります)。
盛況の図の中心に描かれた高島屋がスポンサーのパブリックアートです。
展示場所はアーティゾン美術館からは、歩いてすぐの距離。
ちなみに三越あたりの地下には、長ーい凞代勝覧があります(山口作品よりもう少し古い江戸時代の図)。
山口作品は見る側もある程度の知識武装しておかないと、「へぇー」とか「スゴーい」で終わってしまいます。
それはもったいないので、さらに復習して次の機会を楽しみに待ちます。
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