殿様のたしなみとシャネルの鎧 野口哲哉展:サムライじゃない! 【ポーラ ミュージアム アネックス】 東京都中央区
江戸時代に肥後熊本のお殿様として54万石を領有した大名・細川家。室町時代から現在まで続く家の末裔(前当主)さんは、悠々自適?の創作活動にいそしまれています。
そして、鎌倉以来権力を握ってきたのは武家の人々。外国人はサムライ(侍・士)と呼ぶ、今では魅力的な観光コンテンツの1つ。そのサムライをモチーフとして、歴史に現代的スパイスを利かせるアーティストがいます。
伝統ど真ん中の作家?と伝統からインスパイアされる現代作家、そのどちらとも受け入れる銀座にあるミュージアムの記録。
個人的には足を運ぶ機会があまりない銀座界隈。そしてお目当てのミュージアムは、自身には縁のない化粧や美食等のテナントが入居するビルに。
ポーラ ミュージアム アネックス
ポーラ ミュージアム アネックスは、東京銀座にある現代アート系ギャラリーのようなミュージアム。美容・美術・美食と3つの美をコンセプトに掲げるポーラ銀座ビルの3Fにあります。
展示は現代作家がメインのようなので、機会としてはややピンポイント。ただし入場無料という器の大きさは、ちょっと覗くだけの気軽さも。
東京都中央区銀座1-7-7-3F
細川護熙 展
まずはお殿様
細川護熙(1938- )は熊本県知事を経て内閣総理大臣になった人。また肥後細川家17代当主で永青文庫(東京都文京区)の前理事長。
シンプルに言えば熊本のお殿様。
政界引退後から陶芸や書画等の創作活動が目立つようになり、個展を開催したり寺院へ襖絵を奉納したり。いわゆる殿様芸を体現している人。
永青文庫でも護熙さんの茶碗系の展示は目にします。
この植物と虫シリーズ(タイトルは勝手に命名)は入口のあいさつ文に、中国の草虫図から着想を得て、路傍の草花や虫をモチーフにしたとありました。伊藤若冲のパクリ? いえオマージュでしょうか(若冲は拓版)。
上記の四季山水図は、2014年に細川家の菩提寺・京都の建仁寺 正伝永源院に奉納されています。
展示写真には秋氣を京都国立博物館で鑑賞中のジョー・プライスさんも。
リアル殿様芸は、プライスさんの目にはどう映ったのでしょう。
野口哲哉 展
そして歴史を俯瞰してる人
野口哲哉(1980- )は造形作家。具足に身を包んだ武士をモチーフに、現代的なアイテムを散りばめたユーモアあふれる人物をフルスクラッチビルドする稀有な人。また南蛮画のようなアイテムも手掛けます。
野口さんの展示には、過去2度ほど足を運んでいます。
実は野口さんの巡回展が2021年に開催されています。
高松(香川)、山口、館林(群馬)、刈谷(愛知)と全国規模でしたが、例の出歩きにくかった時期。残念ながら行けませんでしたが図録は入手。
そして1年後にポーラでご対面。
エッグチェアというのがお洒落。具足で座れるのか?
モデルはやや年配の方多し。そして何故か疲れたサラリーマン的な悲哀を漂わせるサムライたち。
初めて野口さんの作品を目にした時、プラモデルのフィニッシャー(超絶技巧のモデラー)かフィギアの原型師の方かなと思いました。
ところが調べてみると、ベースとなるモデルがあるわけではなく、フルスクラッチの作品と知り驚きました。
図録に「インセクトマン」がという作品が収録されています。小さなサムライを昆虫標本のように表現したモノ。木箱に標本綿を敷き詰めた本格派で、もちろんラベル付きというヘンタイ度の高さ。
さらに完成状態に加えて、ベースモデルような模型のパッケージ状態(設計図付)を表現したモノも。模型の箱(タミヤっぽいボックスアート)まで抜かりなく、まさにオタクの極みです。
戦国末期になると、兜の完成時に鉄砲の試し撃ちをした痕跡が残るものがありますが、こちらは開いた穴にペイントしたのか、それともタイトル通りハートを撃ち抜かれたのか?
ルージュでお絵書き中。やっぱりポーラ?
家康はないと思うけど、信長や秀吉だったら行く気がする。
暗闇でスマホシリーズ。井伊の赤備えは武勇の象徴。
水玉をモチーフにした具足は記憶にありません。斬新。
西洋画のように描かれています。支倉常長像(国宝:仙台市博物館蔵)的な雰囲気です。
そして銀座を歩けば間違いなく注目度No.1のハイブランドなサムライ。
あの伝説のロトの鎧も霞んでしまうレアアイテムを着用。
シャネルの鎧
具足は典型的な金工具と皮革製アイテム。エルメスやルイ・ヴィトンの方がイメージそのままなのですが、シャネルというチョイスがなんともシブイ。なによりシャネルのロゴは実際の家紋的。
製品化されれば富裕層のコレクターズアイテム必至。ぜひ銀座店限定で。
さらに具足図。フツーに有力大名家に見られる伝来道具一式。
図録にはヴァレンティノサムライも掲載されています。
足元は赤いサンダルというラフなスタイル。
野口さんの作品には架空の設定だけではなく、実在のモノ(具足)が所々出てくるのがポイントです。
赤備え、加藤清正、池田光政風、伝羽柴秀次(原本はサントリー美術館蔵)、そして幕末期にパリへ幕府外交官として派遣された河津祐邦と歴史オタクがピクッと反応してしまうチョイス。
知識がなくてもそのリアルな造形とユーモアを楽しめますが、あればその奥深さにニヤリとさせられるのが野口ワールド。
名門武家もある意味ブランドです。実力がなくてもその権威性によって生き延びた家もあります(高家のような)。
展示カテゴリーの幅の広さや刺激の多様性は都市部のミュージアムならではでしょう。ただ歴史や伝統の持つ奥深さは、どの地域にも必ずあります(むしろ地方のほうが濃縮されてるかも)。
どうブランド化するかは、現代を生きる人のセンスと視点。
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