見出し画像

ペリクレスの葬礼演説を古典ギリシア語で読んでみた【第13回】

史上初めて民主政を完成させたペリクレスの、民主主義礼賛パートが始まります。全くの偶然ですが、日本の民主政治の根幹たる衆院選ももうすぐ始まりますね。笑

ペリクレス葬礼演説解説の第1回目はこちら
ペリクレス葬礼演説解説の第12回目はこちら

原文(Thuc. 2.37)と翻訳:13文目

χρώμεθα γὰρ πολιτείᾳ οὐ ζηλούσῃ τοὺς τῶν πέλας νόμους, παράδειγμα δὲ μᾶλλον αὐτοὶ ὄντες τισὶν ἢ μιμούμενοι ἑτέρους.

筆者翻訳
さて、我々は近隣の諸法とは比べ物にならぬ国制を有しており、他の法律を模倣しているというよりは、むしろ我ら自身が何人に対しても模範なのである。

解説:語彙

・χρώμεθα:基本形はχράομαι、動詞・現在形・中動態・1人称複数・直説法、与格(πολιτείᾳ)を取り「有している」。
・γὰρ:物事を詳しく説明する際の小辞。「さて」としてみた。
・πολιτείᾳ:基本形はπολιτεία、名詞・女性・単数・与格、「国制」
・οὐ:否定の小辞、ζηλούσῃを否定する。
・ζηλούσῃ:基本形はζηλόω、動詞・分詞・現在形・能動態・女性・単数・与格、対格(τοὺς τῶν πέλας νόμους)を目的語に取り「~に比肩する」。οὐで否定されているので「~と比べ物にならない」
・τοὺς:冠詞・男性・複数・対格、νόμουςに繋がる。
・τῶν:冠詞・中性・複数・属格、πέλαςと繋がり名詞化する。
・πέλας:副詞、「近隣の」
・νόμους:基本形はνόμος、名詞・男性・複数・対格、「諸法」
・παράδειγμα:基本形は同じ、名詞・中性・単数・主格、「模範」
・δὲ:連繋の小辞
・μᾶλλον:比較級の副詞、属格やἢ以下で比較対象を取る。「~というよりは(むしろ)」
・αὐτοὶ:基本形はαὐτός、人称代名詞・男性・単数・主格、「自身」
・ὄντες:基本形はεἰμί、動詞・分詞・現在形・能動態・男性・複数・主格、「なのであり」
・τισὶν:基本形はτις、不定代名詞・複数・与格、「何人に対しても」
・ἢ:比較級でμᾶλλονの比較対象を以下に示す。
・μιμούμενοι:基本形はμιμέομαι、動詞・分詞・現在形・中動態・男性・複数・主格、「~を模倣する」
・ἑτέρους:基本形はἕτερος、形容詞・男性・複数・対格、名詞として扱う。「他(の法律)」

解説:構造

χρώμεθαは与格を目的語として取る動詞なので、基本構造は下記になります。

主語:(我々)
動詞:χρώμεθα 
目的: πολιτείᾳ οὐ ζηλούσῃ τοὺς τῶν πέλας νόμους

上記に加え、1人称複数の分詞(ὄντεςとμιμούμενοι)を用いて、主語の「我々」を補足説明しています。その国制を有している我々=アテナイ人たちは、他者の模倣ではなく、むしろ模範なのだということですね。

前回、ペリクレスは「如何なる献身から我らは偉業へと至ったのか、如何なる政体で、如何なる方法からポリスが偉大に成ったのか」をまずは語ると宣言していました。その言葉通り、今回から国制の話題へとシフトしています。いかに民主政治が優れているのか、ペリクレスの理想が語られます。その理想は、一歩間違えば「衆愚政治」と呼ばれてしまうものでしたが…。

逐語訳

さて(γὰρ)、我々は近隣の(τῶν...πέλας)諸法(τοὺς...νόμους)とは比べ物にならぬ(οὐ ζηλούσῃ)国制(πολιτείᾳ)を有しており(χρώμεθα)、他の法律(ἑτέρους)を模倣している(μιμούμενοι)というよりは(ἢ)、むしろ(μᾶλλον)我ら自身が(αὐτοὶ)何人に対しても(τισὶν)模範(παράδειγμα)なのである(ὄντες)。

※原文の出典:Thucydides. Historiae in two volumes. Oxford, Oxford University Press. 1942.


この記事が参加している募集

#最近の学び

181,393件

拙文をお読みいただきありがとうございます。もし宜しければ、サポート頂けると嬉しいです!Περιμένω για την στήριξή σας!