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ペリクレスの葬礼演説を古典ギリシア語で読んでみた【第12回】

今までで最も長い一文に取り組みます。弁論では、このようになかなか一文が途切れないということが度々起こりますが、日本語で直訳すると冗長な感じの文章になってしまうので、悩みどころです。

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原文(Thuc. 2.36)と翻訳:12文目

 ἀπὸ δὲ οἵας τε ἐπιτηδεύσεως ἤλθομεν ἐπ᾽ αὐτὰ καὶ μεθ᾽ οἵας πολιτείας καὶ τρόπων ἐξ οἵων μεγάλα ἐγένετο, ταῦτα δηλώσας πρῶτον εἶμι καὶ ἐπὶ τὸν τῶνδε ἔπαινον, νομίζων ἐπί τε τῷ παρόντι οὐκ ἂν ἀπρεπῆ λεχθῆναι αὐτὰ καὶ τὸν πάντα ὅμιλον καὶ ἀστῶν καὶ ξένων ξύμφορον εἶναι ἐπακοῦσαι αὐτῶν.

筆者翻訳
他方で、如何なる献身から我らは偉業へと至ったのか、如何なる政体で、如何なる方法からポリスが偉大に成ったのか、初めにこれらを示した後で、彼らへの讃辞にも入ろう。なぜなら、この状況において、これらは語られるに不適切ではなく、市民も外国人も集まった人々全員がそれを聞くことは、有意義だと思われるから。

解説:語彙

・ἀπὸ:前置詞、属格(οἵας...ἐπιτηδεύσεως)を取り、「~から」
・δὲ:対比の小辞、前回のμὲνと対を成す。「他方」
・οἵας:基本形はοἷος、関係代名詞・女性・単数・属格、ἐπιτηδεύσεωςと繋がり、節を形成して間接疑問となる。「如何なる~か」
・τε:結合の小辞
・ἐπιτηδεύσεως:基本形はἐπιτήδευσις、名詞・女性・単数・属格、「献身」
・ἤλθομεν:基本形はἔρχομαι、動詞・アオリスト形・能動態・1人称複数・直説法、「我らは至った」。上述した間接疑問節の動詞。
・ἐπ᾽:前置詞、対格(αὐτὰ)を取り、「~へ」
・αὐτὰ:基本形はαὐτός、人称代名詞・中性・複数・対格、「これら」。前回出てきた偉業のことを指す。
・καὶ:接続詞、「~そして」
・οἵας:基本形はοἷος、関係代名詞・女性・単数・属格、πολιτείαςと繋がり、節を形成して間接疑問となる。「如何なる~か」
・μεθ᾽:前置詞、属格(οἵας πολιτείας)を取り「~と共に」「~で」
・πολιτείας:基本形はπολιτεία、名詞・女性・単数・属格、「政体」
・καὶ:接続詞、「~そして」
・τρόπων:基本形はτρόπος、名詞・男性・複数・属格、「方法」
・ἐξ:前置詞、属格(τρόπων...οἵων)を取り「~から」
・οἵων:基本形はοἷος、関係代名詞・女性・単数・属格、τρόπωνと繋がり、節を形成して間接疑問となる。「如何なる~か」
・μεγάλα:基本形はμέγας、名詞・中性・複数・対格、副詞として扱う。「偉大に」
・ἐγένετο:基本形はγίγνομαι、動詞・アオリスト形・中動態・3人称単数・直説法、主語はポリスと考えられる。「成った」。前述した2つの間接疑問節(οἵας πολιτείας、τρόπων...οἵων)の共通した動詞となっている。
・ταῦτα:基本形はοὗτος、指示代名詞・中性・複数・対格、「これら」。上記の間接疑問のことを指す。δηλώσαςの目的語。
・δηλώσας:基本形はδηλόω、動詞・分詞・アオリスト形・能動態・男性・単数・主格、「~を示した後に」
・πρῶτον:基本形はπρότερος、形容詞・中性・単数・対格、副詞として扱う。「初めに」
・εἶμι:基本形はεἶμι、動詞・現在形・能動態・1人称単数・直説法、現在形だが、アッティカ散文では未来の意味を帯びることがある。「~に入ろう」
・καὶ:強調の副詞、「~も」
・ἐπὶ:前置詞、対格(τὸν τῶνδε ἔπαινον)を取り「~に」
・τὸν:冠詞・男性・単数・対格、ἔπαινονと繋がる。
・τῶνδε:基本形はὅδε、指示代名詞・男性・複数・属格、「彼らへの」。戦没者たちのこと。
・ἔπαινον:基本形はἔπαινος、名詞・男性・単数・対格、「讃辞」
・ νομίζων:基本形はνομίζω、動詞・分詞・現在形・能動態・男性・単数・主格、理由を表している。不定詞(εἶναι)を取り 「~と思われるから」
・ἐπί:前置詞、与格(τῷ παρόντι)を取って状況を説明する。
・τε:連結の小辞
・τῷ:冠詞・中性・単数・与格、παρόντιに繋がり名詞化している。
・παρόντι:基本形はπάρειμι、動詞・分詞・現在形・能動態・中性・単数・与格、τῷを伴い名詞化している。「この状況」
・οὐκ:否定の小辞、ἀπρεπῆを否定する。
・ἂν:可能性・推量の小辞、「~であろう」
・ἀπρεπῆ:基本形はἀπρεπής、形容詞・中性・複数・対格、「不適切な」。οὐκで否定されているので「不適切ではない」。λεχθῆναιと繋がり「語られるに不適切ではない」
・λεχθῆναι:基本形はλέγω、動詞・不定詞・アオリスト形・受動態・直説法、補足限定の用法。「語られるに」
・αὐτὰ:基本形はαὐτός、人称代名詞・中性・複数・対格、「これら」。省略されているεἶναιの意味上の主語。
・καὶ:接続詞、νομίζωνで形成される2つの句を接続する。
・τὸν:冠詞・男性・単数・対格、ὅμιλονに繋がる。
・πάντα:基本形はπᾶς、形容詞・男性・単数・対格、ὅμιλονを修飾する。「全員」
・ὅμιλον:基本形はὅμιλος、名詞・男性・単数・対格、「集まった人々」。ἐπακοῦσαιの意味上の主語。
・καὶ:接続詞、ἀστῶνとξένωνを接続する。
・ἀστῶν:基本形はἀστός、名詞・男性・複数・属格、「市民たちの内」。ὅμιλονに掛かる。
・καὶ:接続詞、ἀστῶνとξένωνを接続する。
・ξένων:基本形はξένος、名詞・男性・複数・属格、「外国人たちの内」。ὅμιλονに掛かる。
・ξύμφορον:基本形はσύμφορος、形容詞・中性・単数・対格、「有意義な」
・εἶναι:基本形はεἰμί、動詞・不定詞・現在形・能動態・直説法、ἐπακοῦσαιが意味上の主語であり、ξύμφορονが補語。「ἐπακοῦσαιがξύμφορονであると(思われるから)」
・ἐπακοῦσαι:基本形はἐπακούω、動詞・不定詞・アオリスト形・能動態・直説法、属格(αὐτῶν)を目的語に取り「~を聞くこと」
・αὐτῶν:基本形はαὐτός、人称代名詞・中性・複数・属格、「これら」

解説:構造

一文が今までより長めなので、いつもより捉えにくい文章になっているかと思いますが、ゆっくり読み解いていけば、そこまで難しいわけではありません。
まずは主節と従属節に分けてみましょう。

主節:ταῦτα δηλώσας πρῶτον εἶμι καὶ ἐπὶ τὸν τῶνδε ἔπαινον, 
従属節①:ἀπὸ δὲ οἵας τε ἐπιτηδεύσεως ἤλθομεν ἐπ᾽ αὐτὰ καὶ μεθ᾽ οἵας πολιτείας καὶ τρόπων ἐξ οἵων μεγάλα ἐγένετο,
従属節②:νομίζων ἐπί τε τῷ παρόντι οὐκ ἂν ἀπρεπῆ λεχθῆναι αὐτὰ καὶ τὸν πάντα ὅμιλον καὶ ἀστῶν καὶ ξένων ξύμφορον εἶναι ἐπακοῦσαι αὐτῶν.

主文は「初めにこれらを示した後で、彼らへの讃辞にも入ろう」となります。従属節①は、上記の「これら」の言い換えである間接疑問からなる文章で、従属節②は主節の理由を分詞で表した文章となります。

従属節②は不定詞のオンパレードなのでやや分かりにくいですが、接続詞を介して2つの文が連結しています。基本構造は下記になります。

・1つ目
主語:αὐτὰ(これらは)
動詞:οὐκ [εἶναι=省略](ではない)
補語:ἀπρεπῆ(不適切)
補足:λεχθῆναι(語るには)

・2つ目
主語:τὸν πάντα ὅμιλον καὶ ἀστῶν καὶ ξένων(市民も外国人も集まった人々全員が)ἐπακοῦσαι αὐτῶν(これらを聞くことは)
動詞:εἶναι(である)=νομίζωνと繋がる。
補語:ξύμφορον(有意義)

逐語訳

他方で(δὲ)、如何なる(οἵας)献身(ἐπιτηδεύσεως)から(ἀπὸ)我らは偉業(αὐτὰ)へと(ἐπ᾽)至った(ἤλθομεν)のか、(καὶ)如何なる(οἵας)政体(πολιτείας)で(μεθ᾽)、(καὶ)如何なる(οἵων)方法(τρόπων)から(ἐξ)ポリスが偉大に(μεγάλα)成った(ἐγένετο)のか、初めに(πρῶτον)これらを(ταῦτα)示した後で(δηλώσας)、彼らへの(τῶνδε)讃辞(ἔπαινον)に(ἐπὶ)も(καὶ)入ろう(εἶμι)。なぜなら、この状況(τῷ παρόντι)において(ἐπί)、これらは(αὐτὰ)語られるに(λεχθῆναι)不適切(ἀπρεπῆ)ではない(οὐκ)であろう(ἂν)し(καὶ)、市民(ἀστῶν)も(καὶ)外国人(ξένων)も(καὶ)集まった人々(τὸν...ὅμιλον)全員が(πάντα)それを(αὐτῶν)聞くこと(ἐπακοῦσαι)は、有意義(εἶναι)であろう(εἶναι)と思われるから(νομίζων)。

※原文の出典:Thucydides. Historiae in two volumes. Oxford, Oxford University Press. 1942.


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