山田と太一の物語 #01


  あらすじ


「やまだたいつ」という漫才コンビを組む”山田”と”太一”という二人の青年がいた。

ある日、ひょんなことから太一が吐いた嘘が真となり、なんと隕石が地球に降ってきてしまう。

そしてその隕石の衝突を機に、二人は幾重にも折り重なった物語の世界へと巻き込まれてしまうのであった。。。


  九月三日

 山田「で、さっきの婆さんがね……」

 太一「もういいよ!」

 二人「どうもぉ~ありがとうございましたぁ~」

 威勢の良い二人の声が、異様な静けさを保った世界に木霊する。まるで、二人だけの異空間に迷い込んでしまったかのよう。

 ここは二人の練習場。いつもと変わらぬ深夜の公園。

「なぁ、何で今日こんなに静かなんだ?」

「そりゃー明日世界が滅ぶんだから当たり前だろ」

「あっ、そっか。忘れてた」

「嘘吐け」

「ヘヘヘヘヘ。でも、世界が滅ぶなんて、小説とかSFの世界でしかあり得ないと思ってたよな」

「本当だよ。だって俺さっき、『明日世界が滅ぶんだから当たり前だろ』って言った時、吹き出しそうになったからね」

「ハハハハハ、最高だな。今度のネタに使おうぜ」

「ハハハ……まぁ、次があればな……」

「なぁ、俺たちの漫才は最高だよな?」

「おう」

「時代が悪かっただけだよな?」

「おう」

「……怖いか?」

「いーや、全然。まぁ漫才してる間は、だけどな。だからこうやって最後の夜も馬鹿みたいにお前と漫才してるんじゃねぇか。正真正銘の馬鹿さ」

「ハハハ、間違いねぇ。俺もお前が側にいるから怖くねぇよ」

「ばーか、気持ち悪りぃんだよ」

「ハハハハハハハ」

「ほら、見てみろよ。隕石がもうあんな近くにあるぜ」


  PIECE

 八月十日、太一はいつものように深夜の公園に来ていた。山田はまだいない。週末ということもあり、街はいつもより活気に満ち溢れていた。

「ダメ。誰かに見られたらどうするの?」

 女の声。太一の座っているところから少し離れたベンチに、ホスト風の男と女子大生らしき女がやってきた。

「誰もいねーよこんな夜遅くに。いるとしたらホームレスか野良犬さ。それか相当な暇人とかな。ハハハハハ」

「暇人か……まぁ、当たってるけどな」

 太一は苦笑するしかなかった。

「暇人で悪かったなぁ!」

 ボスッ!

「キャー!」

 女の悲鳴。

「何すんだテメェ!」

 男の怒号。

「女とイチャついてる方がよっぽど暇人だろうが!」

 聞き覚えのある声。山田だ。

「ふぅ、またか」

 太一は重い腰を上げる。もう慣れたものだ。トラブルメーカーの山田と一緒にいると、様々な事件が頻繁に起こる。そんな時の仲裁や尻拭いは大体が太一の仕事だった。

「まぁまぁまぁ、お二人さんそこら辺にしときましょうよ」

 第一声はいつもこうだ。

「何だテメェ?」

 相手の第一声も大体こうだ。そして拳が飛んでくる。お決まりのパターン。そして俺はその拳をいとも簡単に受け止める。そして軽く捻り上げ相手の後ろを取る。ここで最後の決め台詞。

「やめといた方がいいですよ。俺、空手八段なんで」

 そうすると大概の相手は悪態を吐いて逃げていく。か、ナイフを出して襲ってくる。後者とはまだ一度しか遭遇したことがない。

え?いつかって?それはもう御察しの通り……そう、まさに今だ!

 ヤバい、怖ぇ。空手八段とか嘘だし。どうしようどうしようどうしよう?そうだ。よし、逃げよう……あれ?足が動かねぇ。あーあ、完全にビビっちゃってるよ俺の足。うわぁー誰か助けてくれー!おーい!

 あっ、そうだ。山田がいるじゃんか。あれ?アレアレ?くそーアイツ逃げやがったな。最悪だ。今度解散話持ち出してビビらせてやる。

 はぁ、てかどうしよう……よし、得意のハッタリでもカマしてみるか。

「い、隕石だぁー!ヤバいヤバいデカイデカイ!しかもこっちに向かってきてるし!うわぁ~!」

「何だその嘘?馬鹿にしてんのか?」

「いやいやそんな、本当なんですって!ほらあそこ……」

 ってあれ?え?マジ?えっ?嘘?マジ?どうしよう!?ヤバイヤバイヤバい!

「あああああぁー!!隕石だぁー!!!」

「馬鹿にするのもいい加減にしろー!」

 バーン!!!

 ものすごい衝撃。朦朧とする意識。聞こえてくる山田の声。ん?山田の声?

「えー只今この公園にえー小さな隕石がえー落下しました。えー小さな、と申しましてもえーかなりのえー衝撃でした。えーそれと公園に落ちるという何とも漫画のようなえーシチュエーションですが、えーまさにこれは、えー現実なのですえー」

「えーが多いよ」

 太一は、職業病とはいえ思わず突っ込んでしまった自分を恥じた。と同時に山田の能天気さを羨んだ。

「おい、山田」

「おぉ、太一、元気だったか?」

「お陰さまで。てか何だよこれ」

「隕石」

「知っとるわ。とりあえず警察でも呼ぶか?」

「いや、それより救急車を呼んでくれないか?」

「えっ?何でだよ?」

「何か俺、さっきから目眩がしてダルくて意識が……」

「おっ、おい山田!大丈夫か!?あっ、あれ?そ、そういえば、俺も身体が……言うことを……きかな…………」


  勇敢なる戦士

 ピーピーピー……。

 ここはどこだ?俺は聞き覚えのない機械音が鳴り響く真っ白な部屋で目を覚ました。

 明るすぎる照明が照らす部屋には、驚くほど何もなかった。あるのは治療器具とベッド。その上に横たわる点滴だらけの自分。頭がおかしくなりそうだった。

 ふと、誰かに見られている感覚に襲われた。誰だ?そしてどこから?辺りを見渡しても誰もいない。しかし、人間の狂気的なものが自分に降り注いでいるのがヒシヒシと伝わってくる。

 くそっ、どこだ?……精神を研ぎ澄ます……そうか、分かったぞ。鏡だ。これがマジックミラーというやつか。

 しかし、何故?何故俺が観察されなければならないんだ?くそっ、何がどうなっているんだ?鏡を壊したいっていうのに身体は動かないし、よく見ると何故だか身体は毛むくじゃらだった。

 絶望感に襲われた。俺は限りなく死にたくなった。

 ガチャ。

 ドアの開く音。誰かが部屋に入ってきた。俺は何か言葉を発したかったが、何故か声帯を上手く震わすことは出来ず、代わりにそこから漏れるのはか細く弱弱しい呼吸音だけだった。まるで喋り方を忘れてしまったかのようで、俺は酷く不安な気持ち陥った。

「アナタ方は選ばれました」

 唐突な宣告に鼓膜が破れそうになり、途端に胸が苦しくなった。どういうことだ?発せない言葉の代わりに戸惑った顔を向けていると、相手がゆっくりと口を開いた。

「私たちは人類の数を調整する為に神によってこの地球に送り込まれた使徒です。しかし、私たちはとても数が少なかった。だから優秀な戦士を探していたのです。そこで目を付けたのがアナタ方だったのです。アナタ方は選ばれたのです」

 初めは何を言われているのか全く分からなかった。まるでこの世のこととは思えない話に、俺は酷く気が動転した。

「アナタ方には特殊な薬を投与しました。毛むくじゃらな身体はその為です。しかし、そのお陰でアナタ方は凄まじい力を手にしました。後一時間ほどでアナタ方は覚醒するでしょう。そして、この世界に希望をもたらすでしょう」

 馬鹿げている。この女は狂っている。ん、待てよ?何故女と識別できる?神の使いならばどこかしら人間とは異なった姿形をしているはずだ。しかも女は薬を投与したと言った。そんなものは人間のすることだ。

 もし本当に神の使いならば、特殊な力ですぐにでも強靭な戦士へと変貌させるだろう。そもそもこの装置や点滴もおかしい。これではまるでちょっと殺風景なだけの普通の病院ではないか。こんなものが神の仕業な訳がない。これはきっと宗教だ。宗教団体の犯罪行為だ。それかどこかの裏組織に違いない。

 どちらにせよ今俺は犯罪に巻き込まれている。それは目の背けようのない事実だ。

 どうする?このまま奴らの手先となり、まんまと犯罪の片棒を担ぐのか?いや、それは死んでも嫌だ。警察官だった死んだじいちゃんの名にかけても、それだけは絶対に嫌だ。

 よし、決めた。俺は新しく手に入れたこの力で悪の組織と戦うぞ。そして、絶対に地球を救うんだ。

 まだ覚醒までは時間があるな。よし、今のうちに眠っておこう。おそらく戦いは長く激しいものになるはずだから……。

 ピーピーピー……。

 聞き覚えのない機械音が鳴り響く真っ白な部屋で、太一は目を覚ました。

「おぉ、太一。気が付いたか」

 山田?

「お前三日も寝てたんだぜ?どんだけ寝りゃー気が済むんだよって話だよマジで。まぁ俺より間近であの隕石の毒喰らったからしょうがないんだけどな」

 コイツ、何言ってんだ?俺は地球を救った戦士だぞ。ていうかお前も一緒に戦っただろうが。

「なーに鳩が豆鉄砲喰らったような顔してんだよ、お前。そっか、まだ状況が吞み込めてないんだな?要するに、あの隕石はな……」

 夢だったのか?あの苦しくも素晴らしき戦いの日々は全て嘘だったのか?夢だったのか?そんなの悲しすぎるではないか。あんまりではないか。

「まぁ、とにかく無事でよかった。早く身体治してまた一緒に漫才やろうぜ」

 そう言って笑った山田を見て、俺は急に現実へと引き戻された。もう夢の中での栄光などどうでもよくなった。

しかし、せめて聞いて欲しかった。どうしても話したかった。あの熱き友情の物語を。

「なぁ、俺な、夢の中でモノ凄い活躍したんだぜ?」


  勇敢なる戦士Ⅱ

凄まじい身体の熱と、尋常ではない血液の流れに俺は目を覚ました。沸き上がる闘争本能が、一気に覚醒へのカウントダウンを刻む。

「いよいよか……」

 

 ……………………………………あれ?ダメだ。思い出せない。

「ん?何だよ、その続きはどうした?」

「いや、それが思い出せないんだ……」

「何だよそれ、ハハハハハ。まぁ、そんな夢の中の出来事なんてどうでもいいじゃねぇか。それより早く身体治せって。そしてまたあの公園で漫才の練習しようぜ」

「あぁ、そうだな……」


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