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My Favorite Japanese Jazz Albums +α 【2021-2022】

世界中で多種多様なジャズミュージックが発信されていますが、ここ日本でも新鋭からベテランまで、多くのミュージシャンたちが魅力溢れる作品を発表しています。
以前もnoteで、2020年の日本の個人的おすすめジャズアルバムを紹介しました。

Introduction

今回は2021年から2022年にかけての、おすすめのジャズアルバムと、それに加えて今後楽しみなミュージシャンの音源を紹介します。

2020年以降、コロナ禍は日本のジャズシーンにも非常に大きな影響を与えました。一時期、ライヴ自粛期間がありましたが、その期間を活用して、これまで温め続けていたアイデアを具現化してアルバムにしたものも数多くあります。
ライヴ活動が主となるジャズミュージシャンたちにとって、自分たちの音楽を見つめ直す時間となりました。
現在ライヴシーンも正常化しつつあり、海外ミュージシャンの来日もコロナ前の状態に戻ってきたように思います。しかも海外ミュージシャンとの共演の機会は以前よりも増えているように思います。その交流による刺激から、2023年も驚くべき作品が生まれそうな予感がします。
今後の日本のジャズシーン、ますます目が離せません。今回の記事が、その参考の1つになれば幸いです。

※ミュージシャン名敬称略ご容赦ください

【2021】

・中島朱葉『Looking For Jupiter』

リリースされてから、とにかくよく聴き、今も愛聴する作品。
ジャズシーンでの活躍は言わずもがな、近年ではドラマー石若駿の「Answer To Remember」への参加も注目のサックス奏者、中島朱葉の待望の初リーダー作。

田中菜緒子(ピアノ)、伊藤勇司(ベース)、濱田省吾(ドラムス)との長年の共演の成果が見事にアルバムに集約されており、どの楽曲の演奏も聴き応え抜群。
冒頭の“Breakout”の迫力あるサックスに仰け反り、中島の参加する「.Push」でも演奏されたボッサナンバーの“Pisca-Pisca”や、アート・ブレイキー&ジャズメッセンジャーズ『Freedom Rider』収録の名曲、“Tell It Like It Is”などバラエティに富んだ選曲で飽きさせません。
中島の圧倒的パフォーマンス、バンドの息の合った演奏で一気に聴き終えることができます。

・佐瀬悠輔『#1』

今、各方面で引っ張りダコのトランペッター、佐瀬悠輔。彼も石若駿の「Answer To Remember」に参加していますが、近年ではシンガーのJUJUのライヴや、トラックメーカーのSTUTSのレコーディングに参加するなど、まさに八面六臂の活躍ぶり。

ストレートアヘッドなジャズから、ポップスフィールドでも自己の音を巧みに表現する彼が、自身の音楽性を120%表現した初リーダー作。
ジャズに収まらない音楽性で、幅広い音楽ファンを刺激するトラックが揃っています。
彼と同世代の才気溢れるメンバー、海堀弘太(ピアノ)、⼩⾦丸慧(ギター)、新井和輝(ベース)、秋元修(ドラムス)と共に表現するサウンドは今までにない進取の精神に溢れています。
新井の艶のあるベースから始まる“ENCOUNTER”や、アグレッシブな“LANDMARK”など、特にロック系ファンの方にも聴いてほしいです。

・永武幹子トリオ『Into The Forest』

日本のジャズシーンで、ベテランから若手まで多くの支持を得ているピアニスト、永武幹子。峰厚介(サックス)や増尾好秋(ギター)といったレジェンドプレーヤーとの共演でも堂々とその実力を存分に発揮。サックスの加納奈実とのデュオ、「Jabuticaba」でのアプローチも興味深いです。

本作は自作曲を中心とした、自己のトリオでの初アルバム。織原良次(フレットレスベース)、吉良創太(ドラムス)とのトリオはどんな音楽でも表現できるのではないかと思えるほど、自由で、なおかつ完成度もずば抜けています。
静と動、その切り替わりの刹那で生まれる深い情感に酔いしれていただきたいです。
2022年にはさっそくセカンドアルバム『Breathe Beneath the Sun』をリリースし、その旺盛な創作意欲は衰えを知りません。

・江澤茜『THAW』

関東を中心に活躍の場を広げているアルトサックス奏者、江澤茜
豊かで力強く、凛々しい音が耳に心地良いです。
自作曲のメロディも秀逸で、北島佳乃子(ピアノ)、伊藤勇司(ベース)、木村紘(ドラムス)が織りなす正統派サウンドを高品質の録音が見事に捉えています。
美しい絵画のジャケットと音も、江澤の想い描くイメージがとても良く表現されていると思います。聴くと、じんわりと心が暖かたくなるように感じる作品。
正統派ジャズ好き、特にワンホーンカルテットの演奏形式がお好きな方に強くオススメします。

・桃井裕範『Flora and Fauna』

山中千尋トリオでの活躍や、中森明菜、稲垣潤一などとの共演、また自身が作詞作曲、ボーカルを務めるプロジェクト、「Potomelli」などで多種多彩な音楽を発信するドラマー、桃井裕範

ジャズギターの最前線をひた走る、ギラッド・ヘクセルマンニア・フィルダー、日本からは佐瀬悠輔MELRAWなどが参加する豪勢なラインナップ。
その中でも、ASIAN KUNG-FU GENERATION後藤正文がGotch名義で客演しているのは聴き逃せません。精密なドラミングと、後藤の唯一無二の歌が絡み合い、曲のストーリーが展開していく流れの気持ち良さをじっくり味わってほしい所。
多くの客演、さまざまなアプローチの楽曲が1つのアルバムに自然とまとまっているのも、桃井のプロデュース能力の高さを示していると思います。
ハイレベルな演奏と音楽性の調和が素晴らしい作品。

【2022】

・中村海斗『BLAQUE DAWN』

2022年の最大級の衝撃とでも言いましょうか、とても凄いアルバムが昨年終盤にリリースされました。
飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍しているドラマーの中村海斗の初リーダー作が堂々完成。

中村のパワフルかつ懐の深いドラミングにまず耳を惹かれます。
さらに壷阪健登(ピアノ)、古木佳祐(ベース)という若手・中堅ミュージシャンの中でも引く手数多の2人が中村の音楽に彩りを与え、中村と共に今後のジャズシーンを牽引するであろう逸材、佐々木梨子(サックス)と生み出す音楽の説得力は相当なもの。日本から世界に堂々と誇示できるコンテンポンラリージャズのマイルストーンの誕生に感動を覚えました。
この作品に参加しているミュージシャン、すべて要チェックです。

・KYOTO JAZZ SEXTET FEAT.TAKEO MORIYAMA『SUCCESSION』

DJ、プロデューサー、そしてなんと言っても「KYOTO JAZZ MASSIVE」の活動でつとに知られる沖野修也が率いる「KYOTO JAZZ SEXTET」は、これまでもブルーノートレーベルに敬意を示した作品や、オリジナル主体のアルバムを発表し、高い評価を得てきました。
次はどんなアルバムが発表されるか楽しみにしていましたが、日本だけでなく、世界でもその名が響き渡るドラマー、真のレジェンド、森山威男を迎えての新録音とは全く想像していなかったので、驚きが大きかったですが、本作はその期待値を遥かに超える作品となりました。

森山のこれまでの代表曲の再演中心なのですが、そのどれもが、新たな息吹をもって盤面から威勢の良い音を放ってきます。
森山の熱演に応えて、類家心平(トランペット)、栗原健(サックス)、平戸祐介(ピアノ)、小泉P克人(ベース)が熾烈な演奏の応酬を繰り広げています。
日本のジャズの持つ伝統的な精神性と、現代の空気感を絶妙にミックスさせた沖野修也の手腕に脱帽です。

・吉本章紘『64 Charlesgate』

大西順子オーケストラや、サックスアンサンブルグループ「SAXOPHOBIA」、ベーシストの須川崇志とのデュオ「Oxymoron」など多岐に渡る活動で日本のジャズシーンになくてはならないサックス奏者、吉本章紘

彼が治田七海(トロンボーン)、冨樫マコト(ベース)、林頼我(ドラムス)という若手有望株とカルテットを結成。今まで聴いてきたジャズとは、似ても似付かぬアプローチで結成当初から注目していましたが、現時点での成果をさっそく発表してくれました。
1度聴いただけでは、その全体像を掴み取る事は困難、しかしだからこそ面白い。この泥沼に嵌れば到底抜け出せません。豊富な経験を誇る吉本に、物怖じせずに果敢に攻める若手3人の切れ味鋭い演奏の生々しさを、最近、新しい音に飢えている方に特に聴いていただきたいです。

・Kejime Collective(山田玲)『Counter Attack』

個人的に結成当初から追っかけていた、ドラマーの山田玲率いる「Kejime Collctive」が2021年のライヴ録音盤に続いて、ついに初のスタジオアルバムをリリース。日本のジャズに特化したレーベル、「Days of Delight」から発売されました。

山田の勇壮でキレのあるドラムが牽引して、国内有数の実力を持つメンバー達が、120%の力を発揮して圧巻の演奏を聴かせてくれています。
また、演奏だけでなく、“A.I.”といった楽曲から、山田の作曲センスの高さも味わえる逸品。
広瀬未来(トランペット)、高橋知道(サックス)は主に関西、ピアノの渡辺翔太は名古屋、ベースの古木佳祐、そして山田が東京を中心に活動しています。日本各地でキーになるプレイヤーがしっかり活躍してシーンを盛り上げていることがよくわかりますし、その面々が一堂に会して、このように活動しているのも、とても喜ばしい事です。

あと、彼らのライヴは爆笑必至です。

・平倉初音トリオ『Tears』

関西で高校生時代から注目され、その後、バークリー音楽院に留学、帰国後に上京するやいなや、瞬く間に人気ピアニストの仲間入りを果たした平倉初音。そうなるのも納得の技量とジャズフィーリングを持った素晴らしいピアニストです。

彼女の初リーダー作は東京・六本木の老舗ジャズクラブ、「Alfie」のレーベルからの発売。しかもレーベルの記念すべき第1作というところに平倉への期待の高さが伺えます。ベースに若井俊也、ドラムスは先述の中村海斗という磐石の布陣。
ライヴ録音の臨場感も相まって、平倉の力強くも華麗なドライブするピアノと、リズムセクションの引き締まったサウンドがピアノトリオの醍醐味を体現しています。表題曲の3部構成の組曲、ラストにジャズスタンダードの“But Beautiful”を持ってくるアルバムの流れもよく練られていると思います。

【+α】

今後、とても楽しみな3人のミュージシャンを紹介します。2023年、名前を聞く機会が増えそうです。

・秩父英里『Crossing Reality』

バークリー音楽院で学んだ秩父絵里はピアニストとしてはもちろん、作編曲、ラージアンサンブル編成でその才能を存分に発揮。すでにさまざまなメディアの楽曲も手がけている期待のホープです。

デビュー作となった本作では石若駿マーティ・ホロベック(ベース)のリズムセクションを軸に、西口明宏(サックス)や駒野逸美(トロンボーン)など、国内屈指のミュージシャンを要して自身の表現を明確に提示。迫力あるアンサンブルと緻密な楽曲構成に唸らされます。
世界のジャズシーンではラージアンサンブルでのアプローチが盛んですが、ここ日本でも、その表現に優れたコンポーザーがまた1人登場した事を示しています。

・小西佑果『It Was'nt Over/ループ』

国立音楽大学在学中から活躍し、卒業後はさらにその活動が本格化し、菊地成孔との共演などでジャズシーンにその名が広まってきているベーシストの小西佑果。自身のリーダー名義として、初の音源を昨年リリースしました。

壷阪健登(ピアノ)、高橋直希(ドラムス)という現代日本のジャズシーンの要注目プレイヤーとのトリオで生み出す音世界は、美しい情景を想起させるもので、いつかまとまったアルバム形式で、この音に浸りたい気持ちが高まります。
プレイヤー、コンポーザーとしての才能は折り紙付きなので、今後さらに活躍の場を広げる事でしょう。

・草田一駿『Flumina』

FUJI ROCK FESTIVALへの出演で、ジャズリスナー以外にも認知度を広げたピアニストの草田一駿。枠にとらわれない、大胆な作風、圧倒的なテクニックで、新世代ピアニストの中でも特筆すべき1人ですが、初リーダー作でも、まさに才気爆発。

朝田拓馬(ギター)、窪田想士(ヴィブラフォン)、宮地遼(ベース)、井口なつみ(ドラムス)という若手腕利きメンバー達と、扇情的、ドラマチックな楽曲をこれでもかと繰り出してきます。各曲、様々な聴き所が散りばめられていて、激しい曲調と穏やかな曲調のギャップもとても良いです。
そして何より、草田の美しいピアノに耳を奪われます。

おわりに

2021年と2022年各5枚づつのアルバムと、最後に今後のさらなる活躍が期待される3名のミュージシャンの音源を紹介しましたが、もちろん今回紹介した作品、アーティスト以外にも魅力ある音源はたくさんあります。
冒頭のIntroductionで記載したように国内のライヴシーンはコロナ禍から、徐々に復活してきました。どんどん面白くなっている日本のジャズシーンの“現場”で、その潮流を体感してほしいと切に願います。

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