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自由に広がっていく景色 〜広瀬未来&片倉真由子『Air』リリース記念Interview & 2021/11/8 神戸100BAN HALL Live Report〜

自身のリーダー活動に加えて、大西順子とのさまざまなコラボレーションやMISIAのツアー参加など、神戸を拠点に全国的に活躍するトランペッター、広瀬未来

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昨年話題を呼んだリーダークインテットのアルバム『The Golden Mask』に続き、2021年11月4日にピアニストの片倉真由子とのデュオアルバム『Air』を、日本の熱いジャズを発信し続けるレーベル「Days of Delight」からリリースした。

『Air』アルバムジャケット

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リリース後に東京、名古屋、大阪、岡山、そして広瀬の地元である神戸を巡るツアーを決行。
今回、ツアー千秋楽である神戸でのライヴ前に広瀬、片倉の2人がインタビューに答えてくれた。
2人の共演に至る経緯や、今回の作品の事、共に演奏する事などについてお聞きした。

また、インタビューと共に筆者による神戸でのライヴレポートも併せて掲載し、熱演を振り返る。

広瀬未来&片倉真由子 Interview


「(広瀬未来は)腹をくくっている人」(片倉真由子)

-お二人が初めてお会いしたのは共にニューヨークにいた頃だそうですね

(広瀬)初対面の印象は、この人、「めちゃくちゃジャズ好きなんやな」ということですね。最初に会ったのは当時ニューヨークで活動していた長谷川朗さん(※1)の家でセッションした時かな。
(片倉)音楽の印象は最初から、もちろん強かったけど、とにかく、この人は「強い人」だと思いました。
精神的にも肉体的にも「腹をくくっている人」というか。
立ち振る舞いから何から、普段の人柄から感じる印象が、そのまま音に直結している人です。そういう人って、私が知っている中でも、なかなかいないです。


-ニューヨークから日本に帰国してから初めての共演機会は「NHK SESSION」の収録だったとか

(広瀬)トランペットを中心とした企画セッションでした(※2)。
(片倉)その時に共演して、またぜひ一緒に演奏したい!と思って、自分のクインテットでのライヴに誘ったのが共演するようになったキッカケです。


-吉本章紘さん(Sax)、金森もといさん(Bass)、山田玲さん(Drums)との「Body and Soul」で行われたクインテットのライヴですね(※3)
そのライヴが東京であると知った時、私もすごく聴いてみたいと思いました

(片倉)そうそう、その機会に広瀬くんとぜひ演奏したいと思って。
(広瀬)NHKセッションの時に演奏した時の事はよく覚えています。“Milestones”を演奏した時、うわ、この人すげえぇぇ、超楽しいと思ったのを今でも覚えています。
だから、その次の日に早速、片倉さんからライヴに誘ってもらえたのは、とても嬉しかったです。

ジャズミュージシャンの性質として、共演して楽しくて、またやろう!となって本当にまた共演したいなぁと思っていても、スケジュール調整などでなかなか実現が難しいことが多いし、腰が重くなるということが多々あるんですけど、そのクインテットのライヴの時に「Days of Delight」のファウンダー/プロデューサーである平野暁臣さんがいらっしゃって。
(片倉)私のクインテットのライヴを聴きにきてくれていた平野さんが、広瀬さんの演奏を初めて聴いて、「なんだ、この人は!」と驚いていたのを覚えています(笑)
(広瀬)そのライヴ後、すぐに平野さんから、「君の作品を録ろう!」とおっしゃってくれて。
初めて会ったのに(笑)

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「あ、いい景色だな」(広瀬未来)

-本格的にお二人が共演するようになったのは、まだここ数年のお話なんですね
それなのに、ずっと前から共演しているように、相性ピッタリです
デュオの演奏って、それぞれの演奏の負担もなかなか大きく、難しい部分が多いのではないですか

(広瀬)デュオだからといって、普段と変わらず、いつも通り楽しく演奏するようにしています。
難しい、という事はあまり思った事はないですね。
それぞれの編成で、それぞれの良さがありますし。
(片倉)ベースやドラムスがいないから、もちろん大変な部分はあるけど、デュオをやっている、伴奏をしている、という感覚はあまりなくて。いつもそうなんだけど、広瀬君とは特にその感覚はないです。
一緒に音楽を作っていく、という感覚かな。
(広瀬)前作『The Golden Mask』のレコーディングで真由子さんとデュオで“Day of Wine and Roses”を演奏した時に、「あ、いい景色だな」と感じて。このデュオで定期的に演奏できたら良いなと思って、実際に今年の4月にツアーを行いました。ひとまずツアーを開催とだけ思っていたら、またまた平野さんから「よし、録ろう!」と後押しがあって(笑)
でも、ミュージシャン同士なら、録れたらいいな、でもまた今度かな、と思う所で、平野さんのように重い腰を上げてくれる方がいるのはありがたい事です。

-岡本太郎さんのアトリエでの録音について教えてください
レコーディングスタジオではない、アトリエでのレコーディングというのはどのような感覚なのでしょうか

(広瀬)太郎さんのアトリエ、すごくやりやすいんですよ。あと、普段はあまりない事なんですけど、朝、アトリエに入った時に、すごく刺激をもらえるんです。さまざまな太郎さんの作品が飾られていているから、色彩が豊かというのもあるのかな。
レコーディングスタジオでないので、リラックスして臨めるというのもあるかもしれません。
(片倉)堅苦しくならないですね。レコーディングしている、というよりセッションしている感覚に近かったです。何度か録り直すということも、ほとんどなかったし。


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-アトリエにある岡本太郎さんが弾いていたピアノ、とても素敵な音です

(片倉)すごく良い音。あたたかい音がする。とても好きです。私の演奏と、このピアノは相性がいいんだと思う、自分のやりたい事が出やすいのかな。
例えば、同じボイシングをいろいろなピアノでしてみても、その中でも特に、このアトリエのピアノがすごくしっくりくるんですよ。なんでだろう、このピアノが持っている音と、私の出したい音がシンクロして、自分の中でイメージした音が出来上がっていくような感覚になっているからかな。


-前々から片倉さんは岡本太郎さんの作品がお好きですよね

(片倉)ドキュメンタリーの「明日の神話」を見て感銘を受けてきたし、太郎さんの本はニューヨーク在住時代もよく読んで影響を受けてきたから、こういった形で縁が繋がるのは不思議ですけど嬉しいです。


-今回のツアーを振り返って、印象に残る事はありますか

(広瀬)いろいろな話をして、価値観を共有したし、新たな発見もあったし、実りのあるツアーでした。
とどのつまり、練習しよ!と思いましたね(笑)
(片倉)広瀬君って、本当に型にとらわれない人なんです。私は型にとらわれがちなんだけど。
彼は何も言わないけど、自然と型にとらわれないように引っ張り出そうとしてくれている、いや、意識してそうしていないかもしれないけど、価値観も似ているんだし、何をやってもいいんだというように、さらに思うようになりました。


-タイトル曲の「Air」はピアノに包まれるように作ったという事とお聞きしました

(広瀬)好き勝手に演奏している私を真由子さんのピアノが包んでくれるようなイメージで作りました。

デュオって、すごく好きで。特にピアニストとのデュオは最高ですね!ピアニストの美学が1番見えるし、ピアノってオーケストラのようなものですから。5本づつの指で私の演奏をオーケストレーションしてもらっているような感覚なので、とても贅沢な時間です。

-今後このデュオでやってみたい事はありますか

(広瀬)題材はどんなものでも2人の方向性はブレないので、オリジナルでも、スタンダードでも、何でも取り組んでいきたいです。
何より大事なのは、2人共健康に(笑)、これからも継続的に共演していけるようにしていきたいです。
(片倉)広瀬君とは何をやっても新鮮だから、どんな事をしても楽しいけど、ジャズミュージシャンズオリジナルの曲、例えばジョー・ヘンダーソンやウェイン・ショーターの曲をやってみたらどうなるのかなというのは楽しみの1つで、リハーサルしてみたいなという気持ちもあります。彼とは今後もデュオだけでなく、いろいろな編成で末永く(笑)、共演していけたらなと思っています。

※注※

※1  長谷川朗
現在、大阪谷町9丁目のジャズ喫茶「SUB」の2代目店主であるサックス奏者

・「SUB」ホームページ


※2  「NHK SESSION」
広瀬と片倉が日本で本格的に初共演したのは、2017年12月30日放送回。
広瀬は「TRUMPET SUMMIT FOR JAZZ CENTENNIAL 」という企画セッションに参加した。
ちなみに“Milestones”の演奏メンバーは下記の通り

Trumpet…広瀬未来、石川広行、類家心平、曽根麻央
Piano…片倉真由子
Bass…須川崇志
Drums…石若駿


※3 「BODY & SOUL」での片倉真由子クインテット
広瀬が片倉のクインテットに参加したライヴは2018年10月1日、当時は東京南青山(現在は渋谷に移転)の「BODY &SOUL」で開催された。


Live Report(2021年11月8日 神戸100BAN HALL)

デュオとしては2021年4月以来の神戸公演。
その時のツアー後すぐに『Air』をレコーディングし、わずか数ヶ月後にこのようにリリースツアーの一環として、また神戸で聴けるのは嬉しい限りだ。
そして、改めて「Days of Delight」の旺盛な制作意欲と2人のイマジネーションの高まりを実感する。

ライヴが始まる直前までの広瀬と片倉の自然な佇まいが、これからのライヴの充実を予感させた。


〈1st Set〉

1.Days of Wine and Roses (Henry Mancini)
耳馴染みあるメロディーが広瀬のブリリアントなトランペットで奏でられる。2人のデュオアルバム制作のキッカケにもなった曲だけに幕開けにふさわしい。
片倉のピアノは広瀬のトランペットの音をしっかり聴いて、次の展開をなめらかに導いていく、いや共に自然と歩調を合わせて前に進んでいるようだ。

2.Body and Soul (Johnny Green)
片倉のピアノの音色のなんと深い事か。大きな音というより、芯が通っていて、地面から足元にかけて、胸に響いていくような感覚。
広瀬がそのピアノに支えられながら、熱気に満ちた演奏を聴かせる。まさに音のぶつかり合い!この曲をデュオでこんなに熱く聴けるのはなかなか珍しいのではないか。

3.Embraceable You (George Gershwin)
前曲から打って変わって穏やかに始まったが、中盤からの両者の“歌心”が淀みなく溢れ出る。ライヴで音楽が生まれていく瞬間とは、この曲での2人の演奏のような事を指すのではないかと思った。

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4.Sunlight (Miki Hirose)
広瀬が今回のアルバム『Air』で披露しているオリジナル曲の1つ。彼らしいポジティブなフィーリングが曲の端々から香り立つ。自己の表現を堂々とトランペットに乗せる広瀬と、その表現に対して純粋に思うままに返答していく片倉のピアノは、さながら会話を彷彿とさせる。

5.The Nearness of You (Hoagy Carmichael)
ストレートに原曲の持つ美しいメロディを丁寧に演奏。バラード演奏における2人の持つ音色の美しさが際立つテイクだった。

6.Splankey (Neal Hefti)
広瀬が「D ♭でいきましょうか」と言って、ブルースフィーリング溢れるブロウを快調に吹く。片倉も嬉々としてブルージーなピアノを弾き、さらに演奏の厚みを増していく。とっさにカウント・ベイシー・オーケストラの曲を取り上げるあたり、広瀬のルーツの一部を垣間見たような気がした。

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〈2nd Set〉

1.I'll Remember April (Gene DePaul)
ピアノから曲に入り、情景を浮かび上がらせていく。片倉のピアノが曲のコントラストを豊かに描き、広瀬がそこにさらに色彩を加えていく。

2.Invitation (Bronislaw Kaper)
アルバムに収録されているよりも速いテンポで演奏された。イマジネーションが次々と湧き起こる2人の激烈な演奏によって、聴衆の心はさらにぐいぐいとステージ上に引き込まれていった。


3.Air (Miki Hirose)
片倉のピアノに包まれるようなイメージで作ったという広瀬のオリジナル。
柔和な広瀬のトランペットと、それに寄り添うようになだらかな片倉のピアノが織りなす音の風景はとても温かい。2人は曲毎にさまざまな音の表情を見せてくれる。

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4.Woody 'n' You (Dizzy Gillespie)
著名なジャズスタンダードナンバーも2人の演奏だと、フレッシュな感覚で耳に入ってくる。偉大なトランペッターの先達、ディジー・ガレスピーの曲だけに広瀬のトランペットも存分に歌い上げる。

5.Spartacus  Love Theme (Alex North)
今回のライヴの珠玉の演奏の中でも特に印象深いテイク。
それぞれの演奏時の呼吸が聴き取れるほどの情感を込めた演奏に心打たれる。呼吸が聴こえるというのは、観客も集中して2人の演奏を聴いていた証拠だろう。
この曲の新たな名演のひとつとして、また、このデュオの素晴らしさを明確に表現する曲として、深く記憶されるのではないだろうか。


6.Drifitin(Herbie Hancock)
ハービー・ハンコックのご機嫌なナンバーで締めくくり。2人の演奏に制約はなく、自由に楽しく、ひたすらジャズの面白さを体現する。


〈Encore〉 

In A Sentimental Mood 
(Duke Ellington)
曲が始まって、ハッとなった。
デューク・エリントンとジョン・コルトレーンの邂逅による名作『Duke Ellington & John Coltrane』でのエリントンの印象的なピアノフレーズが片倉の手によって演奏される。この名演に最大のリスペクトをし、エリントンを心から愛する片倉だからこそ、その音の情感の深さが心に沁み渡る。そして広瀬も渾身の演奏で名曲の旋律を歌い上げる。メランコリックな表現力でも圧巻のプレイだった。


広瀬がMCで「我々も、もう若手と言われるより、中堅と呼ばれるような年代になった。中堅だからこその安定した演奏、と評していただくこともあるが、それが演奏が固まっていて発展性がない、という意味にならないようにしたい」と話していたが、広瀬と片倉の演奏はこれからも凝り固まる事なく、創造性豊かで刺激的な演奏を繰り広げてくれる事だろう。

Interview,Text &Live Photo:小島良太
各種資料提供:Days of Delight


〈広瀬未来&片倉真由子『Air』リリース情報〉

タワーレコード


Amazon


ディスクユニオン

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008382776

〈『Air』デジタル配信〉

Spotfiy


Apple Music

〈『Air』アルバムトレーラー〉


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