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駅のホームのへりに立ち、遠ざかっていく電車の後ろ姿に手袋をした親指をあてる。羽虫でも押し…
ある秋雨の日、十七歳のわたしは音楽室でピアノを弾いていた。ドビュッシーの『夢』だ。窓に流…
日が長くなったのと、このところ感染症が流行している影響で、明るいうちに帰宅することが増え…
この作品は杉本しほさんの企画「#同じテーマで小説を書こう」に参加しています。 テーマは「ブ…
この小説は杉本しほさんとのコラボ小説です。 コラボテーマは「踊り狂うパスタ」 ーーー 今…
「私ね、実は知ってるんですよー」 「何の話? 」 「先輩、noteで変な小説を書いてたりします…
「君は死なないって本当?」 そう尋ねる少女は、先日海外から引っ越してきたという転校生だった。 帰国子女という肩書を持ち、運動神経も抜群で頭も切れる少女は、すでに少年よりもよっぽどクラスに馴染んでいた。 そんな彼女が、わざわざ少年に声をかけてきたのはあの噂を聞いたからだろう。 「そんな良いもんじゃないよ」 賑やかな昼休みの時間帯、教室に彼ら以外の姿はない。 「死にたくても死ねないんだ」 「僕はこの世界に生かされている」 少年は自嘲気味に言った。だが彼女は純粋な眼差しで
久方ぶりに訪れた故郷は、廃墟と化していた。 重い灰色にくすんだ家屋が、巨大な生き物の…
ねぇ、美山さん。……って。 最初、淀川さんに声を掛けられた時、恥ずかしいですけど、『…
「俺、飛行機は嫌いなんですよ。怖くって」 この話をすると、大抵の奴らは意外そうな目で俺を…
戦場を駆けるその人は、美しかった。 白い胴着に黒い袴で馬に跨がり、誰よりも速く荒野を駆け…
20年間、作曲家として音楽業界に携わっている私は、10年前に出したアルバムが大ヒット。グラミ…
妻は、私が科学者として得た、人生最大のプレゼントである。 私は人工知能学者だ。空前のAIブ…
かなたの日焼けした指と、私のヘビのように白い指が絡まり、描き出すしまもよう。 南から吹く風は生暖かく、防波堤に寝転ぶ私たちの身体をゆるく包み込んでは、べたべたと潮を含ませ、消えていく。午後の気怠い光に、海の水は油を流したみたいに穏やかだった。風は、ちょっとの波も立たない海に愛想をつかしたのか、すっかり止んでしまい、降り注ぐ太陽の光に焼かれる私たち。 お尻の下では、じゅぅと音を立てて、水が蒸発し、鉄板みたいに熱されたコンクリートが作り出す、人間のホットケーキ。 バターみ