ベテルギウスが超新星爆発!?お騒がせニュースの悪根源
こんにちは、りょーです。
コロナウイルスの報道でデータを見る機会が極端に増えた今日この頃。何が正しくて、何が間違っているかを見極めるのが難しいですよね。
色々な情報に惑わされる時が多い。。。
テレビやネットにそのような紛らわしい情報が溢れかえる原因は、報道する人間がそれを理解できていなくて、曖昧にぼやかした表現を使って、目を引く話し方で伝えるからです。
この状況下で問われるのが、「データリテラシー」。データをしっかりと理解できるかどうかの指標のようなものです。このデータリテラシーの欠如が問題視されています。
データリテラシーと一言で言っても、データそのものをどうみるかだけでなく、見た情報はどこから来た情報なのか?何が元になっているのか、を考えることも大事です。
これを最近は「一次情報」という言葉で著名人が発信していることが多いです。一次情報にアクセスすることで、他人の変な解釈を挟むことなく情報に触れることができるという点で、重要視されています。
オリジナルの情報は正しいのに、そこから伝言ゲーム的に言っていることがずれていき、ネットニュースなどになることが問題なのです。
そこでここでは、データリテラシーの重要性を、この「一次情報へのアクセス」をベースに見ていきましょう。
例として、数ヶ月前に話題に上がったベテルギウスが超新星爆発を起こすのか!?と世間が盛り上がった話を考えます。
情報の出どころである「一次情報」まで遡ってアプローチすると、末端で我々が触れる情報との違いがあることがわかります。
そもそもベテルギウスが爆発するという話ってなに!?
少し前に宇宙のある星のデータから、ある噂がたちました。
それが「ベテルギウスが超新星爆発をするらしい!」という話です。
超新星爆発とは、主に太陽のような星が進化していって、最終的に死ぬ間際に起こす大・爆・発のことです。
宇宙は非常に広いので、何千光年、何万光年離れた場所ではいくつも見つかっているこの現象。しかし、こんなに近くで(600光年くらいww)発生するなんて数百年~千年に1度のレベルの大イベントです。
そしてベテルギウスという星は年老いた星として知られていて、こいつがこれまで見せたことがない明るさの変化を見せたため、まさか。。。という話が上がったのです。
日本国内のテレビで特集されるだけでなく、世界中の人がSNSや報道でとりあげるくらいにまで注目を集めていたのですが、実はこれ、科学的根拠が全くないデマなんです(もちろん起きないとは言えないですが...)。
この記事で何が言いたいかというと、世の中のデータリテラシーが低すぎるのではないか、と言うことです。
爆発するなんて科学者は言ってないし(証拠がないから否定もできないが)、爆発の話を発信してるのはメディアだけ。
芸能人のゴシップで出てくる「関係者」なる人が「爆発の予兆かもしれません」なんて言ってますよ、という感じ笑
コロナウイルスの疾患者数のニュースでも「日本は検査をしていないだけだ」とか「もっと患者はいるはずだ」と言った意見がかなり見受けられます。
アメリカにいた時に、アメリカ最大規模の医療研究所NIHの研究員の友達が結構できていて(ホリエモンチャンネルで解説してた!)、彼らがウイルスがどういうもので、世界的には実際にはこういう状況で、ワクチンの開発はこうで、とかをたくさん発信してくれる。論文等のソース付きで。
そう言った方々の話と、世間の意見には結構乖離があって、根拠のない文句が蔓延しているなぁと思いました。そしてこの原因は元のデータを確認せず、感情だけで発信をしており、「データリテラシー」の低さが原因なのではないかなと思うわけです。
コロナに関する話は専門家の方にお任せするとして、今回はベテルギウスが超新星爆発するぞー!!となるまでが、どんな流れだったかをおさえておきましょう!
オリオン座の肩で輝くベテルギウス
ベテルギウスはオリオン座の左肩に輝く一等星です。
一等星とは、まぁ夜空で最も明るい星たちを総称している呼び方です。暗くなっていくと二等星、三等星となっていく感じ。一等星に分類される明るさの星は夜空にわずか21個で、そのうちの一つがベテルギウスです。
そして押さえておきたい特徴は、ベテルギウスが年老いた重い星だということです。
星は進化していく過程で、どんどん半径が大きくなっていって、巨星と呼ばれる星になっていきます。ベテルギウスは太陽の800倍~900倍の大きさまで大きくなっているんです。これはもうそろそろ死んでもおかしくないな、というレベルまで来ています。
そして重さは太陽の12倍!!めちゃくちゃ重いです。
星の進化が進んでいくと、いろんな力が働いて星がどんどん膨れていきます。そして死ぬ〜〜ってなったとき、重い星は超新星爆発というとてつもなく巨大な爆発を起こします!!
そのエネルギーは原子爆弾の10^30倍(ゼロが30個並んだ数字倍)!!笑
意味がわからないくらい大きいです。
ベテルギウスは地球から600~700光年くらい離れているのですが、割と星としては近くて、この距離で超新星爆発が見れるなんて数百年~千年に一度のビッグイベントなわけです。
もし爆発すれば満月ぐらいの明るさみ見えて、昼でもその姿が確認できるほど明るく輝くとか。
これにみんなワクワクしている状態です。
過去に超新星爆発が地球近傍でおきたことが記録に残っています。それは遥か昔の西暦1230年!
藤原定家が「明月記」という書物に「西の空に見慣れない星が現れた。不吉な印だ」と記録を残している。
これを現代の観測と照らし合わせると、超新星であったことがわかっています。
このように、昔の人も驚くほどの現象が起きる可能性を秘めているのがベテルギウスなわけです。
こいつがいつもと違う動きを見せたら、たしかにテンションが上がるのはわかります。ただ、データみてみようよっていう話が今回のメイン!笑
いつもと違う動きってなに?
ベテルギウスは普段から明るさが変動しているが、今回は過去に比べて大きく減光する動きを見せました。
上のグラフは、縦軸に明るさ、横軸に時間をとっていて2014年9月-2020年4月までの変動を示しています。
これを見ると一目瞭然で、今年の変動は異常に大きく、暗くなっていることがわかります。
いつも元気な友達が、いきなり暗い顔をしてたら「どうした?」ってなりますよね?そんな感じです笑
デマが広がっていく時系列を追う!
この大きな変動を見つけたアメリカ人研究者が投稿した、天文系の速報論文サイトへの記事が発端で、ベテルギウスは注目を集めることになります。
この減光のニュースを見た時に、正直私もワクワクしました。
明るさが変わる星だとは知っていたが、いきなりそんなに暗くなることがあるのか?と思いましたね。
そんな中「これは超新星爆発の前兆です!」みたいなことが広まりはじめていて、純粋に誰か天文学者が、何か理由を見つけて言っているのかと思って当時からニュースの出所を追っていました。
ベテルギウス自体が年老いた星で、理科の教科書にも爆発するかも!?なんて書いてある星ですから、確かに超新星爆発を起こす可能性がなくもないのです。しかし、どうも流れが変だなと。。。
少なくとも、どこの研究者もそんなことを名言していないのに、「超新星爆発の前兆」というワードだけが一人歩きしているような感じがしたんですね。
仕事で周囲の研究者とこの話になっても、みんな冷静に「そんなことないだろ」というような感じ。みんな冷静すぎて自分が恥ずかしくなるぐらい笑
誰も超新星爆発を疑う雰囲気がないのに、なぜか巷では話題をかっさらう不思議天体になっていたんです笑
では、最初に報告が上がったところから時系列を見ていきましょう!
一番最初、ベテルギウスがこれまで知られていた明るさより暗くなっているぞ!?という報告がされたのが2019年12月08日。
この時は、特に注目を集めるほどではなかったようです。
天文の世界では、2,3倍の変化はあまりみんな気にしない性格なので、注目されないのもまぁ納得です。
そこから約2週間後、さらにどんどん明るさが下がっていきます。
さらに温度まで下がって来たとなると、星自体の状態が変わっているのでは!?という憶測が立ち始めます。
研究者は明るさが変わったぐらいじゃ騒がないですが、何かが起きていそうな気配があってここから他の観測所が観測をし始めたりがちらほら。
この観測所の動きを察知してか、最初のニュースが徐々に浸透し出したのか、このあたりで超新星爆発の予兆か!?というニュースも出て来ました。
そして年明けくらいには情報が爆発していて、ベテルギウスはもう超新星爆発を起こす!という風潮になっていました。
私がニュースを追っていた感覚だと、年末年始のネットニュースが多く見えたので、休みの人が多いところに、話題性の強いこれを引っ張ってPV数()サイトの閲覧数)を稼いでいたと見ています。
ここで問題なのが、私が調べていた範囲で、専門家が公式に「これは超新星爆発の予兆です」と言っている記事は日本語媒体も英語媒体もありませんでした。
しかしメディアを覗けば「専門家曰く。。。」という感じ。しかしどんなに詳しく書いているメディアも、参照している文献は明るさの報告をしている速報論文のみ。その専門家だれやねん!出せや!って感じです。。。
知っている先生がインタビューを受けていたのも見ており、
「ベテルギウスのこの変動は超新星爆発の予兆ですか?」と聞かれて
「前例がないので、違うとは言えませんが。。。」と答えると、メディアで扱われるときはまるで「Yes」かのように扱われていました。
このように、今回のベテルギウスのお話は単に明るさが異様に暗くなったことをきっかけにした「PV数稼ぎのこじつけニュース」ということです。
問題点としては、webメディアの信憑性が低いのはまだわかるが、これに流されて地上波(NHKも含む)でも特集が組まれていたことです。
研究者が、証拠がないとNoと言えない部分に付け込まれた感じでしたね。
そしてこの騒動の最後の方には、明るさが異様だと報告していたアメリカの研究者も世論に忖度し始めます笑
これ以上暗くなると何かあるかもね、、、って笑。まぁ最大限の忖度です。
結局見返していくと、しっかり報告されていたのはThe Astronomer's Telegramで明るさを報告し続けていた Edward F. Guinan博士の発信と、彼に付随して観測した観測所からの情報ぐらい。
つまり、ベテルギウス関連のニュースは、ここを参照していないとおかしい!ということ。
最終的にいくつかの論文が書かれていて、明るさも戻って来たのでベテルギウスのお騒がせニュースは幕を閉じました!
一次情報だけを追っていくと、「超新星爆発」なんてワードは一つも出て来ません。そして、地上波のニュースが信用に足らないこともわかります。
結局明るさの変化は何が原因だったのか?
今の所信頼がおける「査読論文」として出ているのは以下。
https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2020ApJ...891L..37L/abstract
この論文ではこう書かれています。
「We propose that episodic mass loss and an increase in the amount of large-grain circumstellar dust along our sightline to Betelgeuse is the most likely explanation for its recent photometric evolution.」
結局は巨大化したベテルギウスの質量(まぁ表面のガス)が剥がれて失われた、または、粗くて大きい粒でできた塵(宇宙空間を漂うガスとかカスの塊)がベテルギウスと私たちの間を横切ったせいだろう、ということ。
正確なことはまだわかっていませんが、こういう可能性が現状考えられるということです。
もしかして、宇宙船??なんて妄想はさておき。。。
こんなに長期間ベテルギウスを隠すほど巨大な塵の塊ってどんな規模なんだろう。そもそも、もともと暗くなるようなタイミングだったところに、タイミングよく塵が通過するなんて偶然あるのかな?
こういうところを疑っていくのも大切ですね。論文だからと言って信じてはいけないことはブラックホールの写真でも、歴史的にも指摘されていることですから。
個人的には今後他の説明が色々と上がってくるような気がします。
もしもっと言い切った結果等が上がれば、追記していこうと思います。
追記した時はTwitterでお知らせするので、フォローお願いします!!
まとめ
まぁしかし、このデータを見る力っていうのは一朝一夕で伸ばすことができるものでもありません。
しかし、ニュースで見たものを多角的にみる「クリティカルシンキング」や、自分でもう一段深く調べて見ることで、物事の見方は変わり、精度も上がります。そういうところから基礎をつけていければいいと思います。
コロナウイルスのニュースに関しても、私の知り合いの医学研究をしている方が論文を元にSNSで発信してくれていますが、それらはかなり信頼度が高く、突拍子も無いことが言われることもない。
しかもこれらの情報と、テレビやネットで見る情報との乖離がすごい。。。
SNSや、一次情報へのアクセスを意識して、しっかりとした情報を見ていきていきましょう!!
私も頑張って一次情報を元にした発信を心がけていこうと思いました。
そして、一次情報にアクセスする手段の一つは「英語」です。論文は基本英語で公開されます。日本で起きることより海外で起きる事柄の方が母数から見て明らかに多いわけですから、英語ができれば一次情報へアクセスするには手っ取り早いです。
私の英語を身につけて来た経緯についての記事は以下ですのでどうぞ!
今回はベテルギウスという星の詳しい話をしていきましたが、私の専門も恒星の研究です。研究結果はいわゆる「一次情報」にあたるものなので、よければ研究内容ものぞいてください!
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