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不死の狩猟官 第19話「休息」

あらすじ
前回のエピソード

魔都品川区奪還作戦が無事に終了した後、第三強襲課の各員には一週間の特別休暇が付与され、各々は思い思いに休暇を過ごしていた。
しかし、休日であるにも関わらず、プリン色の髪の若い男は黒スーツにて赤坂駅の構内に来ていた。

霧崎「壬生先輩が言ってたロッカーってのはどこだ」

平日早朝の赤坂駅には慌ただしく動き回る人々で溢れていた。大勢の人々がスマートフォンを手に持ち、早足に行き交う。時には観光客も訪れている。地図を手にした人たちが周りを見渡しながら自信のない足取りで歩いている。
霧崎は人混みの間を抜けながら周囲を見渡す。

霧崎「あった。あれか」


コインロッカー Copyright © 2023 不死の狩猟官


コインロッカーは静かで落ち着いた場所にあった。人々が忙しく行き交う中、コインロッカーの周辺だけは穏やかな雰囲気が漂っている。
霧崎はコインロッカーの前に立ち止まり、ジャケットのポケットからひとつの鍵を取りだし、ロッカーの扉を開ける。

霧崎「ランドセル……」

ロッカーの中には真新しいピカピカとした深紅のランドセルがひとつだけポツンと置かれていた。
霧崎はそのかわいらしいランドセルを見て、表情が曇った。

霧崎「家族想いの優しい人だ」

霧崎はそう言って、浮かない表情のままランドセルを取り上げる。すると、丁度そのときだった。ロッカーの奥からかすかに振動音が響く。音がする方を見てみると、一台の携帯電話が鳴動している。おそらく壬生の物だろう。
霧崎は眉をひそめながらロッカーの奥から携帯電話を取りだし、画面に視線を落とす。

霧崎「二階堂……? 誰だ」

携帯電話の画面には、数十件の不在着信の履歴とともに、二階堂という人物からの着信が表示されている。
霧崎はしばし出るかどうか迷いながらも、おそる恐る電話に出る。

二階堂「ようやく繋がりました」
霧崎「……」
二階堂「壬生先輩?」
霧崎「残念だが、壬生先輩は死んだ。あんた誰だ」

声から察するに、受話器の相手は若い女性のようだ。鈴の音のように涼しく凛とした声色から実直な印象を受ける。

二階堂「そういう貴方こそ誰ですか」
霧崎「俺は国家不死対策局 第三強襲課 十等狩猟官の霧崎だ。壬生先輩とは死ぬ直前まで一緒に行動していた」
二階堂「同僚の方でしたか。では、壬生先輩の訃報の噂は本当に……」
霧崎「残念だが、本当だ」

霧崎は携帯電話を片耳に当てながら静かに頷く。
受話器の相手はしばらく押し黙った後、心を落ち着かせるように深く息を吸いこんだ。そして、穏やかな声色でこう言った。

二階堂「お世話になった壬生先輩が亡くなったことは本当に残念です。でも、不思議です」
霧崎「?」
二階堂「なんだか貴方とは近いうちに出会う気がします。でも、きっと、いい出会い方ではないと思います。私の勘、よく当たるんですよ」
霧崎「はあ」

霧崎は携帯電話を片耳に当てたまま、やや呆れ気味にぽかんと口を開ける。
二階堂と名乗る若い女性はかわいいらしくクスっと笑う。

二階堂「すみません。そういえば、自己紹介がまだでしたね。私は国家不死対策局 京都支部 戦略人材課──」

その時だった。とつじょ音声がプツリと途切れ、受話器からプープーと虚しい機械音が流れる。
携帯電話の画面を見てみると、充電切れによる強制終了をしているところだった。

霧崎「結局、何者だったんだ。ま、いっか」

霧崎は朱色のランドセルを右肩に担ぎ、壬生が残した携帯電話をポケットにしまうと、赤坂駅を後にした。



駅から出た後、霧崎は最寄りのコンビニに立ち寄り、店員から不要になった空の段ボール箱を貰っていた。

霧崎「さすがに対面では渡し辛いしな……」

霧崎は誰もいないイートインスペースの片隅でそう呟きながら、段ボール箱に朱色のランドセルと携帯電話を詰めこむ。そして、最後に一枚のメモ書きを添えると、段ボールの封を閉じ、店員に梱包物を手渡した。

霧崎「壬生先輩、約束はちゃんと果たしましたよ」

コンビニから出た霧崎は空を見上げる。
空は青く、雲ひとつない快晴だった。風が心地よく吹き抜け、桜の花びらが舞い、太陽の光が温かい。まるでこれからの出会いを予感させた。

第19話「休息」完
第20話「焼肉だよ」

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