不死の狩猟官 第26話「二階堂と東雲」
あらすじ
前回のエピソード
霧崎はタコ焼を購入した後、京都支部の門の内側に戻り、タコ焼をつまみながらしばらくナギの帰りを待っていた。
しかし、ナギが帰ってくる様子はなく、タコ焼が乗っていた船皿も遂には空になってしまった。
霧崎は空になった船皿を持ちながら、広い庭園内をキョロキョロと見回す。
霧崎「どっかにゴミ箱ねーかな」
しかし、パッと見るかぎり、趣が感じられる風流な庭園にゴミ箱があるようには見えない。少なくとも、目に見える所にはないみたいだ。
霧崎は気だるげに頭をかく。
霧崎「仕方ねえ。ちと京都支部内を探索してみるか」
霧崎はそう言って、空になった船皿を持ちながら庭園の奥へ進む。
しかし、刈り整えられた木々が緑のカーテンのように連なっているせいで、門から見た時とは違い、いまいちどこに何があるかが把握し辛い。
しばらくフラフラ歩いていると、底が苔むした浅い池の前に出た。
池の中央には、人ひとりがようやく通れる小さい石橋がつづらに掛けられていて、その先に昔ながらの石瓦と木組みでできた背が低い建物が見える。
霧崎「とりあえず、あの建物をめざしてみっか」
霧崎はそう言って、池の周りに敷き詰められた玉砂利をシャリシャリと踏みしめながら、石橋の先に向かう。
石橋を渡り切ると、せり出した長い廊下が続く古めかしい木造の平屋がすぐ前に見えた。
しかし、建物の周辺にゴミ箱は見えない。
霧崎はゴミ箱がないか聞こうと思い、入口の戸に片手をかける。
しかし、不思議なことに、戸はびくともしない。いや、そもそも、戸に手をかけている感覚が先ほどからないのだ。
霧崎は戸の下に転がるものを見て、急に青ざめる。
霧崎「なんだよ……これ」
片腕だ。肩口から綺麗にスパッと斬り落とされた片腕が、戸の下にごろんと転がっているではないか。それもだ。今まさに斬り落とされたかのように、切断口からドクドクと血が床にあふれ出ている。
霧崎はその切断された片腕が自分のものであると認識すると、途端に苦痛に顔を歪めた。
霧崎「あぁぁぁぁぁぁ」
苦しみ悶える霧崎の横から、冷めた低い声がぼそりと呟く。
「めんどくせえ。腕の一本くらいで騒ぐな。化物」
黒スーツに黒ネクタイをつけた若い少年はそう言って、日本刀に付着した血を振り払う。
霧崎は歯を食いしばりながら落ちた腕を抱え上げ、石瓦の屋根から降ってきた幼い少年を睨む。
霧崎「……こいつ狩猟官なのか?」
見た目は中学生男子といった感じだ。
肌は女性のように白く、背丈も低い。
子供特有のサラサラとした黒髪が風に揺れ、鷹のように鋭い目元にかかる。
見た目は幼い中性的な少年だけれど、日本刀を手にする少年の姿には油断できない迫力がある。
黒スーツの少年は正面に刀を構え、霧崎を睨む。
「おとなしく首を差し出せば、楽に逝かしてやる」
霧崎は鼻で笑い、斬り落とされた腕を口にくわえると、肩に掛けていた鞘から不死殺しの刀を抜く。
霧崎「よく分からねえけど、斬りかかって来るってことはよ、こっちも斬ってもいいってことだよな?」
霧崎は片手に不死殺しの刀を握りしめ、勢いよく相手の懐に潜りこみ、すばやく斬りつける。
しかし、相手もそれなりにやるようだ。互いに激しく斬り結び、打ち合いは十合以上続いた。
黒スーツを着た幼い少年はいちど霧崎から距離を取り、相手の出方を伺う。
「まさか化物にも刀の心得があるとは」
霧崎は化物よばわりに眉をひそめる。
霧崎「俺は化物なんかじゃあねえ。あんな醜いもんと一緒にすんな」
黒スーツの少年は正面に日本刀を構えながら冷笑する。
「見た目は人間そっくりだ。だが、あんたからは臭う」
霧崎「斬られる理由になってねえ」
霧崎はそう吠え、再び勢いよく駆け出し、敵に斬りかかる。
黒スーツの少年はガッカリしたようにため息を吐く。
「また同じ攻め方……所詮は化物か」
黒スーツの少年はそう言って、霧崎の頭上に刃を振り下ろす。
次の瞬間、霧崎はニヤリとほほ笑み、両手を用いた抜刀術の構えに移行する。
黒スーツの少年は大きく目を見開く。
「もう腕が再生して──!?」
霧崎はぐぐと深く腰を落とし、鞘に片手を添え、刀の柄を握りしめる。
霧崎「悪く思──」
今まさに居合斬りを放とうしたその瞬間だった。
霧崎は手から刀を落とし、力なくガクリと地面に膝を着き、吐血する。
薄れゆく意識の中、霧崎の目に見えたのは己の背中ごしから胸を貫く血ぬれた日本刀だ。
しかし、その日本刀は少年のものではない。
もうひとり別の誰かが霧崎の背中に立っていた。
「も〜油断しちゃダメでしょ、京君」
「うるさいぞ、二階堂。それから下の名前で呼ぶな。東雲と言え!」
霧崎は最後の力を振り絞り、背後から己の急所を貫いた敵の御尊顔を拝む。
霧崎「今度は……若い姉ちゃんかよ……」
女子高生くらいだろうか。
白い道着に朱色の篭手を着けた凛々しい一本結びの大和撫子が、霧崎の背から胸部に目がけて、深々と刃を突き刺しながら立っていた。
白道着に小麦色の肌がよく映える純とした若い女子は霧崎の視線に気づくと、少年との会話を止め、意識朦朧とする霧崎に優しくほほ笑む。
二階堂「怨まないでくださいね。化物を殺す。それが私たちの仕事なので」
二階堂と呼ばれる若い娘はそう言うと、霧崎の背に乱雑にドカッと片足を掛け、霧崎の胸を貫いていた血ぬれた日本刀をずずっと引き抜く。
霧崎はドサッと地面に倒れこむと、打ち上げられた魚のように、苦しそうにパクパクと口を動かす。
霧崎「お前ら……狩猟官だろ……どうして」
霧崎は弱々しくそう吐き捨てると、重い瞼を閉じ、息を引き取った。
第26話「二階堂と東雲」完
第27話「油断したら死ぬ」
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