不死の狩猟官 第27話「油断したら死ぬ」

あらすじ
前回のエピソード


黒スーツの少年は、軒先に無惨に転がる男の死体を見下ろしながら、気だるそうに刀を鞘にしまう。

東雲「死んだか」
二階堂「それにしても、こんな人間そっくりの化物、初めて見た」

短い黒髪を結った白道着の女はそう言って、興味深げに死体を見下ろしながら、刀を鞘にしまう。
東雲は死体に背を向け、鞘に収めた刀を肩に掛け、古びた瓦屋根の建物へ歩み出す。

東雲「俺は宿舎に戻るぞ」
二階堂「さて、私も帰りま──」

二階堂もまた死体に背を向け、宿舎に戻ろうとした時だった。
一陣の風が二階堂の黒髪を揺らした。

東雲「!?」

東雲は背後に殺気を感じ、とっさに振り返る。
どういうことだろうか。今しがた斬り殺したはずの霧崎がまるで何事もなかったかのように、目の前に立っているではないか。
霧崎は不気味にほほ笑みながら、不死殺しの刀を振り上げる。

霧崎「あばよ」

霧崎はそう言って、迷いなく東雲の頭上に刃を振り下ろす。
だが、次の瞬間、キィィィィンと耳をつんざく鋭い金属音とともに、火花が勢いよく散った。
振り下ろした刃は弾き返され、霧崎は思わず後ろにのけぞる。
いつの間にだろう。刀を抜いた東雲が白道着の袖を風に揺らしながら、霧崎の前に立ち塞がっている。

二階堂「京君、油断しちゃだめでしょ」
東雲「うるさい。二階堂だって油断してただろ」

東雲はそう言って、不服そうに二階堂の背を見上げながら、鞘から日本刀を抜く。
霧崎は目を丸くしながらしばらく女剣士を見つめ、ため息を吐いた。

霧崎「……たく、仕方ねえ」

霧崎はそう言うと、おもむろに刀を鞘に収め、深く腰を落とした。
空気が張り詰める。
東雲は眉間に皺を寄せる。

東雲「あれは居合……?」
二階堂「へぇ〜おもしろい」

二階堂は不敵な笑みを浮かべながらそう言うと、静かに刀を鞘に収め、深く腰を落とした。
霧崎は居合の構えをとりながら、眉をひそめる。

霧崎「なんのつもりだ」
二階堂「実は、私も居合には自信がありまして。ひとつ、居合勝負といきませんか?」

互いに腰を落としながら、鞘に収めた刀の柄を握りしめながら向き合う。
東雲はやれやれと首を横に振り、鞘に刀を収める。
心臓の音が聞こえるほどの静寂が続く。
遂に、ふたつの影が交錯する。



勝負は一瞬だった。

霧崎「んだよ……それ」
二階堂「切捨御免──」

キンと、二階堂は刀を鞘に収める。
次の瞬間、空高く打ち上がった不死殺しの刀が弧を描きながら地面にドスッと突き刺さり、霧崎の全身から血しぶきが噴き上がる。
霧崎は呆然と立ち尽くす。
その両腕は塵のように消し飛んでいた。

霧崎「どっちが化物だよ……」

二階堂は振り返り、鷹揚とした態度で霧崎を見下ろす。

二階堂「おや、首も刎ねたつもりでしたが、まだ残っていましたか」

二階堂はそう言うと、再び鞘に片手を添え、刀の柄を握りしめ、さっきよりも深く腰を落とす。
東雲は気だるそうに軒先の縁側に腰を下ろし、あくびをしながら勝負の行末を眺める。

東雲「あの化物、終わったな」

二階堂は居合の姿勢をとりながら、霧崎に冷たい視線を向ける。

二階堂「こんな練習用のなまくら刀では、実力の一割も見せられないのが残念です」
霧崎「あれで本気じゃないのかよ……」

霧崎は相手の卓越した技を見て、次はないと悟り、青ざめながら次の一手を思考する。
背を見せて逃げることも頭によぎった。しかし、すぐに斬り殺されるだろう。
ならば、方法は一つしかない。玉砕覚悟で突撃あるのみ、霧崎はそう考えた。
幸い、目の前には不死殺しの刀が転がっている。両腕がなくとも、口で拾い上げればいい。
霧崎がそう覚悟を決めた時だった。
二人の間に、バンッと、銃声らしき音が響く。

二階堂「!?」

二階堂はとっさに音が聞こえたほうに目をやる。
二発の銃弾が自身の目と鼻の先に迫っていた。
二階堂はすばやく反転し、居合にて銃弾を無力化する。

「あかんで。弾に気ぃ取られすぎや」

刀が巻き起こした砂煙の中から、とつじょ、黒い人影が現れ、二階堂に鋭い上段蹴りを放つ。
意表を突かれた二階堂はとっさに鞘を前に出し、敵の攻撃を受け止める。

二階堂「……!」

しかし、間に合わせの防御では勢いまでは殺し切れず、二階堂は口から泡を出しながら、後方に大きく吹き飛ばされる。
砂煙が晴れる。
茶色のエプロンを着けたツインテールの女性が拳銃を片手にしながら、振り上げていた片足を下ろす。

霧崎「あれは……さっきの店員さん!」

霧崎は眉を上げながらそう言って、エプロン姿がよく似合うタコ焼屋の女性をまじまじと見つめる。
東雲は軒先の縁側から腰を上げ、鞘から刀を抜き、ツインテールの若い女を睨む。

東雲「あんた、誰だ」

ツインテールの女はエプロンを脱ぎ捨て、臆せず東雲の前に出る。

天満「ただのしがないタコ焼き屋や」
東雲「お前、死ぬぞ」
天満「おーこわ。最近の狩猟官は一般人にも手を出すんかいな」
霧崎「姉ちゃん、マジで逃げろ!」

霧崎はそう言って、隣に立つ背がやや低いツインテールの女性を見下ろす。
彼女は霧崎を一瞥すると、口元からちらりと八重歯を見せながらほほえみ、拳銃を構える。

天満「安心して。私は強いから」
霧崎「は?」
天満「元国家不死対策局 大阪支部 第一防衛課 四等狩猟官 天満 ゆら、緊急時特例要項に基づき、武装戦闘を開始する──」
霧崎「え、元狩猟官……!?」
東雲「四等狩猟官だと」
二階堂「油断したら死ぬ」

二階堂と東雲はそう言って、肩を並べながら刀を構え、霧崎天満ペアと対峙した。

第27話「油断したら死ぬ」完
第28話「白髪の十字眼」

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