不死の狩猟官 第25話「たこ焼き」
あらすじ
前回のエピソード
京都支部の門の先に許可なく立ち入ったら命の保証はできない。
そう聞かされた霧崎は門を抜けた先にて足を止め、引きつった表情をしながら振り向く。
ナギは涼しい表情をしながら、霧崎を見上げる。
ナギ「冗談」
霧崎「いやいや、笑えないっすよ……」
霧崎は苦笑いしながら、無口のショートカット女子を見下ろす。
ナギは無表情のまま門を抜け、霧崎の横に出たところで足を止めた。
ナギ「でも、霧崎君は特殊な体質だから、京都支部内ではあまりフラフラしないほうがいい」
霧崎「どういう意味すか?」
ナギ「霧崎君からは少し変わった匂いがするってこと」
霧崎「やっべぇ……昨日ニンニクマシマシにしたせいか」
霧崎はそう言って、慌てて口に手を当てる。
ナギは呆れたように小さいため息を吐き、庭園の奥へ歩を進める。
霧崎もナギの背を追い、再び足を前に出す。
すると、ナギが急にピタリと立ち止まり、振り向いた。
ナギ「霧崎君は門の前で待ってて。新人たちは私が呼んで来るから」
霧崎「うっす」
霧崎はそう言って、御屋敷に向かうナギの背を見送る。
ナギの姿が見えなくなると、霧崎は門に寄りかかり、ポケットからスマートフォンを取り出す。おもむろにアプリゲームを立ち上げる。
しばらく退屈しのぎをしている時だった。
一台のワンボックスカーが門の前にゆっくり近づいてくるではないか。軽快なメロディと共に、食欲をそそるソースの臭いがほのかに香る。
「たこ焼き〜♪ たこ焼き〜♪ 本場大阪のたこ焼きやねん♪」
霧崎はスマートフォンをしまい、ワンボックスカーを凝視する。
霧崎「あれは……たこ焼きの移動販売か」
見たところ、どこにでもよくあるタコ焼きのキッチンカーだ。荷台の部分が屋台になっていて、屋根から赤い提灯が垂れ下がっている。屋台の中は人ひとりが入れるスペースと鉄板が置かれている。
キッチンカーは京都支部の門の前に停まると、運転席の窓から、ひとりの女性が身を乗り出した。
「お客さん。たこ焼き、食っていかへんか?」
笑顔がかわいらしいツインテールの若い女性だ。ひまわりのように満開の笑みと、口元から見える八重歯が特徴的だ。
白シャツに茶色のエプロンがよく似合っていて、胸元には天満と書かれたネームプレートが見える。
霧崎は財布を取り出し、キッチンカーの前に立ち寄る。
霧崎「ちょうど小腹空いてたんで、一つ貰っていいすか」
天満「おおきに。ほな、今から焼くんで、ちょい待ち!」
関西弁が板についた元気印のツインテール娘はそう言うと、運転席から荷台の屋台へ移動する。
霧崎も荷台の屋台の前に回り、たこ焼きの焼き上がりを待つ。
霧崎「京都で本場大阪のたこ焼きが食えるなんて、ツイてるぜ」
天満「ところで、お客さん狩猟官やんな? でも、この辺では見ない顔やな」
霧崎「今日は東京本部から出張で来たんすよ。でも、急に言われて来たんで、飯も食べてなくて」
天満「まったく、狩猟官って仕事はいつも急やねんなぁ」
エプロンがよく似合うツインテールの女子は、熱々の鉄板と向き合いながら口を動かしつつ、慣れた手つきで鉄板の上のたこ焼きを転がしていく。
たこ焼きはすぐにでき上がった。船皿に乗った熱々のたこ焼きが霧崎の前に差し出される。
霧崎は大阪娘の手から船皿を受け取り、お代を手渡す。
霧崎「うひょー。たこ焼きからタコの足がはみ出てるぜ」
天満「うちのたこ焼きはタコの大きさが売りやねん」
天満は八重歯を覗かせながらニコリとほほ笑み、えっへんと胸を張る。
霧崎はさっそくパクリとタコ焼きをほおばると、愛想がよい女性店員に別れを告げる。
霧崎「そんじゃあ、俺は仕事に戻るんで」
霧崎がいなくなった後、女性店員はある事に気がつき、ハッとする。
天満「おつり忘れてた! 返しにいかんと」
天満はそう言うと、車から降り、京都支部の門の前に立つ。その表情はどことなく渋い。
天満「国家不死対策局か……まさか、辞めてからもう一度、この中に入ることになるとは」
おさげ髪が風に揺れる。晴れていた空がにわかに曇りだす。
第25話「たこ焼き」完
第26話「二階堂と東雲」
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