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不死の狩猟官 第24話「京都」

あらすじ
前回のエピソード

第三強襲課に訪れた一週間ばかりの平穏は過ぎ去り、またいつもの忙しい日々が今日から始まろうとしていた。
見渡すかぎりガラス張りの巨大な駅舎の中から、黒スーツ姿のナギと霧崎が姿を現す。
駅前広場に降り立った二人の視界にまず飛びこんだのは、赤と白を基調とした大きなランドタワー。
次に視界に飛びこんだのは、地図を手にした外国人観光客たち。和服を着ている外国人たちの姿もチラホラと見える。
霧崎は初めて目にする街の雰囲気に思わず感嘆の声をあげる。

霧崎「ここが京都……意外に東京っぽいですね」
ナギ「大都市の駅前はどこもそう」

ナギはそう言って、仏頂面でロータリーの前に躍り出、右に左に視線を動かす。
ロータリーの前にはタクシーの大行列ができている。
しかし、奇妙なことに、一画だけがらんとしている。正確に言えば、青いナンバープレートを付けた黒のセダンがぽつんと一台だけ停まっている。
霧崎は眉をひそめながら黒のセダンを凝視する。

霧崎「あれは国家不死対策局の車っすよね」
ナギ「そう」

ナギは素っ気なくそう答えると、ロータリーの柵の間をすり抜け、車道の前に出た。
黒のセダンが静かに動き出す。それから、車は二人の前で停まった。
運転席の扉が開く。黒スーツに黒ぶち眼鏡をかけた七三ヘアーの男が姿を現す。

「お待ちしておりました。音無 凪 二等狩猟官」

運転手の男はそう言って、ナギに頭を下げ、後部座席の扉を開ける。
ナギは促されるように後部座席の中へ入っていく。

ナギ「霧崎君も乗って」
霧崎「うっす」

霧崎は反対側に回り、後部座席に乗りこむ。
運転手の男は二人が車に乗りこんだことを確認すると、後部座席の扉を閉め、運転席に戻った。
車が発進する。
霧崎は隣の席に視線を向ける。

霧崎「今日って、京都支部の新人を迎えに行くだけっすよね?」
ナギ「そう」
霧崎「ナギ先輩だけでもよかったんじゃあないすか」
ナギ「私は事務手続があるから。新人たちの面倒は霧崎君に任せる」

ナギは鉄仮面のような無表情で、車窓から流れる古都の景色を眺める。
霧崎は後輩の面倒を任されたことに気をよくし、ニヤりとしながら車窓に顔を向けた。
車窓の先には、朝の陽光をうけて輝く背が低いオフィスビル群が見える。交差点には、出勤するビジネスマンと着物を着た観光客が入り混じっている。
東京とは異なる碁盤の目のように入り組んだ街の外観が車窓から流れていく。

「到着しました」

運転手はそう言うと、立派な石瓦の屋根が付いた漆ぬりの門の前で停車した。
霧崎は後部座席の扉を開け、呆然と立ちつくしながら門の先を眺める。

霧崎「すげぇ……」

門の先には、都心のド真ん中にありながら、美しい古都の大庭園が広がっていた。
足元に広がる細い青白い砂、庭園を彩る青々とした木々、青木の下で優雅に流れる静謐な池、岩の配置に強いこだわりを感じさせる枯山水、長い廊下がせり出した瓦屋根の平屋──まるで教科書で見たような昔の京都の風景がそこにはあった。



ナギは後部座席の扉を開け、霧崎の横に出る。

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ナギ
「ここが京都支部」
霧崎「これが……」

霧崎はそう言って、瓦屋根が付いた漆ぬりの巨門の先に足を踏み入れる。
ナギは霧崎の背を見ながらぼそりと呟く。

ナギ「京都支部に入る前に一つ約束して」
霧崎「へ?」

霧崎はそう言って、門の先に足を踏み入れたまま振りかえる。
ナギは色素が薄い黒髪を揺らしながら、ニコリともせずに霧崎に鋭い視線を向ける。

ナギ「私の指示があるまでは絶対に中に入らないこと。いいね」
霧崎「え……」
ナギ「約束を破れば、命の保証はできないから」
霧崎「あのー、もう入っちゃったんすけど……」

第24話「京都」完
第25話「たこやき」

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