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写真集「連師子」ができるまで ー #6 オランダの光

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空港を出ると、アムステルダムは小雨が降っていた。
オランダ語の発音が分からないので、なんとかローマ字読みで行き先を覚えたり、施設放送に耳を澄ました。ただ英語が通じる方もいるので、おおよそ苦労はしないで済みそうだった。

オランダ行きの飛行機の中で、僕は一つの映画を思い出していた。

オランダの光(2003)」
レンブラントに代表される美しい光の絵画表現は、どのようにしてオランダで生み出されたのか、実際に観測し考察したオランダ映画。

至る所で見かける水辺、橋、緑、そして柔らかい光。
もし晴れた日に自転車で出かければ、きっと気持ち良いだろう。
とはいえ、前入りした僕は、宿泊先のロビーにずっとこもりっきりで過ごした。
「あの人何やってるの?」
「なんかさ、もう5時間以上ずっと何か作ってるぜ」
「ホントに?」
フロントでのやりとりが聞こえてくる。そう、僕はロビーで誰にでもなくダミーブックの製本パフォーマンスをしていた。なんとか無事にUnseen応募時以降に発展させた、最新版を完成させ、これから出会うであろう人たちへのプレゼン準備もこれで万端だ。

しかし次の日、僕は朝からソワソワしていた。
服装が気になって仕方がないのだ。グラミー賞の授賞式で、よくスピーチする「Thank you for my family support」な言葉が脳内ループする。
そう、僕は完全に舞い上がっていた。

これは、自分のストレートなドキュメンタリー作品に限界を感じていた30代の写真家が、様々な出会いや挑戦、試行錯誤を経て、写真集を国内外で販売するまでのお話です。

各国のギャラリーがずらりと並び作品を展示・販売するドーム状の建物や、書店や出版社がブースを構えて本を販売している開けた建物。
このフェスティバルの会場である公園内の池や遊歩道には、屋外展示が続いていた。
書店ブースには日本の出版社、離れた建物では「LUMIX MEETS BEYOND 2020 by Japanese Photographers #6」展が大きく展開するなど、見知った友人の活躍を遠く離れた地で見れて嬉しかった。

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「私はね、アジア地域の「新しい」ドキュメンタリー作品を探しているの」
あるヨーロッパの出版社の女性が、話しかけてくれた。
「僕の作品見てもらえましたか?ちょうどあそこで展示されてるんです。」
「本当?ノミネート作品は全部見たわよ。さ、一緒に式典に行きましょう。」

ダミーブックアワードの受賞者は、フェアの初日に発表される。
薄暗い会場。100名かそれ以上が壇上のスポットライトとバックディスプレイを見上げている。

いよいよ、2018年のダミーブックアワードのグランプリ発表です!

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UBUNTU/Rebecca Fertinel

画面に映し出されたのは、僕の名前ではなかった。
そうか。一番美しい光は僕に届かなかった。
急に自分が恥ずかしくなる。うわー。

遥々日本から来ているノミネート者だ、横で見ていた出版社の彼女にも「もしや」と期待させてしまったかなと思うと、なんだか申し訳ない気持ちになった。
この写真集は、確かに良かった。
あえて写真を分割して見せることで表出してくるドラマ、連続性、撮影時点でこれを意識していたのだろうかと思うほど、本としてシンプルな作りであってもページをめくる楽しみがあって、リズムの良い本だった。

肩を思いっきり落としながらも、僕のアムステルダム滞在は続いた。
こんな時だからこそ、得られるものは絶対に多いはず。チャンスにしたい。

僕は毎朝会場に行き、写真集の販売コーナーを物色しつつ、同会場の壁面にあるダミーブック展示をチラチラ見て、自分の作品を手にとる人を観察していた。

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どこに興味を持つのか、何をチェックしているのか、他の本を見るときと何が違うか。

あるとき、ふと、とんでもないことに気がついた。
たまたまかなぁと思ったけど、違う。あの人もそうだ。

じっくり写真集を手に取り読み解こうとする人は別として、
流し読みしようとする人は、驚くべきことに全く逆の順番で僕の本を見ていた。

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