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モノクロの景色が色味を帯び始める、そんな本に出会う 『6時27分発の電車に乗って、僕は本を読む』

この物語の行き着く先は、ただただ悲劇なのかもしれない。

なんの予備知識もなく、読み始めた本でした。

6時27分発の電車に乗って、僕は本を読む』仏題:Le liseur du 6h27

作者は、フランス人作家のジャン=ポール ディディエローラン氏。本作は、フランスで36万部を売り上げ、38カ国で販売されたそうです。しかし、才能を惜しまれながら、昨年2021年12月にガンのため59歳という若さで亡くなりました。

本書、『6時27分発の電車に乗って、僕は本を読む』。

主人公のギレンは、不要となった本を裁断しパルプに変える、パリ郊外の工場で働いています。そして、処理しきれずに機械の中に残された(生き残った)ページを、隠すように持ち帰る。そして翌朝、通勤電車の中でそのページに書かれた文章を朗読することを日課にしています。

親から与えられた彼の名前、ギレン・ヴィニョール(Guylain Vignolles)。頭文字を入れ替えると、ヴィレン・ギニョール(Vylain Guignol)、「醜い人形」になってしまう。故に、それが生まれながらの重荷となり、人目を避け、できるだけ目立たないように生きてきたギレン。

ギレン自身の行動は、一般的に共感を生むようなものではありません。早朝の通勤電車の中で、前日「救出した」ページに書かれた文章を朗読する。電車の中で脈略もないその文章を、淡々と声に出して読むのです。

ギレンはこれから、どんな運命を辿っていくのか。いえ、”運命”というほどに小説らしい華々しい展開は、期待できないように思いました。

さらに、職場の上司、同僚の下品で悪意ある行動。
工場で本を裁断する機械の、不気味さ。

灯りのほとんどないモノクロの世界観が、ずっと続くのか。しかし。

淡々と描かれるギレンの毎日の中に、少しずつ、何か温かなものを感じ始めます。

それは、友を思い、友に生きる喜びを与えるためについた嘘。他人を邪険に扱わず、他人と交流することで生きる歓びを見つける、ギレンの純粋さ。

かすかに、活字の先に色味がかかり、熱を帯びてくるのを感じた時。読み始めた頃は理解し辛かった主人公の人間味に、惹かれるようになるのです。

そして、持ち主不明の日記を拾った時から、一見はささやかでも、彼にとって大きな「冒険」が始まります。

どんなエンディングか、それは是非、本書で味わって頂きたいところです。

ギレンの人生に立ち会えたことに、胸の内に灯りがともる。
私にとっては、そんな読書体験になりました。


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