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“速読”よりも大切なこと

読書は「こなすもの」ではなく「味わうもの」

なぜだか、インスタ経由で「読書」に関する質問を寄せられることが多い。

まず、多いのが「なんでそんなに速くたくさんの本を読めるんですか?」というもの。

まあ、まずぼくがケニアでネオニート的な暮らしをしているので、読書に充てられる絶対量が多いのは間違いなくあるだろう。

一方で、強く思うのは「そもそも、本を速く読む必要なんてあるんだっけ」ということだ。

もちろん、読書をする目的にはよるだろう。卒論を書いている大学生なんかであれば、自分の研究テーマにとって必要な先行研究部分を探す意味で、拾い読み=スキミングの技術はある程度必要になったりもする。

けれど、ぼくのように「新しい世界を知りたい」くらいのモチベーションで本を読む人にとって、読書は「こなすもの」というより「味わうもの」だ。

昨日読み終えた『世界2.0 メタバースの歩き方と創り方』の終章で、筆者の佐藤航陽さんが「知ることは、創ること」と書かれていた。

その人生哲学を体現するかのように、この本の出色な部分になっているのが第三章「世界の創り方 II【生態系】」だ。カルピスの原液的な、研究者/求道者としての佐藤航陽さんの切れ味鋭い解析と言語化が炸裂してる。

「知る」と「理解」の間には距離があるが、その先に「理解」と「創造」が地続きになっている生き方は素敵だと思った。

話を「速読」に戻す。ある本を初めから終わりにかけて読み込んでいくとき、そのスピードを左右するのは速読の技術というよりも、本が主題とする当該テーマについて、そもそもどれだけの知識を持っているのか次第になる。

熟練のスポーツトレーナーはバイオメカニクスの本をスムーズに読み込んでいけるだろうが、門外漢の国際政治の本は遅々としてページをめくる手が進まないだろう。対して、大学で国際政治を専門に学ぶ学生にとって、触れたことのない生体力学の本を読み進めるのは骨が折れる。

ようは、そのジャンルの全体像、そして具体の知識やキーワードの習熟度によって読書のスピードは規定される。

もちろん、汎ジャンル的な一般論としての教養の度合いも、読書スピードに影響を与えるだろう。これが、つい最近もツイッターでもらった質問「知的体力はどうやったら上げられますか?」につながってくるように思う。

読書における「守・破・離」

「知的体力」とひと口に言ったとき、この概念が包含するものは多岐にわたる。先に触れた教養・知識も間違いなく大きな要素としてあるだろうし、アウトプットできる運用力、そもそもの前提の態度・作法にまで範囲は及ぶかもしれない。そのあたりのイメージを掴むために、千葉雅也さんの一連の著作ーーとくに最初は『勉強の哲学』『現代思想入門』はめちゃ推したい。

まあ、とっかかりのイメージとしてスポーツや筋トレを想像すると分かりやすい気がする。たとえば、筋トレもいきなり重いウェートを上げることはできないし、上半身と下半身を分けながら鍛えていく。一方で、どの種目においても体幹の強さは求められるだろうし、筋肉そのものの強さと同じくらい連動性も必要になるだろう。

読書に関していえば、以前に朝渋のイベントでしゃべったときに、自分なりの読書の「守・破・離」のスライドを用意したことがある。

「20代で身に付けたい読書術!」〜教養を学ぶ朝渋 菅原健一さん・長谷川リョーさん〜

上記のスライドで漏れてることとして、学習の最初の段階で、全体の見通しをつけてくれる適切なガイド本を熟読しておくこと。学習全体でいえば、読書猿さんの『独学大全』はオススメで、読書に関しても、

知らずに使っている最速の読書法「転読」
必要なものだけを読み取る「掬読」
読むことを考えることに接続する「刻読」
難所を越えるための認知資源を調達する「筆写」

独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法

と、類型を分けながら、それぞれの勘所を丁寧に解説している。

上記のスライドの“破”の部分で触れている「シントロピカル・リーディング」など、読書の作法と技術の種類については今も昔も『本を読む本』がオススメ。

アウトプット視点で薦めたいのは『読んでいない本について堂々と語る方法』。「ぜんぜん」「ざっと」「聞いたことある」「忘れた」それぞれの読書ステータス分けながら、根底から読書という営為や創造性のあり方を考察していく発見に溢れた一冊。

学習における「ゴール」「リソース」「パッション」

勉強にせよ、筋トレにせよ、なにか新しいテーマに時間を費やそうとするとき、個人的には「まず初めに、どんなテンション(気合い)で取り組むのか」その態度を設定するのが肝要なのではないかと思っている。

ゆるりと新しいものにとりあえず手を出すのではなく、どれくらいの本気度でそのテーマにチャレンジしたいのか。一言でいえば、ゴール設定の解像度を確かめるということだ。

ぼくなりの学習論のフレームワークについては以前「学習における『ゴール』『リソース』『パッション』」にまとめた。

で、大雑把に分けると、個人的には二つのコースがあるのではないかと思っている。ひとつは短期集中で、一気呵成に、最大効率で“ブチ抜いて”いくスタイル。もうひとつは、習慣に落とし込んでいきながら中長期で地道に取り込んでいくパターン。

与沢翼さんの『ブチ抜く力』がじつは名著

この前者の短期集中・最大出力型のスタイルで、実は超絶おすすめの本がある。与沢翼さんの『ブチ抜く力』である。

この本が発売された当時、ぼくはmotoさんの『転職と副業のかけ算 生涯年収を最大化する生き方』という本の制作協力をしていて、当時のセールス状況を克明に覚えている。10万部以上売れるには、なんらかの理由があるはずで、ぼくも当時手に取った記憶がある。

まず「一つの事に魂を売れ!」というコンセプトが明解である。そして何より、本文のライティングのクオリティがめちゃくちゃ高い。クレジットをみると、どうやら藤村はるなさんという方がブックライティングに入っているようなのだけれど、とにかく筆致の安定感が群を抜いている。軽くまとめた密度ではない。読み物としての完成度が高いのだ。

今回、このnoteを書くにあたり再読してみたのだけれど、やっぱり面白い。「ブチ抜く」をテーマに、投資とダイエットが並列で語られる稀有な本だ。

本のメッセージとしてはシンプルで、投資にしてもダイエットにしても、なんにしても何かに取り組む際に、最短で最大の成果を出そうと思うのであれば、そのテーマにおけるセンターピン(本質)を見極めて、達成のためには悪魔に魂を売る覚悟でやり抜こう、というもの。小利口になって身動きを取れなくなるくらいなら、徹底的にバカになって知識ではなく行動によって人生を開拓しよう、というメッセージが込められている。堀江貴文さんがしばしばおっしゃっていることと同じだ。

この手の自己啓発本はカンフル剤的な作用としてだけで終わりがちだけれど、そもそも読書なんて、ひとつ知らなかったアイデアによって開眼できたのなら儲けものだ。

◆仮想通貨に1億3500万円を投資して3か月で27億円にし、そのうち14億円を利益確定して出金

◆65日間で91.2㎏から69㎏まで22㎏のダイエットに成功

ブチ抜く力

この本で語られるHOWであったり、そもそものマインドは、それはもうめちゃくちゃマッチョイズムだ。一切の妥協や言い訳の余地を残さない。なので、人によっては敬遠したくなるというか、ちょっと足がすくんでしまう内容も過分に含まれている。けれど、人生は長いマラソンでもあり、短い短距離走でもある。

人生の初めから終わりまで全力疾走するのであれば、ほとんどの人は息を切らして倒れてしまうと思う。けれど、人生のある時期において、脇目も振らずに全力で走ってみることは、やっぱり重要なんじゃないかなと思う。もちろん、その価値観は人によって異なるだろうから、押し付けることはできないけれど。けれど、広い世界を知り、高い視座を得るために、与沢さんが言う「ブチ抜く」経験をなるべく若いうちにしておくことで、残りの人生の成功確度・角度もまた変わりそうだな、とも思う。

一生続くペインはないのだから、人生のある時点で全力疾走してみるのもまた悪くない。サイバーエージェントの藤田社長のこの言葉を思い出したりする。

長い人生から見れば、ほんの短期間、圧倒的努力をしておけば、一気に次のステージに行けるのに、それを怠るか、見過ごすかしてしまい、折角の勝負どこをみすみす逃してしまう人が結構います。

藤田晋bot

歯を磨くように本を読む

前項では、与沢翼さんの『ブチ抜く力』に一点突破・短期集中型のスタイルをみたが、一方で中長期で習慣に溶け込ませていくパターンについても触れておきたい。

「『書く』を習慣化してみる」というnoteを入り口に、昨年度からnoteを再開して以来、このテーマについては継続的に発信してきた。

繰り返し行うことが、人間の本質であり、 美徳は、行為に表われず、習慣に現われる。

というアリストテレスの至言に集約されるように、日々の積み重ね、無意識の動作の集積こそが、人格のコアを形成していく。ありたい姿を思い浮かべたとき、その理想像に近づくのは、何気ない日常の一歩一歩なのである。

以前、文学YouTuberのベルさんと登壇したイベントで「歯を磨くのと同じ感覚で本を読んでいる。一ページもめくらずに一日を過ごして、次の日を迎えるのがこわい」と病的っぽい発言をしたこともあった。

一ページをめくり、文章を読み、ひとつでも知らなかった世界の扉が開いた感触さえあれば、昨日とは間違いなく違う自分になれている。その実感を求めて読書を続けてきた。

もうひとつ、読書に関してよくもらう質問「本を読んでも、内容を覚えられない。すぐに忘れてしまう」。ぼくのスタンスとしては「そもそも覚えられるわけないし、覚える必要もない」といったところだ。

新しいコンセプトに触れることがなにより大事で、その繰り返しと蓄積が、自分なりのアイデアや言葉の創発につながる。読書に即時的な効用を求めるのでなく、発酵のプロセスを楽しむ。この点に関しては、また別のnoteで。

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4/11より、有料マガジン『世界を相対化する技術』をスタートさせます。

アフリカはケニアで、ポーカーと読書をしながら暮らす元・編集者/ライターの日記です。世界を相対化する技術の核心は、「人・本・旅」を通じ、まだ知らぬ新しい世界の扉を開くこと。ケニアでの生活、読んだ本から考えたこと、ポーカーの戦略やリアルな収支などについて発信します。最低4回配信。読者からの購読料はすべて本の購入に充てさせていただきます。ぜひご愛読ください。

ケニアで無職、ギリギリの生活をしているので、頂いたサポートで本を買わせていただきます。もっとnote書きます。