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- IPO準備の内部監査_上場前と後での内部監査体制の違い -

IPO準備を行ううえで、内部監査はとても大切な業務となりますが、上場前と後では、中身の違いについてあまり理解が深まっていないことが多くあります。
中身の違いは何なのか?
その違いに関する重要な意味は?今回はこの点についてお話しします。(約5分ほどでお読みいただけます。)
※今回は、特に日本国内でのIPO準備における内部監査についてお話しします。

上場前は、内部監査体制構築が重要

 IPO準備をする中で、主幹事証券会社や監査法人から、必ず内部監査に関する指摘事項を挙げます。内部監査室・担当者が未決定であれば、早期に選任するよう指摘し、選任されていれば、監査報告の提出を求められたり…
かなり強めの指摘を受けられた企業が多いかと思います。これは単に、取引所への上場審査申請の際に添付する資料として、内部監査報告書の存在とその内容を確認されるため、これの早期の対応が求められる、というものです。
ただし、本来取引所から求められている「内部監査室の担当者と、報告された内部監査報告書の存在」は、ただ「有ればよい」というものではなく、じつはその内容が問われるものです。

 なぜ、その内容が問われるのか? 一般的に内部監査の報告は、代表取締役(又はそれに近い役員)にレポートされます。大部分はアシュアランス(保証)の部分ですが、中身としてリスク・コントロールの内容になるかと思います。これが代表取締役に報告されるのですが、じつはその内容は、取引所の上場審査で「代表取締役面談」の際にヒアリングされます。ここで重要なのは次の5つのポイントです。

  1. 代表取締役は、会社のリスクに対し深く向き合っているか?

  2. 代表取締役は、内部監査とのコミュニケーションを十分に行なっているか?

  3. 代表取締役は、内部監査の報告を十分に把握し認識しているか?

  4. 代表取締役は、内部監査の報告に基づき、社内の体制構築、対策を講じるなど、十分な対応を行なっているか?

  5. 代表取締役は、社内のリスクを十分に把握し、対策を講じているなどの説明を、ステークホルダーに納得できる形で説明できるか?

上記で挙げた項目は基本項目で、まずはこれらをヒアリングで説明できることが重要なのです。なお上記の項目は、上場前だけではなく、上場後も説明し続けることが必要です。なぜなら、上記項目の最後のとおり、「ステークホルダーへの説明」ができてこそ、上場企業に値する企業となるからです。

上場「前」と「後」の内部監査の違い

 先のとおり、上場前の内部監査は、大変重要で、意味のある役割です。
そのため、内部監査の人員を外部から採用する、内部から登用する、外部に委託するなど、これらいずれにおいても、社内で十分に検討することをお勧めします。なお、最近では外部に委託する企業も増えつつあります。
大変素晴らしいことです。
 ご存知のとおり、監査は次のように行われます。

  • 社内には無い、別の見地で社内を見渡すことができ、わずかなリスクでも細かく洗い出すことができる。

  • 内部監査経験者であるので、即戦力として委託できる。

  • 外部採用(正社員として)にかかる時間を圧縮することができる。

  • 取引所の考え方として、「外部に委託する」ことへの理解がでてきたこと。(*会社の事業内容をはじめ、社内事情・状況などを踏まえたかたちの内部監査ができる人材は、ごく稀かと思います。)

  • 会社と内部監査委託先が、適切な距離感と緊張感を持ったかたちで内部監査が実施できる。(*外部採用、社内登用の方ですと、言いたいことが言えない状況があることがあります。)。

 なぜこのような点を挙げたかというと、これらの点が、上場前と後の内部監査の違いに、大きく影響するからです。上場前の内部監査は、大きなポイントとして「法令遵守と社内管理体制の状況」を監査することとなります。要は、上場企業として立てるのか?/立ち続けられるのか?が問われるものです。

 上場後はどうでしょうか。上場後ももちろん、法令遵守と社内管理体制の状況は監査の対象ですが、これらを踏まえたかたちで、次の監査項目を挙げて監査します。

  • 会社の成長に合わせたかたちの、法令遵守の体制とルール整備及び運用と改訂状況。

  • ルールの運用「精度」。

  • 全社員におけるコンプライアンス、コーポレート・ガバナンスへの認知度、理解度、遂行状況(及びその社内教育状況)。

  • 会社の成長に合わせたかたちの監査項目の拡充(修正、変更、内容の充実、など)。
    *上場企業は成長し続けなければなりませんし、それが求められる立場であるのが上場企業です。そのため、常に監査項目とその内容は、年々拡充することが必要となります。売上高が下がっても監査を緩めることはできません。)

 このようなわけで、上場「前と後」と分けて説明しましたが、前と後で別モノではなく、ちゃんと連続性があり、上場企業はこの連続性が必須となります。さらに言えば、この連続性も、むやみに高いレベルを求めるものではなく、その会社の「体型に合った」内部監査を行うことが必要です。
 じつは、このような内部監査を実施するには、「外部に委託する」方法が最も適しています。ぜひ外部に委託する方法をご検討ください。

上場前の内部監査はここを見る

 ここでは、かなり限定的ですが私のノウハウのうち、ひとつだけお話しします。
 上場前の内部監査では、各業務で流通する帳票等の書類に注目してください。内部統制を構築する際に、いわゆる「3点セット」を作成しますが、この中で「業務フロー」を作成する際に、各種帳票類の「何がある?」が必須事項となります。それら書類が根拠となって稟議申請・承認が行われ、会計帳票に記されるべき数字につながります。また、会計帳票の数字に直接影響のある書類だけでなく、直接影響の無い書類も漏らさず注目してください。例えば、顧客及び新規開拓先に示される営業資料です。顧客等は営業資料を見てその内容を検討し、購入・利用等を発注します。このとき、その営業資料中の誤記載又は内容の誤り、誤った宣伝内容(誇大広告等景品表示法上の禁止事項など)は、後々契約上の債務不履行、契約不適合などの違法性を問われることとなりますので、これはコンプライアンスの部分です。

 そうです!内部監査は、各業務で流通する帳票等の書類のすべて(どのような資料であったとしても)目を通す必要があるのです!
これを忘れると、会社にとって重大な損害を被ることとなります。また、上場審査時に提出している申請内容についても、その信憑性が問われ、信頼がなくなることとなりますので、取引所の上場規程違反となり、課徴金が課され、最悪の場合は上場取消しになることもあります。
 このように内部監査は、見るべきところをくまなく確認し、違法性、正確さを監査することが必要なのです。


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