法の下に生きる人間〈第72日〉

1996年、ヒトゲノム解読プロジェクトが進んでいる中で、スコットランドにある研究所において、クローン羊のドリー(メス)が誕生した。

ドリーは6才まで生きて、2003年の2月14日に亡くなった。

2003年といえば、昨日の記事で紹介したとおり、研究者の間でヒトゲノム解読が完了したと宣言された年であるが、もっと衝撃的な発表が1月にあった。

それは、イタリアの医師が「クローン人間が誕生する」と発言したことである。

実際のところは、本当に誕生したのかどうかは分からないが、2年前(2022年)の9月には、中国が「ホッキョクオオカミをクローン技術で誕生させた」とする映像を公表した。

日本では、クローン人間の産生は、当然のことながら法律で禁止されている。

20世紀末の2000年に、「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」が成立し、2001年6月に施行された。

この法律の第3条及び第4条では、次のように定められている。

(禁止行為) 
【第三条】
何人も、人クローン胚、ヒト動物交雑胚、ヒト性融合胚又はヒト性集合胚を人又は動物の胎内に移植してはならない。 

(指針) 
【第四条】
文部科学大臣は、ヒト胚分割胚、ヒト胚核移植胚、人クローン胚、ヒト集合胚、ヒト動物交雑胚、ヒト性融合胚、ヒト性集合胚、動物性融合胚又は動物性集合胚(以下「特定胚」という。)が、人又は動物の胎内に移植された場合に人クローン個体若しくは交雑個体又は人の尊厳の保持等に与える影響がこれらに準ずる個体となるおそれがあることにかんがみ、特定胚の作成、譲受又は輸入及びこれらの行為後の取扱い(以下「特定胚の取扱い」という。)の適正を確保するため、生命現象の解明に関する科学的知見を勘案し、特定胚の取扱いに関する指針を定めなければならない。

以上である。

クローン胚を移植することで、クローン人間の産生につながることから、倫理上の観点からもこの移植行為は禁止されている。

また、意外に思った人も多いだろうが、この法律の所管は文部科学省なのである。

クローン人間の話題は、2006年に日本語版が刊行されたカズオ・イシグロの『わたしを離さないで』という小説で、さらに大きな広がりを見せた。

TBSの連続ドラマにもなったが、綾瀬はるかと水川あさみ、今は亡き三浦春馬が演じていたのは、クローン人間とその介護者の役である。

臓器提供を必要とする人のために、クローン人間が作られているという小説の中の世界は、果たして現実になるのだろうか。

そうなったときは、クローン人間が戦争などで悪用されるような恐ろしい時代になっているかもしれない。

ゲノム医療法とクローン人間は、諸刃の剣である。


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