世界の民謡〈13〉ドナドナ

今日は、最近ずっと話題になっているイスラエルに関係する民謡の紹介をしよう。

イスラエル民謡というわけではないが、この歌のもとになった原詩や原曲は、ともにユダヤ人によって作詞作曲されたものである。

「ドナドナドーナードーナー」というフレーズが珍しくて、学校の音楽の授業で何度も歌ったことがある人もいるだろう。

日本語の歌詞は、音楽の教科書には次のとおり掲載されていた。

【1番】
ある晴れた    昼下がり
市場へ続く道
荷馬車が    ゴトゴト
子牛を乗せてゆく
かわいい子牛
売られてゆくよ
悲しそうな瞳で
見ているよ
ドナドナドナドナ
子牛を乗せて
ドナドナドナドナ
荷馬車が揺れる
【2番】
青い空    そよぐ風
ツバメが飛び交う
荷馬車が    市場へ
子牛を乗せてゆく
もしも翼が
あったならば
楽しい牧場に
帰れるものを
ドナドナドナドナ
子牛を乗せて
ドナドナドナドナ
荷馬車が揺れる

以上である。

メロディーは、記憶に残っている人も多いだろう。

では、この歌詞に出てくる子牛とツバメは、何を暗喩しているか想像したことがあるだろうか。

子どものときは、子牛さんが売られるのはかわいそうだねという感じで終わり、歌詞の意味について深く考えることもなかったし、時代背景について先生から教わることもなかっただろう。

ただ、この原曲が作られたのは、第二次世界大戦が起こる直前の1938年なのである。

当時のタイトルは、現代でもユダヤ人の多くが話すイディッシュ語で「Dana Dana (ダナダナ)」と表記されていた。

この原曲の誕生に関わったのが、ショロム・セクンダというウクライナ生まれのユダヤ系アメリカ人と、アーロン・ゼイトリンというベラルーシ生まれのユダヤ系アメリカ人である。

ウクライナ、ベラルーシ、アメリカがこのときからつながっているのは、現代の世界情勢を鑑みるに、奇妙な巡り合わせである。

反ユダヤ主義への抗議の思いが込められているとも解釈できるこの歌では、子牛がユダヤ人、ツバメがナチスに従順な庶民だとされている。(いろいろな解釈があるし、時代によっては、ベトナム戦争に従軍した兵士を子牛だと捉えるアメリカ人もいる)

原曲の歌詞では、ツバメが笑いながら飛んでいることが、子牛と対照的に描写されている。

アメリカ版の歌詞では、ツバメではなく風が笑っていると書き換えられている。

日本語版の訳詞は、有名な作詞家である安井かずみが付けたものである。

最近のイスラエルの行動は行き過ぎていると憤っている人もいるだろう。

だが、イスラエルの歴史は、古代からずっと続いており、他国に滅ぼされたり、ローマ帝国の従属国になったり、ユダヤ人がナチスの迫害を受けたりと苦難の道を歩んできた。

やられたらやり返すという負の連鎖を断ち切れない運命にあるのだとしたら、気の毒ではある。

しかし、多民族国家として共存共栄の道を探ることも必要なのかもしれない。


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