現代版・徒然草【3】(第95段・箱)

今日は、昨日の貝の蓋つながりで、箱の蓋についての話をピックアップしてみた。

第95段の原文をみてみよう。

「箱のくりかたに緒を付くる事、いづかたに付け侍るべきぞ」と、ある有職の人に尋ね申し侍りしかば、「軸に付け、表紙に付くる事、両説なれば、いづれも難なし。文(ふみ)の箱は、多くは右に付く。手箱には、軸に付くるも常の事なり」と仰せられき。

冒頭の「箱のくりかた」というのは、今風に言えば、箱の蓋の側面に開けられた穴のことである。
「穴をくり抜く」と今でも言うが、その「くり」である。

当時は、手紙などを入れて相手に届ける「文箱」(ふばこ)や、道具などを入れて持ち運ぶ「手箱」(でばこ)が、人々の生活の中では当たり前のように使われていた。

祖父母の代以前の古いもので、漆器や桐箱に巻き物や化粧道具が入っていたのを見たことがある人はいるだろう。

それらの箱の蓋の多くは、上からかぶせるように閉める蓋だと思うが、その蓋の側面の右か左のどちらに、わっかを作ってヒモを通すのかということを兼好法師は有識者に聞いたわけである。

有識者の答えは、どちらでも差し支えないとのことだったが、一般的には、文箱は右側、手箱は左側に付けると仰っていたと言っているのである。

この文章では、「軸」と「表紙」という言葉が使われている。

現代の私たちにはピンとこないかもしれないが、巻き物の軸は左端についているものであり、読むときは右から読んでいく。つまり、右側が表紙になるわけである。

礼儀作法を昔は重んじていたので、こういうときは、右か左かのどちらが合っているのかと、当時の人は周りに確認していたようである。

今では、ネットで調べる時代だが、昔よりも礼儀作法に疎い人間が増えているのは、なんだか寂しいものである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?