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臨床心理士が正規雇用と非正規雇用の手取り金額の差について考えてみた

常勤勤務は本当にいいのか?

「常勤勤務はいいぞ」「安定だよ」

臨床心理士に限らず、そんな言葉は日常的に聞く言葉ではあるのだけど、ここでいう「安定」という言葉が何を意味しているかは実に多様だと考えられます。

「あなたの意図する安定とはなんですか?」

互いの認識に齟齬が生じないように定義を確認するのは重要です。

とはいえ、日常的にこれをやりすぎるとちょっと疲れてしまう。

余談だが、心理職がカウンセリングの中で問いかけるような言葉は日常場面で用いると、やや迂遠でめんどくさい。

だからこそ「カウンセリング」という場で、発せられる問いかけは単に会話をするのとは違った内省を促すことなどもあるのかもしれない。

それがカウンセリングの持つ非日常性ってやつでもあるんでしょうかね。

さて、話が脱線しがちなのが、悪い癖。

臨床心理士の雇用状況

一般社団法人日本臨床心理士会から2016年に出された「第7回臨床心理士動向調査」によると、臨床心理士の正規雇用・非正規雇用の状況に往いては以下の通りです。

常勤勤務者の率は、常勤のみが33. 8% 、常勤+非常勤が 1 3 .8% の計 47.6%であった。非常勤のみは 44.7% で、常勤勤務者(非常勤兼務者を含む)と非常勤のみの勤務者はほぼ同数であった。この就業形態分布は、第6 回動向調査の結果とほぼ一致していた。

同じく2016年の総務省の労働力調査を見ると非正規の職員・従業員の割合は37.2%なので臨床心理士の方が非正規雇用は少し多いくらいですかね。ただ、あくまで総計なので、年齢や性別の差も考えると一概に比較して良いのかは悩ましくもある。

年収については、以下の通りです。

2015 年度の見込み年収(税込み)は、 300 万円台が 19% と最も多く、続いて前後の 200 万円台が 16. 5% 、400 万円台が15.5%とこの 3 階級で回答者の約半数を占めた。この見込み年収分布は、第6 回動向調査の結果と おおよそ 一致していた。

ちなみに、国税庁の平成28年分「民間給与実態統計調査」によると、以下の通りです(あくまで平均。中央値ではない)

給与所得者数の平均給与は422万円
性別ごとでは、男性521万円、女性280万円
雇用形態については、正規487万円、非正規172万円

こう見ると、まあ少ないのだろうか。この辺も勤務年数や性差、勤務日数の差などもあると思うので、その辺を細かく整理するとまた違った数字になりそうな気はする。臨床心理士の場合は、大学院を修了してというところもあるので、院卒での金額として考える、とか、専門性として見た時に低い、みたいなニュアンスもあると思うので、これもまた単純な比較としたら難しいかもしれない。

雇用や賃金等を含めた労働状況のもっと踏み込んだ話は、べとりんさんの「第一回 カウンセラーってどういう人たちなの? -心理士、資格、労働環境-」や「労働者としての心理カウンセラー」がもっと詳しいのでこちらを参照していただくとわかりやすいかと思います。

正規雇用VS非正規雇用

非正規雇用と正規雇用を単純に比較することは難しい。

「あなたは仕事と私のどちらが大事なのか」に負けないくらい難しい。

非常勤で一時的には稼いでみても、非正規雇用だと退職金とかないし(正規雇用でも退職金がないことはあるのでここは一概に言えないけど)、非正規だと国民保険が割高で正規だと厚生年金が割高であるとか、でも、非正規(で開業)の方がiDeCoを多く掛けられるので節税効果は高くなる、でも、厚生年金の方が将来の年金の金額は多くなる・・でも、国民年金基金やiDeCoの上乗せをすれば、、でも、正規雇用で社会保険あるなら会社と折半してくれるわけだし、、え、結局どっちがいいの?混乱。

でも、それで思考を放棄してこの辺りをあまり細かく考えられていなかった自分がいるなぁと思いました。

冒頭に挙げた「安定とは?」の中には様々な意味が含まれると考えられます。

契約が更新されるかどうかわからない不安やボーナスが支給されない実情(ボーナスは正規でも出ないことや少額なこともあるし、同一労働・同一賃金の流れもあるので、非正規雇用でも、育児や介護の休業についてとか、ボーナスを勤務時間に応じて出されるように求めることなども大事ではあるとは思う)などが含まれるのだろうし「業務」の面でも「安定」はあるでしょう。

毎日その組織にいるからこそできる支援もあるだろうし、毎日その組織にいないからできる支援があるのも事実ではあるとは思うので、ここも一長一短ですかね。

以前、某先生に「非常勤は責任が取れないからダメ」と言われたのは、そうか、待遇云々だけではなく、業務としてもダメと烙印を押されるのか、といささか気持ちが萎えた記憶があります。

一方で、様々な領域で働くことで専門性を高めたり、それを別の勤務地で活かしたい、とか、様々な支援に関わりたい、などの積極的な非正規雇用も中にはいると考えられます

ちなみに、大学の教員の求人を見ると、正規雇用ではあるが無期雇用ではなく、有期雇用も割と多い。正規雇用(常勤)だからと安心ばかりでもないんですね。大学の事情もあるのだと思いますが、1年、3年、5年などでまた新しく転職活動しなくちゃいけないというのもそれはそれでなかなかプレッシャーが強そうだなと思う。

そして、これは大学に限らないけど、正規雇用の求人をみていると、非正規雇用で働いている場合よりも、金額が下がってしまうこともあるんですよね。

そう思うと、気持ち的には正規雇用がいいけど、こん収入が減るなら非正規の方がいいんじゃないだろうか、、あれでも、じゃあ実際に非正規雇用と正規雇用を考えるときに、いくら稼いでたらの損益分岐点みたいなところが生じるんだろうか、と疑問に思うようになりました。

例えば、正規雇用で400万円で働いている場合と非正規雇用で600万円で働いている場合だと、どっちがいいんだろう。

そんなことが簡単に比較できるものではないとは思うんだけど、どんな観点から比較をしてみるのがいいのだろう、、。

前置きが長くなりましたが、そんな疑問について、実際に年収を仮に設定して、それぞれで引かれる税金などを計算をしてみることにしました。

仮定としたのは「正規雇用400万円と、非正規雇用の400万円」の違い、そして、「正規雇用800万円と、非正規雇用の800万円」です。

正規雇用と非正規雇用の手取り比較

こんな結果となりました(ばーん)

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iDeCoは限度額が決めやすいのでひとまず入れてみたのだけど、個人事情を考えると、配偶者控除やら医療費控除やら介護保険、住宅ローンの控除とか、ふるさと納税、生命保険など細かいことは変わってくるので、基本的な?ところの内容をベースに計算をしました。

(追記)ちなみに、iDeCoは正規か非正規かが論点ではなく、「自営業」だと81.6万円なので「非正規かつ開業していたら」になります。

なので、開業してなければ、非正規でも27.6万円です。その辺りを考えると非常勤なら開業しておいた方がiDeCoの額はあげられる、と(iDeCoをしておくと、将来の年金のもらえる金額があがる)

とはいえ、iDeCoも満額入れた場合で計算してるので、そこはフルでかけなければもう少し下がるので、ちょっと純粋な計算ではなかったかもしれない、と公開後に思うなど(※追記ここまで)

将来もらえる年金の金額とかは差が出てくるのですが、年間の手取りベースで考えると正規雇用400万円と非正規雇用400万円ではその差は年間「155,880円」の差がある。この年間155,880円はあくまで「今ここで」の時間軸。将来もらえる年金の金額は正規と非正規は結構変わってくる。

国民健康保険の人の場合は、国民年金基金などをプラスすることで将来もらえる金額も変わるし、月々の支出も少し変わっていくものなので、その辺も要注意。

極端な話、非正規雇用で800万円収入があるところから正規雇用400万円に転職をしたとしたら、その差は「3,192,680円」

お金だけでいうと、この年間約320万円ですが、実際には、退職金の問題や、突然の契約の打ち切り、将来もらえる年金の差、など、もろもろのお金と比べたときに変わってくる部分はまだまだあると考えられます。

また、正規雇用であれば、健康保険料と厚生年金保険料は、会社側も負担してくれるところもあるので、実際はもう少し出るお金が減る場合もあるでしょう。

これらを踏まえた上で、どう判断するか。これも一つの正規で働くか非正規で働くかの指標になるのかなと思います。

もちろん、家庭の状況や今後安定して収入が見込めること、何よりどんな場所でどんな仕事をするのかという点もあるので、一概には言えないですけどね。

ただ、なんとなく、金額については「国保の方が高いから大変」とか聞くことはあっても、それが具体的にどのくらいの差になるのか、という点はあまり聞こえてこなかったので、一つの考える上での目安になるのかな、など思った次第です。

少なくとも「なんとなく常勤の方が安定してるし」で思考停止せずに、ちょっと踏み込んで考えてみて、自分にとっての安定や満足度の基準を考えることは大事なのかな、って。

(追記)※とはいえ「未来のお金」も大事ではあるわけで、少し追記しておくと、国民年金については、1年間で受け取れる満額は、77万9,300円、平均年金月額は5万5,946円(厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和元年度)」)。国民年金基金やiDeCoを乗せると月々の控除も変わるしもらえる金額も変わってはくる。

対して、厚生年金は平均年金月額は14万4,268円(厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和元年度)」参考)で、老齢基礎年金と合わせると約20万円くらいにもなる、と。まして、先述の通り、保険料は会社が一部負担してくれるのであれば、「いま」の支出も減る。

この辺りも考えると計算式がより複雑になる、そして、未来のお金の前に今のお金が必死だよってこともある。将来のお金も大事だけど、目の前のお金が回らなきゃ未来も何もないかもしれない。
そもそも正規雇用の求人がないってこともあると元も子もないわけなので難しさはある。

あとは、非正規雇用だと住宅ローンが組みにくかったり、金利が高くなることもあるので、そこはお金関連だと結構な金額が変わってくるかもですね。

「あなたの年収が半分でも正規雇用の人の方がローンの審査は通りますよ」

とも言われたので、ここもなかなか大変。

住宅ローンが通らないわけではないので、購入の際には、3年分くらいの確定申告とかも必要になると思うので、その辺の整理はしておくと良いとは思います。あとは、そこを考えながら購入までにキャリアを作っておくというか(追記ここまで※)

そんなわけで、正規の方がよいと言いたいわけでもなく、非正規が良いと言いたいわけでもなく、大事なこととしては、何を基準に考えるのかという点。

お金ももちろん大事だけど、専門職としてどんな支援をしたいかも絡んでくる話なので、お金をもらえるけど仕事としては正直もっと別のことをしたい、などもあるかもしれない。
だからこそ、お金も含めて、専門性や福利厚生、自分のライフプランなど、色々総合して考えられると良いですかね。

これからの働き方を考える

今の時代、終身雇用の会社もないわけではないけど、正規雇用で定年まで同じところで働いていられるかもだいぶ不透明です。非正規の緊張した中で自身のスキルを磨いていった方が、正規雇用でいるよりも良い場合もあるかもしれません。

個人的には60歳になったら、縁側で日向ぼっこをして生きていくということで、働くのは60歳までと思っていた節があるのですが、どうやら今の状況を考えると、75歳以上まで働かないとやっていけなさそうな気配もしている。

そう思うと、年をとってもできるだけ長い間、働けるようにしていくことも大事なのかなと考えられます。

じゃあ、自分が長く働けるとなったときに、その時代の様相を読みつつ、自分にとっての満足度や生きるためのお金のことなどを踏まえたキャリアを考えることはきっと大事になってくると思うのですよね。

非正規雇用だとしても、個人開業などを掛け合わせていくことで、経費として研鑽のための研修や書籍などが出せることでの節税効果なども可能ではあると思う。

もちろんみんながみんな個人開業をできるわけではないと思うのだけど、自分なりに今できうることは考えながらやっていきたいし、同一労働同一賃金など含め、必要な声をあげていくことも大事なのではないかと思う。

がむしゃらにお金を稼がなくても、それなりに生きていける社会でもあってほしいというか。

そして、今回の考察は「ただ、同じように時間が過ぎていく」ことが前提の計算なわけで、自分自身が大きな病気をしたり、仕事ができなくなったり、突然の出費があったりした時には変わってくるわけですよね。

だから、そういうのを考えると正規雇用の安定さとかはありがたさは強いのだろうと思う。でも、なかなかそれがうまく雇用としては難しい現状もある。

先にも書いたけど、正直そんなことよりも目の前の生活が大きくて、目の前のお金、目の前で今あるできる仕事に焦点を当てざるを得ない場合もあるだろう。

そんな時に将来を考えないと、と言われても、うっせぇわ!byAdoである。

そうやって現状と正論の間で辛い状況にあってるのが我々である。

だから、正論をバン!とおくのではなく、お金の話について頭に置きつつ、どんな視点で考えればいいのか、そして、それをこれから折に触れて考えていけるような機会を持てればいいし、自分もそうしていこうと思うので、そんな発信をするのが一つ参考になれたらいいなあというのが今の気持ちです。

個人開業の話とかはこちらにも書いているのでよかったら。

あとは、「声をあげる」という点では臨床心理士の労働組合の話とかもこちらにあるのでよかったら。

正規雇用と非正規雇用、なんとなく合わせ鏡のようというか、それぞれを照らし合わせたような面もあるのかなと思うと、優劣で考えるのも違うのかなと思う今日この頃でした。

臨床心理士の働き方についても、色々考えてみたいと思うところはあるので、よかったらお題などもいただけたらありがたいです。一緒に考えていきませんか。

自分たちの働き方をよくしていくことは、必要なクライエントに必要な支援を届けられるようになることではあると思うので、この辺りは色々考えていきたい。そんな気持ちです。

※とはいえ、あくまで一個人としての考えですので、資格や組織を代表してのコメントではありません。色々学んだいく中で考えが変わっていくこともあったり、上記についても間違っている箇所などもあるかと思いますので、お気づきの点などありましたら、声をかけていただけたらありがたいです。

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