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【読書ノート】『三度目の殺人』

『三度目の殺人』
是枝裕和著


三隅は、殺人の前科があった。その事実は彼の肩に重くのしかり、彼の日常を暗い影で覆っていた。出所後、彼は工場で働き、平穏な日々を送ろうとしていた。しかし、再び殺人の容疑がかけられることになる。

弁護士の重盛は、三隅の事件を担当する。死刑を回避するため、重盛はあらゆる手を尽くす。しかし、三隅の話は一貫しない。そして、死刑判決を受ける。

キーワード
①共感力
他者の感情や経験を理解し、自分自身の経験として共有する能力を指す。これは他者の視点や感情に共感し、自分自身が他者の立場になりきって感じることができることを意味する。

他者の経験や感情に対して共感することで、人間関係を深め、相互理解を促進する。また、共感力は倫理的な観点からも重要であり、他者の苦しみや喜びに共感することで、思いやりや道徳的な行動を生み出す。

人間は社会的な生き物であり、他者との関係を通じて存在意義を見出す傾向があります。共感力はこの社会的なつながりを形成し、他者との共同体を築くための重要な要素となる。

②「過剰共感障害(Overactive Empathy Disorder)」
共感力が異常に高い病気。この病気は、一般的な共感力よりも極端に高く、他人の感情や状況に過度に共感し、自身の感情をコントロールするのが困難な状態を示す。過剰共感障害の症状には、他者の感情を強く受け入れてしまいすぎることや、他人の感情を自分のものとしてしまうことが含まれる。この病気は精神的な健康や日常生活に影響を与える可能性があり、適切な治療やサポートが必要とされている。ただし、過剰共感障害はまだ医学的に完全に確立された診断基準がないため、研究や議論が進行中。

キーワードを通して、見えてくること。

三隅は、非常に共感力が高く、他人の苦しみを自分自身のものとして感じ取ることができる特異な性格を持っていた(過剰共感障害だったのかもしれない)。そのため、咲江が父親から何度もレイプされていて、殺したいほど恨んでいることに深い共感を覚え、彼女の父親(工場長)を殺めてしまったのだろう。

三隅の言動がコロコロ変わってしまって、論理的でないのは、周囲の思念や感情に影響を受けやすいからなのかもしれない。三隅は自らの意志で物事を選択することが難しく、その結果、矛盾が生じてしまう。そのため、三隅が「私は人を殺していない!」と主張するのも、無意識に抱いた咲江の父親に対する憎悪が作用した結果だったということも、考えられたりする。

物語の主題は何か?

善悪や正義というものに、絶対的なものは、ないのだと理解した。

一方で、裁判というものも、真実の追求より、最もらしさが、重要視されるわけで、前科があったりすると、再犯の可能性から、容疑がかけられやすい状況になっているということなのだと思った。

結論のない物語なので、なかなか、考えさせられる。

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