【ブックレビュー】警官は吠えない/池田久輝
警官は吠えない/池田久輝
【考えたキャッチコピー】
『誰も多くを語らず、吠えたりしない。けれど全員確かに何か隠し持っている』
【あらすじ】
【感想】
とても面白かった。
言葉を失うというか、感想を言う口すらも巻き込んで感動まで連れて行ってくれた感覚。
それでもなんとか感想をこの感動を綴っていきたい。
まずキャラクターが良い。元刑事の村瀬は、刑事を辞めたにも関わらず刑事ぽくて、でも辞めたからこその自由な感じもあって、本来なら捜査してはいけない身なのに、「いいだろう?」と言われたら許してしまいそうな雰囲気がある。
そして犬のナイン。めっちゃ可愛い。ドライブについて行きたがるのも、買い物で車の中に置いていかれるときの悲しげな表情も。後半のピンチに駆けつけてきて、助けた挙句顔を舐めてくるシーンにはかっこよさとかわいさが両方あって胸が爆発するかと思ったほどだ。
山小屋暮らしの元刑事にデカい黒い犬の組み合わせは、頭の中で想像したときに、実写の映画のように光の彩度が抑えめになる感じがあって、まさにハードボイルドという感じがあって良かった。
今作はハードボイルドのカラーで進んでいきながらも、きちんとミステリーで、刑事小説的ででも少し違っていて、バディものでありやはり違っていて、と様々な要素の一部を多く持っている作品でありながら、切り貼りしたり、いいところだけをとったという感じは全くない。むしろうまく混ざっていて、それぞれが共鳴しあって良さを強調しあっている感覚があった。
今作は元刑事は主人公なので、刑事小説ではない。でも調査はするし、推理もする。追い詰められて解決するまでもある。けれど最後の逮捕や取り調べなどといった部分は描かれない。情報を調べるときも刑事時代の知り合いからは情報を多くはもらえない。だからこそ仕草や会話の端々のヒントから導き出していくのが今作の面白さの一つだろう。
次にバディものかどうか。これは難しい。本来であればバディであるはずの柳は何者かに捕まってしまっているし、犬のナインは家に置いていかれることの方が多い。
ただかわりにヤクザ(本人は否定しているけれども)の阿佐井やその手下の松岡などがバディといっても良いくらいの働きをしている。車の手配、情報の交換、助けを呼ぶなどなど。
これも現役刑事であれば咎められる部分だが、作中ではもう元がついているので大丈夫なわけである。(それに本人はヤクザを否定して一般人だと言っているし)
このゆるく繋がったバディたちと協力していく様が『元刑事という立場を利用』しつつ『現役の刑事ではないから許される』という現象を巻き起こし、「いいのかな?」と思いつつも展開にドキドキさせられる。
それが今作の面白さの一つだろう。
しいてキャラについて言うなら、秋山亮があまり活躍しなかったことだが、それも頼まれたからやっただけ、弁当のゴミは散らかしっぱなしといったテキトーな大学生キャラを表していて良いなと思った。
ハードボイルドな色彩を保ちながら魅力的なキャラクターが織りなす一つ一つが謎を呼び、深めてくれる。バラバラだったそれぞれが一緒になって解決まで導いていく様は伏線が回収される様とリンクしていて、確かなカタルシスが感じられた。
すでに使い古された要素をうまく利用しつつ、新しい表現を織り交ぜてみせた作者の筆力には、今作の友人を助けるために奔走する村瀬にも似た熱を感じた。
【より個人的な感想】
舞台が京都ということもあって、頭の中で立体的に物語が動いている感覚があったのが何より読んでいて楽しかった。
個人的にほとんど毎日車に乗って京都の碁盤の目内を走り回って仕事をしていたのもあって、車で走るシーンなんかはすごくリアルに感じられた。
滋賀と京都をつなぐ山越の中間地点に住む、という設定だけで、あのへんかな? と想像するのが楽しかったし、降りて少し行ってからの万引き犯が捕まったというスーパー、秋山亮(偽物)を連れて行った中華屋、果てはそのコインパーキングまで、全部知っているところでイメージできてより作品に入り込めた。
秋山亮(本人)の死体が見つかったのが宝ヶ池公園なのは笑ってしまった。今年の上半期まで岩倉に住んでいたのもあってめっちゃ身近だったのだ。
ああいう水が多くあるだだっ広い公園は刑事ドラマでもよく出てくるのでイメージしやすかったのもある。
今作は左京署の話が多く出てくるも、舞台の後半は実は左京区外が多い。嵐山や嵯峨野といったところが顕著に出てくる。その方が寺だったり京菓子屋がイメージしやすいので良い。東山や祇園の料亭、小料理屋も同じだ。
これを書いていて今作の面白さ、また面白さまで導いてくれる工夫は、キャラクターの設定から舞台、キャラクターひとりひとりの考えていることがイメージしやすいことにあるのではないかと思った。
もちろん僕が住んでいたというのが大きいとは思うが住んでなかったにしても京都といえばで思いつくところはきちんと踏んでいる。
作中の雰囲気を大事にしつつ、分かりやすさとイメージしやすくさまざまを配置し、きちんと踏むべき要素が使われている。これがどれだけ大変なことかというのは物語を書いている人には分かることだろう。
本作はその工夫の継ぎ目を見えないよう、なるべく自然に、それでいて面白く演出している。
やはり作者の筆力に脱帽である。
もう一つだけ書くとするならば、柳とのこと。過去話と後半では多く出てくるのだが、捕まっていて救出するという物語の構造上、なかなか絡みが少ない。
是非シリーズ化して二人のバディを読みたい。という思いと、村瀬がいろんな人とバディを組まざるを得なくなるのも面白そうだ。
二人とも刑事を辞めているのでシリーズ化するとしたら過去編が多くなるのだろうか? 今の山小屋でたまに会う二人の雰囲気がいいので現在の話の続きを読みたい気持ちもある。
過去話を柳目線で、現在を村瀬でシリーズ化を期待してしまうのはいけないことだろうか......?
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