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ショートショート 25 ボクノナツヤスミ

 僕は夏休みに閉じ込められている。

 正しくは夏休み前日、明日から夏休みですと先生が言って、C班が馬鹿みたいに喜ぶくだりから。バカみたいは一周目から思ってた。

 一周目は本当に夏休みに閉じ込められてるなんて思ってもいなくて、無難に仲の良いA班と過ごした。
 朝はラジオ体操の流れるスピーカーのザザって音で起きて、「みなさんおはようございます。朝のラジオ体操の時間です」というアナウンスの間に、ラジオ体操会場まで自転車で走る。

 このためにすぐに出られる格好で寝ていないといけない。だからか、寝汗びっしょりの状態で、○子ちゃんに会うことになってしまう。所定の位置は名前順で決められていて、隣同士のためにいつも気になって体操に集中できない。ハンコをもらうときに注意散漫! って書かれる。

 去年からずっとそうだ。去年までは○子ちゃんの隣に汗臭くいても気にならなかったのに......。って考えるけど、去年までの記憶はない。ずっとそうだと思っていたけど、全く記憶にはない。

 ハンコをもらって帰ろうとしているところを○郎と○介に呼び止められる。○郎にまずラリアットもどきで進行を阻まれたあと、○介にこちょこちょされ、

「お前くっせー」と言われるまでがオチだ。

「本当ガキね」と○美が長い髪の先をいじりながら近づいてきて、○郎が僕をこちょこちょした○介の指先を○美に向けて「くっせー指だぞ」とする。

 実際に指に臭いはついていないけど、町長の娘でお嬢様気質の○美は悲鳴を上げて逃げる。

 ○郎はなぜか○美を追いかけ、なぜかさっきとは違うどこかうれしそうな悲鳴で逃げる。それをさびしそうに見ている○介の肩に手を置き、
「お疲れ様」と言ってやると「何がですか?」とずり落ちていないのにメガネをあげる動きをする。

 毎年どころか夏休みはほぼ毎日こんな感じだ。

 午後に遊ぶ約束をして家に戻る。朝食を食べ、昼までの涼しい朝の時間は縁側近くの風鈴の音が聞こえる畳の部屋で宿題をする。涼しいとは言っても例年夏の朝の温度は上がり続けてて、扇風機は欠かせない。これは宿題が残すところ夏休みの日記と工作、自由研究になるまで続く。

 午後からは○子、○美、○介、○郎と僕で遊ぶ。

 内容はその日やメンバーによって様々。男子だけだったら虫取り、魚釣り、その辺の野山を散策する。女子がいるときは、川遊びや街に出てショッピングモールに行ったりカラオケ行ったり、ファストフード店やフードコートに行く。僕がどこに行こうって決めることはほとんどない。選べるのは今年の夏はどの班と過ごすかくらいだ。

 夏祭りや夏の登校日はどれだけ行きたくなくても体調が悪くても、気づけば会場に着いていて、みんなに引っ張られて踊ったり、出店を見て回る。そして最後には花火がよく見えるスポットに座って、花火を見る。見終わったら帰るのがさみしくて、なんとなくダベる。

 ○郎が「来年は受験かーっ」と言い、
 ○介が「なかなか遊べなくなるね」と言い、
 ○子が「○美は私たちとは違うとこ行くんだよね」と言い、
 ○美が「ええ。だからこうしてみんなといられるのも今年が最後」と言う。

 僕は何も言えない。ただぼーっとみんなと花火が終わってモクモクしてる暗闇を見るともなしに見てる。

 夏祭りは夏休み最後の日に行われる。明日から学校なのに、いつものようにラジオ体操用の服を着て眠る。

 すると、また「明日から夏休みです」という先生の一言で教室が沸くところに戻されているのだ。

 二周目の最初はみんなが冗談を言っているのだと思って聞いて回った。変な顔をされたけど、そのまま何事もなかったかのように夏休みに入り、ラジオ体操で二人からの攻撃をくらうくだりになる。

 ここまでは変化はないが何周かしてみて、変化するところがあった。

 クラスにはA班以外にB班C班がいるのだが、A班と遊ぶことを多く選ぶと、いつもの夏休みがただすぎていくだけだ。

 だがB班C班と遊ぶとイベントがたくさんある。B班は真面目な子が多く、みんなで自由研究や工作、夏休みの日記をカラフルにするために奔走する。それ以外の宿題が疎かになって最終日にはみんなで手分けして宿題をやった。

 C班はいわゆる陽キャで隣の隣町まで言って都会的なイベントに多く参加することになる。田舎にはいない綺麗なお兄さんお姉さんとの交流は刺激的だったが、夏休み後に転校してくることになってる外人の女の子○スティーヌと仲良くなっていくのは特に刺激的だった。○子にごめんと思いながらも彼女仲良くなっていくのは楽しかった。なぜか最後にはC班の他の陽キャに告白され、「転校する前に友達より早く恋人が出来ちゃうなんて」と涙ぐんで了承するのを見届けるハメになる。

 僕は友達ですらなかった。

 悔しかった僕はB班とA班を適度に交流した。するとB班の女の子からずっと好きだと告白された。最終日日付が変わるまで一緒にいて、キスする直前で、また夏休み前の教室に戻される。

 ただこれはB班とだけ遊んでいたら現れないイベントだ。適度にA班B班と交流することによって生まれる。その比率がB班が多いとB班の女の子が僕に告白してきて、A班が多いと「最近、他の子ばっかと遊んでるね」と○子にさみしげに言われ、夏休み最後の夏祭りで告白される。そして日付が変わる頃にキスする手前でまた戻される。どれだけ早くキスしようとしても緊張のせいか体は動かず、そこになってしまう。

 C班の○スティーヌに告白されるために、A班とC班と適度に遊ぶ。すると告白をする側になり、成功すると隠れていたC班のみんなから祝福される。ここではキスに成功するが、キスされたあと、来年の夏には帰ってしまうことを告げられるのだ。

「だからこうしてみんなと……あなたといられる夏休みも今年が最後」と言われ、涙交じりに微笑んだところで、また夏休み前の教室に戻される。

 A班B班C班全てに綺麗に均等に遊ぶと、三人全員から告白されるイベントが発生した。全員夏祭り最後にそれぞれ隠れ花火スポットで待っていると言われる。どこに行くかによって、誰と付き合うかが決まるがそこからの流れは同じだ。

 このときだけ夏祭りに行かないという選択ができるが、そうすると付き合ってもいないのに三叉かけられたとか言われる。

 また、このときだけ夏休み後の学校に一日だけ進めるのだが、誰からも話しかけられない。

 さみしすぎて○郎にラリアットをかけに行くと、まじでウゼェと言われて喧嘩になる。馬乗りになって殴り掛かろうとしたところで、また夏休み前の教室に戻されるのだ。

 何周もしていて僕は誰かに一部操られていることに気づいた。そして自分がゲームの中の人間だということに。

 僕の名前は何? ○子、○美、○介、○郎、○スティーヌの○にはいる字が毎回違うからと、そこに難解漢字や恥ずかしい言葉を入れる人が多いからだ。毎回発音する身にもなって欲しい。

 テレビの奥、今の時代だとプロジェクター? ってので見ている人もいるのかな?

 僕をここから出してよ。

 ねぇ。



 いろんな夏休み体感ゲー『ボクノナツヤスミ』(ゲームPVの最後にナレーターが言うセリフ)

 全ての夏休みがここにある。(パッケージ裏のキャッチコピー。その他様々な広告でも使われている)

 ないのがあったら教えてください。あなたの夏休みもあなたごと組み込みますんで(製作者インタビューより抜粋)

 ぼくの、だけあって私の、がないのは男尊女卑です(Twitterで拡散されたが、そこまで広がらなかったツイート)

↓地元の写真

平家の落人伝説のある場所から見た景色
実家のすぐそばにはミニ滝が!
雄大な川!
廃校のプールは雰囲気がある
約束のネバーランドかよ
雰囲気あるなぁ
ぼくなつで出てきそう
ぼくなつででてきそう2
子どものころはこの先には何があるんだろうとワクワクした
美しい道
地元で最も有名な構図の写真



※この作品は大好きな綾部さんのゲーム『ぼくのなつやすみ』から着想を得て書きました。
『なつもん』発売決定おめでとうございます!
プレイレビューも書けたらいいなぁ。


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