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京都エッセイ(13)愛すべきU後輩くん
前回は僕に変化を与えてくれた後輩について書いた。今回はもう一人の愛すべき後輩U後輩についてのお話。
彼との出会いは
学科主催の新入生歓迎会。はじめは正直パッとした印象がなかった。彼自身も陰キャ的な空気をプンプンさせていた。
飲み会の会場は広間で複数の席があり、自由に移動できるようなタイプ。女子は女子で集まるし、先生に媚を売るというかとにかく仲良くなりたい系の人は先生がいる席をハシゴする。テンションが高い先輩やおせっかいな先輩はいろんな席をぐるぐる回って自己紹介と世間話をする。
自分の立ち位置はおせっかいな先輩だった。
彼のいる席は異様だった。ひたすらに鍋を食べていた。特にお互い話すこともなく、鍋に食材を入れてもくもくと食べている。全員が人見知り、陰キャのオーラを醸し出していた。さすがのテンションが高い先輩方もこの席をどこか避けているようで、もし座ってもそこの席に在籍する時間は他と比べて明らかに短かった。
僕も正直怖くはあったが、そこに座る。ちょうどお腹がいっぱいになってきたころだったのか、誰しもがそれなりな自己紹介をしてくれた。U後輩とは特にここで劇的な出会いをしたわけではない。彼の隣に座っていたぱっと見では分からないけれど、話すとやばくて面白い子に強く惹かれていた。
当時のことをU後輩はこう語る。
「なんかデカくて調子のいい人が馴れ馴れしく近づいてきて話しかけてきた。自分の横にいる子を贔屓にしている感があって、なんだか負けた気分がして嫌だった」
申し訳ない。
だが蓋を開けてみれば、結局はその後輩ではなく彼自身のエッセイを書いている(その後輩については書く予定はない)ワケだから許してほしい。
ここでゆるっと出会った後輩を連れ、自分が先輩にしてもらったように飯を奢り、話を聞くということをたくさんしていた。
ある日、バイト代が入ったので後輩に回転寿司を奢るという話をした。奢りといえば上がるのが寿司と肉の二台巨頭。肉は以前行ったため、今度は寿司という具合で誘った。そのときに捕まえることができたのが前回の登場人物O後輩と、今回のU後輩くんである。
二人と他愛ない話をして、いざ席に座る。
美味しそうに、というか「うまい、うまい!」とその細い見た目からは想像するには違和感のあるほど皿を積み上げるO後輩くんの横で、
浮かない顔をしているU後輩くん。
「どうしたの? なんかあった? 話聞こか?」
と近づいてはいけない先輩からのセリフランキング上位を並べ立てた僕にU後輩は気まずそうに口にした。
「僕の家、漁師なんですよね」
なんとすさまじいパンチライン。いいところに綺麗にくらってしまった。美味しくないという言葉をここまでオブラートに相手の想像に委ねつつ、確実に伝えられる言葉が他にあるだろうか。京都人でも、ここまでのパンチラインをだすには眠れない夜があるだろう。
僕は衝撃を受けた。が、不思議と嫌悪感は抱かなかった。むしろうれしかったのだ。後輩に迷惑をかけられること、ヤレヤレと思えることで、自分が先輩になった気持ちよさを十分に味わっていた。
それと同時に感動もしていた。自分は今まで[先輩から奢ってもらったものはなんでもおいしいおいしいと言って食べるもの』というどこか昭和スパルタスポ根ものの常識を持ち合わせていたのだが、それが綺麗に打ち砕かれたのだ。
「そうだよな。先輩から奢ってもらったとはいえ、別に無理して美味しそうに食べなくていいんだよな」
当時のことをU後輩はこう語る。
「自分の家は魚関係の仕事をしていたというのもありますが、マグロが解凍し切ってない冷え切った状態で出てくるのが初めてで驚きました。それでつい、なんだこの紛い物! となってしまったのはあります。それに家族と行く回転寿司といえばちょっと高めのところだったので、先輩が連れて行く! と意気込んでいたのもあって期待してしまいました。なんだこの先輩はこんなところしか連れてこれんのかと思いましたね」
発言からも分かる通り、後輩は普通に失礼なことも嫌だと思ったら言える子だった。O後輩同様、彼のそういったところに助けられたことは多い。
また、二人とも一人でいるのが苦痛でないというのが共通していた。僕は基本的に誰かといたいたちなので相入れないようではあるが、それでも一緒にいてくれていると思えるのでうれしかった。
U後輩の作品も
素晴らしかった。海外文学のような(ときに下手な吹き替え字幕みたいになってることもあるけれど)文体やキャラクター、セリフ。それにどこかラノベチックな柔らかさや口語体を含んだ文章や言葉選び、構成や組み替え。どこか相反する二つをうまく融合させた彼の小説は、彼の魅力も相まって、なぜか愛される。そのほとんどが未完で、合評会では、「続きを読みたい」という意見で幕を下ろすことが99%。
さらに彼自身について話をすると、
歌と料理がめっちゃうまい。
カラオケに連れて行くと、彼にチケット代を払わなくてはいけないのではないかと錯覚し、奢ることは少なくなかった。
低く渋い声がレトロな歌によくあっていて、一緒に他の子も連れて行くと、カラオケ後はいつも彼を褒める会になるのが悔しくてたまらなかった。
僕自身が褒めても
「先輩は何でも褒めてくれるからなぁ」
とこれまた失礼に、でも素直な言葉が返ってきたので、そこまでいうならと、彼のライブの機会を作った。が、これもまた本当に大盛り上がりだった。
ちなみにその際のオープニングアクトは僕が担当したが、ライブ後のコメントの9割が彼のものだった。あまりにも悔しかったのでいただいた投げ銭はオープニングアクトであったにも関わらず半分ずつにしてやった。
「彼の料理はお店を出せるレベル」
と評価したのは、K先輩とT先輩とF先輩(新登場)だ。F先輩は元気がないにも関わらず、僕の主催した料理パーティーに顔を出してくれた。何も話したくない精神状態だったF先輩が、U後輩が作った料理を食べた途端に表情が輝き出して饒舌になったのを覚えている。
悔しすぎて、アニメを見ていて出てきた料理をこれ作ってとお願いしまくったがU後輩くんは高クオリティでそれをやってのけた。
さらに言うと彼はゲームもうまい。
というより楽しむのが上手だ。彼は『SEKIRO』というゲームにハマっていた時期があったのだが、ゲーム機が僕の家にしかなかったため、よく入り浸ってくれていた。
(これもヤレヤレこいつは......といった先輩づらができるので好きだった)
『SEKIRO』はとても高難易度なゲームなのだが、彼はキレ散らかすところは見たことがない。
「もう一度、もう一度」と何度も再トライをして、気づけば朝になっていることもあった。
彼の影響でFPSゲームを始めたが、彼はプレイのみならず教えるのもうまかった。失敗を許し、こう動いたらいいと教え、できたら褒めてくれて成長を実感させてくれる。ミスを謝ることを忘れず、怒らない彼。僕はといえばたまに「何ミスしてんだよ」と彼に怒ることはあったが「うるせえ」と笑顔で返される。
本当に楽しそうにゲームをする彼を見ていて、興味がなかったどころかどこか避けていたFPSをやるようになったのだった。
今は遠くにいってしまってなかなか会えない。
だが現代に感謝しなくては。
FPSゲームでオンライン上でまた会えるではないか。
いつかは先輩後輩として過ごしたU後輩と
今は戦友として戦えることをうれしく思う。
いや、現代に感謝するのは違うかもしれない。
FPSゲームを教えてくれた彼に、一緒にゲームをしたいと思わせてくれる魅力的な彼に、やっぱり感謝だ。
感謝ばかりだと彼が照れるだろうと思ってお寿司屋の出会いなど、彼も変なポイントもしっかり書き連ねてみたのだが、なぜか自分の嫌なところが多く見えてしまったエッセイになった気がする。
全くどっちが先輩なのかわからない。
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