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短編小説

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2024年2月の記事一覧

【短編小説】「おおきくなったらケッコンしよう」と約束してきた幼馴染が一生可愛い。~好きと言えない僕は、あらゆる言葉で想いを伝え続ける~


第1話「おおきくなったらケッコンしよう」
 幼い頃の僕――新田優樹(あらた・ゆうき)は心が不自由だった。

 自分がどうしたいのか分からない。今どんな気持ちなのか分からない。それ故に「どうしたの?」と聞かれても、「〇〇した」と答えられない。

 母が聞いてくる。

「寂しいの? 痛いの? 悲しいの?」

 そのどれにも当てはまらない気がして、首を横に振る。

「寂しい? 痛い? 悲しい?」

 

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【他には何もいらない】

「レジで会計してもらう時、困ってることがあって」
「困ってること?」
「商品だけ欲しいことってあるじゃん、袋とかお箸はいらない、みたいな」
「あーね」
「なんて言えばスマートか分からなくてさ。何かいいセリフって、無い?」
「――他には何もいらない」
「——え?」

「――他には、何もいらない」

【あなたのことは嫌いだけれど】

 最近、妻と不仲だ。会話も減った。ただ、良い報告くらいはしよう。

「ねえ」「あっ」

 タイミングが被った。

「じゃ、君から」と僕。

「私、あなたのこと嫌いになっちゃった」と妻。

「僕はね、宝くじの一等が当たった」

「そう。話の続きだけど、私、あなたのこと嫌いである以上に大好きだって、気付いたの」

【I want a scream.】

「アイ、スクリーム、タベタイ……」

 夜道、背後から片言で話しかけられた。近頃ウワサの不審者とはコイツか。楽しい時間を邪魔しやがって。そんなに食いたいならくれてやる。

「どうぞ」

 俺が振り返るとヤツは絶叫し走り去った。

 それもそのはず、俺は顔無しのっぺらぼう。

 人間の叫び声は俺だけのものさ。

【パパのことなんて】

 思春期の娘が、ソファの上でへそを出して寝ている。

「そんなところで寝てると風邪をひくだろう」

 起こして叱ると不機嫌な寝起き顔。

「そろそろ父親のことが好きじゃなくなるお年頃か」

 言うとさらに顔をしかめた。

「とっくに好きなんかじゃないし」

「そうか――」

「大好きだし!」

「そうか!!」