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こばなし
2024年2月11日 11:47
第1話「おおきくなったらケッコンしよう」 幼い頃の僕――新田優樹(あらた・ゆうき)は心が不自由だった。 自分がどうしたいのか分からない。今どんな気持ちなのか分からない。それ故に「どうしたの?」と聞かれても、「〇〇した」と答えられない。 母が聞いてくる。「寂しいの? 痛いの? 悲しいの?」 そのどれにも当てはまらない気がして、首を横に振る。「寂しい? 痛い? 悲しい?」
2024年2月6日 20:58
「レジで会計してもらう時、困ってることがあって」「困ってること?」「商品だけ欲しいことってあるじゃん、袋とかお箸はいらない、みたいな」「あーね」「なんて言えばスマートか分からなくてさ。何かいいセリフって、無い?」「――他には何もいらない」「——え?」「――他には、何もいらない」
2024年2月5日 07:08
最近、妻と不仲だ。会話も減った。ただ、良い報告くらいはしよう。「ねえ」「あっ」 タイミングが被った。「じゃ、君から」と僕。「私、あなたのこと嫌いになっちゃった」と妻。「僕はね、宝くじの一等が当たった」「そう。話の続きだけど、私、あなたのこと嫌いである以上に大好きだって、気付いたの」
2024年2月4日 16:47
「アイ、スクリーム、タベタイ……」 夜道、背後から片言で話しかけられた。近頃ウワサの不審者とはコイツか。楽しい時間を邪魔しやがって。そんなに食いたいならくれてやる。「どうぞ」 俺が振り返るとヤツは絶叫し走り去った。 それもそのはず、俺は顔無しのっぺらぼう。 人間の叫び声は俺だけのものさ。
2024年2月3日 18:38
思春期の娘が、ソファの上でへそを出して寝ている。「そんなところで寝てると風邪をひくだろう」 起こして叱ると不機嫌な寝起き顔。「そろそろ父親のことが好きじゃなくなるお年頃か」 言うとさらに顔をしかめた。「とっくに好きなんかじゃないし」「そうか――」「大好きだし!」「そうか!!」