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短編小説

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2022年10月の記事一覧

「時間」

 タイマーより早くお風呂の湯を止めた。鳴り出すのとほぼ同時に。

 きゅっ、きゅ。

 蛇口をひねり、湯を止めてタイマーを止める。順番が逆だ。自分でもタイマーの意味が無いと思う。

 ふと、鳴ったはずのタイマー音が止まった。

「時間、止めたよ」

 弟の声。タイマーを止めてくれたらしい。

 気が利くなあ、と思ったら、物音ひとつしなくなった。

「お前、まさか」と問う。
「時間、止めたよ」との応

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13作目:「やっちゃいなよ、そんな偽物なんか!」

 先日、かぼちゃの被り物をして踊ったショート動画がバズった。
 そのUP主が俺だとは知らず、甥っ子は何度もリピート再生している。
 ハロウィンの日。
「今日はいたずらしないのか」
 俺の家に遊びに来た、いたずら好きの甥っ子に聞く。
「とっておきを仕込んできたよ」
 スマホでガンダムを見ながら返答。

 最近はまっているらしい。

「トリックオアトリート!」

 甥っ子からの返答の直後、玄関から謎の

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12作目:トリック・オア・トリート!

「トリック・オア・トリート」

玄関から甥っ子らしき声がした。今夜はハロウィン。私の家に遊びに来ると、妹夫婦から連絡を貰っていた。

「トイレかさなきゃいたずらします」

扉を開けると、かぼちゃの被り物をした男の子。お菓子ではなくトイレをせがまれた。快く貸してあげる。

「トリック・オア・トリート」

玄関から再び、甥っ子の声。不審だがとりあえず迎える。素顔のままの甥っ子と、妹夫婦が居た。

呆然

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11作目:連作短編!メフィストフェレスの善行3話目「ジャンル違い」

「やっぱり、そうだったんですね」

 悪魔が語った未来の話を聞き、来客の女性は口をかたく引き結びました。

「覚悟はしていたつもりだったんですけど」

 女性は肩を落とし、ため息をつきました。
 なんだか、助けてあげたくなってしまいます。

「今日はありがとうございました。あの、また来てもいいですか?」
「もちろん。では、それまでに何か視えたら記録に残しておきましょう」

 《未来視の悪魔》は、お

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14作目:氷雪系最強

 俺のあだ名は氷雪系最強。
 と言っても、氷の魔法が使えるという訳ではない。
「シーツがシーッと敷いてある」
 そう、ギャグが寒すぎるのだ。
「ふふふ」
 突然やってきた転校生。俺のギャグで笑ってくれたらしい。
「氷雪系最強が居ると聞いて来ましたが、そういうことですか」
 実は雪女であると告白され、俺の表情は凍りついた。

10作目:連作短編!メフィストフェレスの善行2話目「未来にて」

「天使の私に、悪行を手伝えと?」

 悪行とは、人間たちを不幸にする行為のこと。
 主に悪魔による「人間への干渉」によって成されます。

「できないのか?」

 《未来視の悪魔》は、表情を変えずに問うてきます。

「それは――。抵抗はあります」

 天使の本分は「善行によって人間の幸福総量を増やすこと」ですから。
 その逆をやるなんて、他の天使からは白い目で見られそうです。

「じゃあ、こう考えた

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余熱

 空港の窓から見える旅客機は次々と発っていく。
 数時間後には、俺もあの空の向こうだ。
 未経験の土地で、果たして俺はやっていけるのだろうか?

 ……いや、やっていけなければ困る。
 約束したのだ、大好きな彼女と。
 世界一のコメディアンになると。

「……はあ」

 とはいえ、あんなに可愛くて楽しくて面白くて最高な彼女と、しばらく会えないなんて。
 無意識にため息がもれた。

「お兄ちゃん、た

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時をかけたちょんまげ

 過去から武士がやってきた。
「ここはどこじゃ?」
 ちょんまげを結った和服姿の中年男性だ。
 引き締まった体は武芸をたしなんでいることがうかがえる。
 どうやら見知らぬ光景に戸惑っているようだ。
「……ここはとある研究施設です」
 彼の案内を任された俺は言う。
「貴様、何奴!」
 武士は刀を抜こうとした。
「あ、ちょっと。そういうの禁止されてるので」
 慌てかけたが冷静に止める。
「危険な時に刀

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