マガジンのカバー画像

短編小説

488
これまでの作品。
運営しているクリエイター

2021年11月の記事一覧

社畜賛歌

 汗水たらしているのなら、まだ健康的なのかもしれない。
 こんな夜中までPCのモニターとにらめっこ。
 子供の頃は、「一日中パソコン見てるだけの仕事とか、どんだけ楽ちんだよ?」とか、生意気にも思ってたっけ。
 クライアントからの連絡も来なければ、社内システムの制作も進まない。
 かといって、自分の作業に集中できているわけでもない。
 遅い時間にも関わらず、電話が鳴りやまないのだ。
 それについては

もっとみる

全力全身オナニー大会

 証明を落とした個室。
 うっすらと明るいのは、動画が流れるモニターのせい。
 手元のパネルを操作して、陳腐なフィクションが始まった。
 表示されるテロップに想いを込めて。
 ため込んだ思いのたけを、握った棒にぶちかます。
 狭い空間に、効き過ぎたエコー。
 防犯カメラに写るのは、歌手も顔負けの自分なのだ。
 私はかっこいい。どこの誰よりも。
 そんな理想を思い描いて。
 俯瞰しそうになる自意識を

もっとみる

残響

「お前が殺したあの猫のことだよ」
 知らない声で目を覚ます。
 心臓がやけにうるさい。
 寝巻はじっとりと濡れていて、肌にはりついている。
 夢を見ていたのだと判別がつくまでに、数分ほど要した。

***

 優先順位をつけることは、悪いことではない。
 つけなければ生きていけない。
 だから、前方の車が猫を轢いたとしても。
 轢かれた猫に、わずかに息があったのだとしても。
 出勤することを優先し

もっとみる