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仕事の父との別れと、私の道

この時期、ふんわりとした目的で会議招集されると、
「あれかな?」という勘が働く。

そう、人事異動。
会社員歴が長くなるほど、
社内のリソースの再配分から、
中長期的にどこを伸ばしていきたいのか、
なんとなくわかるようになる。

そして、会社がどの人を「推し」ているのかも。

今回の内示では、
私のポジションに直接変化はないけど、
間接的に大きな影響を受けることになった。

仕事における、
私の父と言ってもいいほどの上司であるKさんが、
海外販社へ異動することになった。


行先はヨーロッパ。簡単には会えない距離だ。

「Kさんは、ずっとここにいる人じゃない。」

それは心のどこかで、
ずっと思っていたことだった。

でもいざ現実になると、
想像以上に動揺した自分に驚く。

聞いただけで、一瞬で視界が涙でにじんだ。
反射的だった。

心の内が透けて見えないように、
違うことを考えて必死にごまかす。

上司と部下という関係だけでは語れない、
濃密な13年間を振り返ると、
その日の夜は
一人で涙せずにはいられなかった。

私がまだ右も左もわからない時から、
社会人としての在り方、
マーケターとしてのスキルを
叩き込んでくれたのがKさんだ。

Kさんは、元々超大手企業のやり手営業マン。

と書くと、とてもスマートに聞こえるが、
実際はかなり口の悪いおじさんだ。

私がKさんにもらった
数え切れないほどの言葉から、
今も心に留めているものをピックアップして、
振り返ってみようと思う。

私のために。

そして、会社員って悪く無いよね、と思いたい人のために。



かわいいころがあったんやで


Kさんは、私がピヨピヨだったころから育ててくれた。

今でも酔っぱらうと
「「〇〇(私の苗字)も、
「こんなメールどう返したらいいんですか~!?」って喚いてた、かわいいころがあったんやで」と、

私の後輩に、若かりし日の私の醜態を暴露する。

うれしそうに。

お前はまだ不良債権や。

「会社はまだまだ回収できてない。
だから売れるもんつくって、優良投資だと証明せい」

そうか、まだまだなのか・・と
歯を食いしばって食らいついていった。

いつからか不良債権って言われなくなったことに、
今振り返って気が付いた。

仕事の価値の1つはスピードや。

「間違えても、失敗しても時間を巻いておけば後で修正が効く。仕事の速さは相手への敬意。信頼も生む。間違ってもいいからさっさと動く。」

反射的に仕事に取り掛かれるようになったのも、
社会人の最初の頃、
口酸っぱく言われていたこの精神が
染みついているからだと思う。

おかげで仕事の速さには、
社内でも一定の評価をもらえるようになり、
面白い仕事が降ってくるようになった。

なんも心配すんな


「成功したら、お前のおかげ。失敗したら俺のせい。ぐちぐち言っていないで、さっさと次の一手を考えろ。なんも心配すんな」

私の商品に初めて億以上の投資が決まった頃。

どんどん大きくなっていく規模感や、
自分の商品でブランドを傷つけてしまわないか
という不安に押しつぶされそうになった時に、よく言ってくれていた言葉。

当時は毎日『吐きそう、ハゲそう』が口癖だった私。
相当病んでたな。

このプロジェクトは、今や会社をしっかりと支える収益の柱に成長し、
私の職業人生の一つのハイライトとなった。

人生の決断は焦るな。


「仕事が速いのは最大の強み。でも人生の決断は焦っても良いことはない。じっくり時間をかけて自分で考えろ」

今の夫と付き合っていた時。

彼の転勤が決まり、付いていこうかどうしようか迷っていた時の一言。

二人で新橋で飲みながら、語り合った夜。
今では男性上司が女性部下と2人で飲みに行くことは、
コンプラ違反らしい。世知辛いな。

約5年間の遠距離恋愛中に、私たちはそれぞれの場所で急成長できた。

離れていても、今は目の前の仕事をするんだ。

そう覚悟したこの時期は、
まるでその後の飛躍のための、修行のような期間だった。

悩んだ末に別居婚を選んで、
一緒に生きていきたいことを伝えたくて、結婚式を挙げた。

式に来てくれたKさんは私の夫もとても気に入ってくれて、
ビールをガバガバと飲み、少し寂しそうで、
でもとてもうれしそうだった。

あんなにビール飲んでたのに、
「最後の麦茶が一番おいしかった」と訳の分からないことを言うほど。

「売れてるらしいなぁ!悔しいけど」


Kさんと喧嘩しながら、
最後は私が意見を突き通して、発売した商品があった。

私は直感で絶対に売れると思ったから、
何とかその現実を引き寄せたくて必死に仕事をした。

結果その商品は、
今でも定番の売り場が存続するほど、
他社が模倣品を数多く出してくるほどのカテゴリーに成長した。

Kさんが唯一信じるのは数字。売上至上主義。

数字の分析からは、こういう戦い方はできない。
だから最後まで悔しそうだった。

Kさんの数字を見る能力はずば抜けていて、
そこから仮説を立てる能力は、
もはやセンスやアートと言ってもいいほど。

私の3手5手10手先を常に見て仕事をしていた。

Kさんが見ている世界がずっと見たかった。

でも今では、数字を追い求めることの興味が前ほど沸いてこない。

数字だけでは導き出せない、
価値の作り方に興味が移ってしまった。

数字を積むことは、今でもアドレナリンが出る面白さがあるけど、
人生で大事にしたいものはそれじゃないと気付いてしまった。

だからなんとなく、わかっていた。
もう違う道を歩き出していることは。

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徹底的にマーケターとしてのスキルを叩き込んでくれ、
これほど、チャンスの舞台に立たせてくれたからこそ、

その土台を使って、

今度は私のやり方で、

社会に価値を創造していきたい。

そんな矢先の人事異動。
Kさんは成長著しいヨーロッパの販社の社長になる。

最近何だか寂しそうで、
あまり突っかかってこない。

これほど、「この人の視点が欲しい」と思った人はいなかった。

そんな人がいなくなるのは、
ある種背中を押されるような。

私にとって、次に進むための前触れのような、出来事に思える。

口の悪い、超日本語アクセント英語しか話せないおじさんが、
紳士の文化の中でやっていけるのだろうか。

ほぼ日本人の社内にだって、
敵が多いのに。

絶対に苦労するだろうな。

大阪商人の良さは、
海外の人にどうしたら伝わるのか。

私がKさんの良いところも、悪いところも
全部ひっくるめて、部下となる人たちにプレゼンしてあげたい。

Kさんの英語版の取説を作ってあげたい。


でもその前に、

どうしてこれほど、打席に立たせてくれたのか。

どうしてこれほど、愛情深く育ててくれたのか。

仕事の父から、ちゃんと聞いておこうと思う。

きっとこの先辛いことがあっても、
前を向く原動力になるだろうから。


そして、
会社員人生で、ここまで感謝できる人と巡り合えた幸せを、
最後はちゃんと、伝えようと思う。

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