見出し画像

【CASEL「2023 SEL Exchange」現地視察報告会①】Adult SEL Leaders as Learners (大人のSEL)〜世界におけるSELの最新情報〜

2023年11月6日〜11月9日にアメリカ・アトランタで世界最大のSELのカンファレンスが開催されました。CASELが実施する「2023 SEL Exchange」に、rokuyouメンバー2名が現地で参加しました。今年のカンファレンスのテーマは「大人のSEL」。本テーマにまつわる研究結果や校内における実践事例まで、多様な観点からお伝えをしていきます。

※CASELの「SEL Exchange」とは
CASELは、「センターフォーアカデミックソーシャルアンドエモーショナルラーニング」の略称で、シカゴを拠点にする、民間のSELシンクタンクです。SELの普及・推進をミッションに掲げ、2019年から世界最大級のSELのカンファレンス 「SEL Exchange」を開催しています。そこには、研究者や教育委員会、教職員、教育リーダー、議員、外部教育関係者など様々なバックグラウンドを持った方々が集まり、幅広いSEL実践者による研究発表が行われます。

先日、rokuyou主催で「CASEL Exchange」現地視察の報告会を実施しました。そちらでお伝えさせていただいた内容を、本noteでも抜粋してお届けします。
世界におけるSELの最新情報を2回にわたり、お楽しみください!

今回は、第1回報告会でお伝えした【Adult SEL Leaders as Learners (大人のSEL)について】をお届けします。今回の国際カンファレンスのテーマ は、「Leaders as Learners: Building the village our Childen need.」(私たちの子どもたちが必要とする村を築こう)。ここでの「村」とは、1つの社会やコミュニティを指します。
私たちがどう学んでいけば、リーダーとして「村」を作っていくことができるのか。今年のカンファレンスでは、一体となってこうしたことを考えていきました。


■rokuyouが捉えるSELとCASELが捉えるSEL

SELはSocial and Emotional Learningの略称で、ソーシャル(Social)は社会的能力な社会スキルを指し、エモーショナル(Emotional)が気持ちに関わる能力です。SELは、大きくこの2つの能力を育み学ぶ教育アプローチなのです。

rokuyouでは、日本の学校現場に即し、「SELは必要な学びに向かっていくための環境や土台作りをするものである」とお伝えしています。それぞれの学校や教育現場には、目標とする学びがあります。本来であれば、そこに向かっていくための土壌をきちんとつくった上で、学びを築いていくことが不可欠です。その土台作りに向けたアプローチがSELなのです。

※SELの詳細を知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

CASELは、SEL的資質・能力を「自己認識能力」「自己管理能力」「社会認識能力」「関係性構築能力」「責任ある意思決定能力」の5つと定義し、この能力を伸ばしていくことを重視しています。

そして、下記の【図1】でご覧いただける通り、教室内の取り組みだけがSELの実践フィールドではありません。多面的なアプローチから、先述した5つの能力が育まれていくのがSELの考え方です。

【図1】SEL的資質/能力

■カンファレンスのテーマ「大人のSEL」

大人のSELとは、成人後も成長し続け、社会的および感情的な能力を体現することをサポートする学習とディスカッションです。そして、大人のwell-beingを促進する構造と実践を指します。

これまでSELは、子どもを中心に取り組まれてきました。しかし、取り組みが積み上がるに連れて、子どもたちと接する大人自身がSELを体現し、その上で子どもに関わることの重要性が見えてきたのです。それに伴い、CASELは大人のSELを浸透・普及していくための3つのポイントを定義しました。

■大人のSELを浸透させる3つのポイント

①学ぶ

  • 好奇心・意図的なアクション・リフレクションを通して、自らやコミュニティについて学ぶ

  • 普段の生活や仕事現場を通して、SELを学ぶ(職場の同僚や生徒、家族へSELを体現していく)

ここで重要なのは、「日常生活の中でSELを学んでいく」ということです。自身の生活の中で生じる葛藤や経験を振り返ることを通して、SELへの理解と認識を高めていきます。

②つながる&協働する

  • 職場の同僚・生徒・家族とのつがりや共同性や帰属性を育む

  • 学びのエコシステムを通して共有されたSELモデルを実施するために協働する

【図1】の通り、SELはある特定の場所で体現すればよいというわけではなく、多面的に、複数の利害関係者と取り組むことが重要です。それぞれが人間としてSELスキルを高めていくために、協働しながら環境を作っていきます。

③体現する

  • 職場の同僚・生徒・支援者・コミュニティ間で、本質的なパートナーシップをサポートするSELの資質能力やマインドセットを形成し、体現する

  • 学びの共同体をより強化するリーダー研修を通して、SELを体現する

重要なことは、教員自身がSELを体現することです。「学び」と「体現」をセットとし、子どもたちの前だけではなく、どんな時でもSELを実現できるようにしていきます。


***ここからは実際にカンファレンスに参加して、rokuyouメンバーが印象に残ったトピックをお届けします。***

■CASEL AWARD

カンファレンスの1日目には、「CASEL AWARD」と呼ばれる授賞式がありました。優れたSELの実践と成果を残した方を称え、より高いレベルで推進するために行われています。「研究」「実践」「公共政策」の分野で賞を授与しています。

CASELでは、他者と協力しながら子どもたちを支援すると、「より深い洞察」「より大きな影響」「より良い結果」が得られると考えています。そのため、SELに対する献身と貢献が当該分野を前進させ、他の人々にインスピレーションを与えた個人を称えるものとして設定されています。

https://casel.org/blog/the-2023-sel-exchange-what-were-your-highlights/

アメリカの上院議員や研究者、民間で教育に携わっている方などが受賞しました。日本では、研究者や民間の教育者が表彰されることはあれど、議員が表彰されることは少ない印象です。そのため、上院議員の方が受賞したことは印象に残りました。こうしたグローバルで大規模なカンファレンスにおいて、政策に関わった政治家を称えることは、国の教育政策の中でSELの重要性を示していく重要なポイントであると考えています。これまでにはあまり見られなかった動きであるため、CASELが政治や政策決定の中核となり、社会全体に寄与しているという影響力の強さを感じました。

■「アート×SEL」

ヒップホップや音楽などの芸術が、SELの効果を促すことを示したイベントも印象的でした。イベントには、ヒップホップアーティストのDarryl (DMC) McDaniels、Dr. Roberto Rivera、Dee-1が出演し、音楽を通してSELを学んだ経験を語りました。さらに、シンガーソングライターのJewelは、音楽とSELが自分の人生に与えた影響について述べました。

Darryl (DMC) McDanielsは、ほとんどのアメリカ人が知るレジェンド的な存在です。カンファレンスに彼が登場したことにより、SELが多くの方から支持を受けているのだという印象が刻まれました。

「CASEL AWARD」「アート×SEL」のどちらもSELを浸透・普及させていくための手法として重視されていると考えられます。「大人のSELを浸透させる3つのポイント」を実現するために、カンファレンスにおいて、さまざまなアプローチが盛り込まれていることを実感しました。

日本においても、多様なアプローチでSELを浸透・普及させていくことが必要であると考えています。そのためには、多くの方や組織との協働が不可欠です。思いを同じくする皆様と共に、検討・実践を進めていきたいと思います。

■印象的なセッションワーク

カンファレンスの目玉となるセッション「The Science of Adult Transformation to Create Caring Schools(大人の変容・変革を科学する)」の一部を抜粋してお伝えします。テーマは、「サポーティブスクール(支援的な学校)をどう作るか」。モデレーターは、SELの黎明期から研究を続けているDr. Mark Greenbergという方で、CASELを立ち上げた元シカゴ大学の教授です。

当セッションには、3人のゲストが登壇しました。
1人目は、オーストラリアのニューサウスウェールズ州のDr. Rebecca Collie。教育の動向を研究しています。
2人目は、ペンシルベニア州立大学のDr. Robert Roeser。教員から研究者に転向したというバックグラウンドを持っています。
3人目は、Dr. Jason Okonofua。人種差別下にある教育環境におけるコンパッションやエンパシーの研究をしています。

Dr. Rebecca Collieの研究

Dr. Rebecca Collieは、サポーティブスクール(支援的な学校)とアンサポーティブスクール(非支援的な学校)では、どういった違いが生まれるのかという研究を進めています。また、教員はどういう状況で、支援的、もしくは非支援的に感じるのかを明らかにしました。
セッションでは、支援的な学校と非支援的な学校の違いからくる、「教員のウェルビーイング」「支援的な指導実践」「生徒の学力」の向上について説明がありました。

◾️「教員のウェルビーイング」に関連する要因
Dr. Rebecca Collieの研究は、「職場の支援」と「教員の仕事で直面する課題」が、教員のウェルビーイングに影響を与えることが明らかになりました。教員のウェルビーイングとは何か。そして、「職場の支援」と「教員の仕事で直面する課題」がそこにどう影響を与えているのか、下記にまとめました。

「教員のウェルビーイング」の3つ定義
下記の3つの指標が高まると、教員が幸福度を感じるということが見えています。

①主観的活力
自分がどれだけ活力を感じているか。
②仕事への関与
仕事にエンゲージメント(ポジティブで充実した心理状態で働くことが)できているか。
③専門的成長の追求
教員としてのプロフェッショナルな成長を追求・達成できているという感覚があるか。

「教員のウェルビーイング」に与える要因

「職場の支援」
下記の3つが支援的な学校をつくる要素であると研究の中で定義されました。

①教員と生徒のつながり
教員自身が生徒とつながれているという感覚を持つこと。
②同僚とのつながり
教員同士の一体感や理解、信頼があること。
③支援的な学校経営
経営者(校長)側が教員の主体性を重んじていること。

「教員の仕事で直面する課題」
「非支援的である」と教員が感じる要因としては下記が明らかになりました。

①時間的プレッシャー
時間がなくて余裕がない。忙しい。
②生徒の不規則な行動
職場の同僚を邪魔するような言動や振る舞いが見られる。
③非支援的な学校経営
教員の主体性を否定するような経営者(校長)とのやり取りがある。

研究結果によれば、「職場の支援」の要因が多ければ多いほど、教員のウェルビーイングが高まることが明らかになりました。これはオーストラリアにおける調査だけでなく、56ヵ国、23万人に対するメタ分析でも同様の結果が得られています。

ここでポイントだと感じたのは、「教員のウェルビーイングが高いと、生徒たちの成績がよい」という相関関係があることです。しかも、どの国においても共通の結果が出ることが明らかになったのです。rokuyouも学校と取り組みを重ねる中で実感してきたことではありましたが、データとして明確になったことは大きな前進だと感じました。

また、別の研究で教員のソーシャルエモーショナルスキルが高まると、「教員のウェルビーイング」の3つの要素も向上し、離職率が劇的に減少することも見えてきました。この研究から私たちが学んだことは、SELは生徒の学びに直結するだけではなく、現在日本全国が抱えている教員のメンタルケアの問題を解決しうる重要な鍵を握っているということでした。

Dr. Robert Roeserの研究

Dr. Robert Roeserは、教員の「4番目の知識分野」の研究をしています。 大学の教員養成課程では教員になるために多様な知識を学びます。しかし、教員になった時点で、教員として自分自身に満足できる絵が描けないという課題がありました。それは、大学において、「教科内容に関する知識」「発達/成長に関する知識」「教育的な内容・知識」と3つの知識分野を習得することに終始しており、「職業的アイデンティティに関する知識、教師としてのあり方」が足りていないためです(【図2】)。そのため、教員の学びにおいては、大人のSELを加えていくことが欠かせないということが明らかになったのです。Dr.Robert Roeserは、この領域の学びを新たに確立させることを目指して、研究を深めていました。

【図2】第4の知識分野「職業的アイデンティティに関する知識」

第4の知識分野を習得するには、学校で教員として勤務するシーンだけでなく、日常生活においてもSELを体現し、さらに他者に対しても示すことが重要です。SELを体現するということは、「自分とはこうした存在である」というアイデンティティへの認識を持ち、感情的にバランスがとれ、オープンで、好奇心旺盛で、他者に親切であるということを意味します。第4の知識分野と、その他の3つの分野を揃えた教員こそ、真に教える準備ができている存在だといえるでしょう。

第4の知識分野は、「カルムクリアカインドエデュケーター」で養うことができるとDr. Robert Roeserは伝えています。「カルムクリアカインド」は20年程前からある子ども向けのSELプログラムです。「カルムクリアカインドエデュケーター」は、その教員版として作られているプログラムだといえるでしょう。マインドフルネスをベースとし、呼吸を使ったワークやコンパッション(叡智ある思いやり)にフォーカスするようなワークが多めに盛り込まれていると感じました。

【図3】は、「カルムクリアカインドエディケーター」プログラムを実践していくことで見える変化のプロセスです。右側の成果の部分を見ると、生徒の「学習モチベーション」と「学習への関与(学びに対する姿勢)」が明確に上がることが見てとれます。

【図3】変化のプロセス

Dr. Jason Okonofuaの研究

Dr. Jason Okonofuaの研究は、有色人種の生徒たちが教室の中で不当な扱いを受けているという課題から生まれています。同じ素質を持った子どもでも、人種によって全く異なる成長をしていくという調査結果により、課題が明確になりました。人種に対してのバイアスや偏見が、教育成果に作用していることを明らかにしたのです。

そして、偏見にアプローチするためには、正しい理解と信頼と共感が必要であると定義し、共感を育むようなプログラムを開発しました。

起きている現象を定量的に明らかにし、政策的意思決定によりアクションにつなげていく重要性を、カンファレンス会場に投げかけていたことが非常に印象的でした。具体的に「数字で語る」ことで、政治が動くこともあるのではないかと期待感を抱きました。

***

rokuyouではこれまでも「授業だけでSELに取り組むのではなく、多面的にアプローチすることが重要である」とお伝えしてきましたが、カンファレンスではそのヒントをいくつも得ることができました。まずは、「大人のSELを浸透させる3つのポイント」を参考にしながら、どのような方法であれば自校で取り組んでいくことができるか、検討してみることから始めてみてもよいでしょう。

第2回報告会では、【SELが作り出すコレクティブインパクト〜3つの事例から〜】をテーマに、複数の自治体の実践事例をご紹介します。どのような政策が作られ、どのようなプロセスでSELの導入が行われていったのか。「対話」と「評価」が鍵になるプロセスの詳細をご報告させていただきます。

この記事が参加している募集

最近の学び

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?