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「SELとは何か?」、rokuyouの「いま」にたどり着いた原点を紐解く

新年度を迎え、新たな取り組みをスタートした学校や学級もあるかもしれません。その中で、「子どもたちの関係性がギクシャクしている」「探究学習を行なっているものの、あまりうまくいかない」といったお悩みに直面している先生方の一助になるかもしれないと考えて、今回は改めて、roku you代表の下向依梨が、SELとの出会いと感じている価値についてお伝えをします。


SELとの出会い

私は、大学時代にソーシャルアントレプレーナー、社会企業家と呼ばれる方たちを4年間ただひたすらに追い続け、彼らと寝食を共にし、彼らのような人がどうやったら生まれるのかを研究していました。なぜ彼らにすごく魅せられていたのか。それは、社会に何らかの変化を生める人がたくさん育まれていくことで、これからの10年後、20年後が必ず変わっていくはずだと確信を持っていたからです。

まずは、同世代や少し下の世代の社会起業家を育てようと、ラーニングキャンプのようなことを実施していました。パターンランゲージという暗黙の経験値を言語化する手法を使い、ソーシャルアントレプレナーシップのマインドセットやスキルセットを言語化した教材を用いて、教育プログラムを提供していたのです。

しかし、そこで私は壁にぶつかります。
練りに練ったプログラムを全力で提供しても、響く人と響かない人がいたのです。

何回かプログラムを繰り返すことで、「響かない人」の共通点がわかってきました。それが見えてからは、「私たちのプログラムでは、この人には響かないんだろうな」ということが事前になんとなく見えるようになっていきました。

響かない人のことを諦めて1週間のプログラムを実施するという方法も頭をよごりました。しかし、その諦めの気持ちが、私は悔しくて仕方ありませんでした。どうしても諦めたくなかったんです。

その時のプログラムでは、社会起業家に必要なスキルセットやマインドセットのルールを伝えたりそれを練習したりしながら、身につけていくような内容でした。「響かない人がいるということは、私のアプローチが違うんだ。きっと何かが足りないんだ」と思うようになっていきます。

そして、そもそもスキルセットやマインドセットを身につけるためには、土壌・土台が必要なのではないかという考えに至ります。私が解説部分を執筆している『21世紀の教育』では、この土壌の部分を「マヨネーズみたいな柔らかい部分」と表現しています。

次第に、人間には柔らかい素地や土台のようなものがあり、そこからいろいろなものを受け取り、育んでいくのだということが、自分の中で見えていきました。

「これは学術的にどういった仕組みなのだろう……?」
興味を持って調べていくうちに、どうやら非認知能力や自己認知と呼ばれる領域らしいということがわかりました。そこで、大学院ではそういった研究領域に進むことを決意します。その大学院の研究の中で出会ったのがSEL(Social Emotional Leaning)でした。

SELとrokuyouのビジョンに込めた思い

rokuyouは、このSELをベースにした教育アプローチを提供しています。そして、rokuyouのビジョンは、一人ひとりの生まれもった可能性を磨き続けられる社会を、学びの仕掛け作りを通して行なっていくことです。私は、「自分の中から湧き上がるものに素直でいる」「あるがままの姿でいてほしい」という思いを強く持っています。この部分を私が過去に手放しかけた経験があるので、「ここは絶対に手放さないぞ」という覚悟を持って、そこに共感する仲間が集まってきています。

今、教育の中では本当に限られたスポットライトでしか子どもたちを照らすことができていないと感じています。本来であれば、スポットライトは無数に存在するはずなのです。子ども自身も認知できていないことも多いですが、「こんなことが得意」「これをやってみたい」というような思いや可能性を持っています。学びの場に関わる大人が子どもの可能性を信じきれていない環境で育った子どもたちは、「自分の可能性ってこんなものか」「どうせ自分にはできない」といった思いが刷り込まれていきます

こうした現状に、私は悔しさを感じます。せっかく持っている一人ひとりの生まれ持った可能性を手放してしまっているかもしれないのですから。そんな現状を変え、「一人ひとりの可能性を磨いていこう」という思いが私たちの軸であり、それを実現してくことができるのがSELだと思っています。

改めて、SELとは何か

改めて、SELについて整理します。Social Emotional Leaningの「ソーシャル」は社会的能力、社会スキルと呼ばれるような、人と良好な関係を築いていくことを目指すための能力を指します。「エモーショナル」は気持ちに関わる能力、自分がどんなこと考えているか、感じてるかに気づく、また、他者がどんなことを感じているか、考えてるかに気付く、気付いた上でうまく付き合う、マネージメントする力を指します。この2つの要素を伸ばしていく学びなので、Social Emotional Leaningと呼ばれています。

しかし、最近私たちはこの概念的なお話に加えて伝えていることがあります。

それは、「SELは必要な学びに向かっていくための環境、土台作りをするものである」ということです。なぜこのように言い換えているのか。それは、PBLやギガスクール構想など教育アプローチを突然教育現場に導入し、上滑りしている状況をたくさん目にしてきたからです。

それぞれの学校や教育現場には、目標とする学びがあります。そこに向かっていくための土壌をきちんとつくった上で、アプローチをしていくことが本当に作りたい変化や価値を生むためには必要なことです。もっというと、土台ができれば子どもが勝手に学んでいく、育っていくんです。その土台作りの効用がSELにはあると感じています。

日本ではSELを実施するだけの時間を設けるのではなく、探究学習の一環として導入する学校が増えています。一方で、欧米では1990年代ぐらいから取り組みが始まり、シカゴでは2015年ぐらいから全学校で導入することが法律・条例になっているそうです。暴力的行為などの問題行為の減少に効果があるだけではなく、成績の向上に寄与するというのが、約10年前には明らかになっています。

SELにより高まる力

SELで高める能力は大きく分けて3つあります。

①気づく力

自分自身が今どんなことを感じているか、考えているかに気づくことができます。また、気づく力は自分の中だけに止まらず、他者の中で何が起きているかにも気づくようになる。自分と他者の中で何が起きているかに深く気づけるようになると、もう少し外側の部分、コミュニティや地域コミュニティのようなものを含む社会の中で何が起きているのかということに気づく能力が育まれていく。自分・他者・社会に対して気づく力は、相乗的に育まれていくということがわかっています。

②繋がりアクションする力

英語では「エンゲージメント」とされています。自分の中で何が起きているのかに気づくと、起きていることに対して行動することができます。例えば、今自分が不安に思っていることに気づくことができれば、不安にならないように温かい飲み物を飲むといった対処ができるようになります。

自分を理解することで、感情部分とうまく付き合えるような行動や意思決定ができるようになるのです。「①気づく」と同様に、「②繋がりアクションする力」(エンゲージメント)でも、自分・他者・社会と影響範囲が広がっていきます。

③共感する力

従来、この「共感する力」は、SELで高める能力には入っていませんでした。2017、2018年ぐらいからこの文脈が登場してきたのです。なぜかというと、アメリカの研究で、いじめをする生徒の特徴として、極めて他者理解能力と他者マネジメント能力のソーシャルスキルが「高い」ということが挙げられたからです。SELを取り入れて、能力を高めることで、いじめをする子が増える……これは非常に皮肉なことですよね。

こうした状況は、SELが進んでいきたい方向とは明らかに異なると考える人たちが増え、「ピースとして足りないものがあるのではないか」と研究が進みます。そして、ダライラマ財団やエモリー大学などがディスカッションし、「コンパッション」が加わりました。これこそが、「SEL2.0」の捉え方だと考えられます。「コンパッション」は、「叡智ある思いやり」と訳されていますが、もう少し親しみやすく「深い共感」という概念で捉えられています。

自分自身のウェルビーイングや他者のウェルビーイングが社会全体のウェルビーイングにつながっていく。そのためには、自分の中から湧き出る、優しさや共感といった要素、すなわちコンパッションが重要だと新たに価値づけられたのです。

SELをどのように実践するか

SELを学校に導入するにあたり、「SELの授業をすればいいんですか」とよく質問されます。しかし、授業や講座は、あくまで、教室内のアプローチにしかすぎません。

SELは、多面的なアプローチが効果やインパクトを生むとされています。そのため、授業だけではなく、仕組みや文化、空間といった学校全体、学校外のコミュニティ、サークルや寮、家庭などといったものと、どう連携ができるのかが重要になってきます。各所にどうSELの要素の種巻きができるのかを考えていく視点が欠かせません。

授業の中で、「どうやったら教室内だけではなく、 教室外でもここで学んだことを体現できると思う」と子どもたちと一緒に考えてみることで、多面的なアプローチにつながっていくという可能性もあると思います。

SELの成果

SELを行う効果は複数ありますが、心理的安全性が生まれていくことが大きいのではないかと考えています。私たちが関わっている教育現場でも、明らかな変化が見えてきています。

生徒たちは今このクラスの中で、また、この学校という学びの場に対して心理的安全性を持てているでしょうか。私は、ある一定の他者理解や他者へのリスペクトがある上で、思っていることや考えていることを安心して伝えられるということが、心的安全性の定義だと思います。

心的安全性があることは、さまざまなことに挑戦をする上で非常に重要な要素です。それは学びにのみいえることではなく、行事や研究、夏休みの遊びなどにおいてもいえます。心理的安全性があれば、自然と主体性が生まれていきます。

心理的安全性が高けれは、学校という学びの場が快適で心地よいと感じる場になり、それだけではなく、自らの学びを生んでいきたい場所にもなっていく。自分のコンフォートゾーンを超えて、個々にチャレンジする越境的な学びを生んでいくことにもつながっていきます。

SELを実践していく上で大事なこと

SELを実践していく上で、子どもたちに対してノンチャッチメンタル(いい・悪いを評価しない)で接するだけでなく、先生方(大人)自身も自分に対して評価しないことが重要だと考えています。

子どもたちが「どんなことを感じているか」「どんなことを思っているか」という思考や感情は自然発生的に勝手に生まれてくる反応です。本来であれば、それに対していい・悪いをジャッチすることはできませんよね。

そして、子どもたち自身が自分の中で起きていることにノンジャッジメントでいるようになるためには、まずは学びの場を作っていく側(先生)が、自分自身に対してノンジャジメンタルでいるということが大前提になります。

ノンジャッチメンタルであることにより、心理的安全性が生まれてくると思いますし、自分の中の感情や思考に気づく余白が生まれることにつながります。余白が生まれていくと、素直に自分を表現することができるようになっていきます。

先生方は何事も子ども優先で考えてしまうと思いますが、まずは教員間で心理的安全性のある雰囲気を築き、自身の感情や思考に気づく余白を持ってほしいと願っています。そして、先生方が一人ひとりの可能性を発揮している姿は、子どもたちにも必ず伝播していきます。

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