【想像落語】認めてほしい
昔から男女の仲というのは難しいもんでござんす。一方が好きでも相手は興味がない。また周りから見たらなんでこんな奴というのに一途な想いを募らせたりと恋の話にはきりがござんせん。愛し合ったら地獄までと申しましょうか、他人からはどうにも止められない領域というのがあるんでございますな。とは言いましてもどうしても2人の間を認めてほしい。心から祝福されてみたいという大事な人もいるもんでございまして。今日も日本のどこかで引くに引けない舌戦が繰り広げられているわけでござんすねー。はーっ!
チャカチャンチャンチャン♪
「こいつのいったいどこがいいんだい?」
「それは……」
「お前はだまされてるんだよ」
「そんなことない。いい人だもの」
「いかにも人をだましそうな顔じゃないか」
「失礼ね!」
まあ自分の好きな人のことをボロクソに言われたら、腹も立つもんでござんす。しかし親父は親父で大事な娘をおかしな奴に取られたりしちゃあかなわねえ。最初は反対の1つもしてみせるってのが親の心っつうもんでござんしょーか。
チャカチャンチャンチャン♪
「お前は舞い上がってるんだよ」
「そんなことはないわ」
「好きなところの1つも言えないじゃないか」
「お父さんは? お母さんのどこが……」
「馬鹿野郎。問題をすり替えやがって、お前は」
攻めるのはいいが攻められると顔色が変わるという人はいるもんでござんす。しかし自分の好きなものを相手に紹介するというのは、意外に難しいもんでござんすねえ。好きな映画1つ紹介するにしたって、こいつはなかなか骨が折れる。好きな小説1つ紹介するにしたって、簡単なことではござんせん。貶すのは簡単でも、誉めるのは難しい。そいつが人間そのものとくれば、どれほど大変なことでござんしょうか。どーなんだーい!
チャカチャンチャンチャン♪
「お前は言えないのかー!」
「たくさんありすぎるのよ」
「こいつは何で黙ってるんだ。入ってこないのか」
「少し緊張しているだけよ」
「話にならない野郎だな」
「どうしてそんな酷いことを」
「話にならないからだよ」
「この人でなきゃだめなのよ!」
「この人だ? よく見ろ、こいつは鬼じゃないか!」
好きになったら一直線。感情的にはいい人にしか思えなくても、客観的に見れば鬼だった。そんな話は世間じゃよくあることなんでござんす。しかし愛すれば美しく見える。魔法の磨り硝子と申しましょうか。そんなことでもなけりゃ恋も愛も生まれたもんじゃござんせんぜー。よーっ!
チャカチャンチャンチャン♪
「それでも好きなのよ!」
(そうだとしても好きなのよ)
「全くお前は、誰に似たんだか」
「私も鬼になってみせるから!」
「お前、自分が何を言ってるかわかってるのか?」
「わからないわ! だって好きになったんだから!」
(わからないくらい好きになったんだから)
「もういい。お前の好きにしろ!」
チャカチャンチャンチャン♪
「……」
「お前の好きに忠実に生きなさいと言ってるんだよ」
「お父さん……」
「さあ、もう泣くんじゃない」
雨降って地固まるとでも申しましょうか。
行くところまで行けば何とかなるもんでござんす。
チャカチャンチャンチャン♪
「君も今度は気楽に来なさい」
「……」
「その時はワインでも飲もうじゃないか」
チャカチャンチャンチャン♪
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