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つもり炊飯反省記

 炊飯器に無洗米を入れ、あとは水を入れてスイッチを入れるだけというところまで準備しておいた。少しずつ準備をしておけば、色んなことが後々楽だ。そうしておいて、他のことを色々とした。
 しばらくしてから、コードを差して炊飯器のスイッチを入れた。炊飯が始まった。全く何も思わなかった。これが大失敗だとは少しも思わなかったのだ。しかし、炊飯器にはまだお米しか入っていないのだ。

「あとは水を入れてスイッチを入れるだけ」という状態が、しばらくする内に「あとはスイッチを入れるだけ」という意識に切り替わってしまったのだ。「水を入れる」という重要な部分が完全に消えていた。
 振り返ってみて、私は「疲れていた」という言い訳を思いついた。実際、疲労は単純なミスを引き起こしやすい。
 もう1つの問題は平行的な処理の多用にある。1つ1つ片づければ確実なのを、色々なものにちょっとずつ手をつけてしまう。少しずつ少しずつ手を入れて、いつか幸せの構図がパッと完成することを夢見ている。そのような手法を用いるが故のトラブルだということはわかっていた。どうしてかはっきりとしないのだが、気がついたらそのように動いてしまうのだ。(少しかじったモチーフを置いて、別のモチーフに移る。広げかけたモチーフを寝かせて、別のモチーフを掘り起こす。そんなことばかり繰り返してPomeraの中に、書き出しただけの作文が溜まって行くのだろう)

 炊飯器にお米を入れた頃、玉葱の皮を剥き、スマホを充電し、メモをとり、お茶を作り、次に着るTシャツのことを考えたりしていた。
 スイッチを入れてから1時間ほど経ってから、私は炊飯器のランプが保温になっていることに気がついた。しかし、蓋を開けた時、何か様子が変だった。わーっと出てくるはずの湯気が全く出てこない。お米が全く盛り上がっていない。最初に入れた時と同じように低いままである。ただ、全体が熱くなっているというだけだ。その時、私はすべての失敗を悟った。(この話はここを話のはじめに持ってくるべきではないか)

 私は水を入れたつもりでスイッチを押してしまったのだ!

 これまでの1時間は何だったのか。スイッチを押してからというもの、私はご飯ができることを何も疑わなかった。炊飯器の存在も忘れていたくらいだ。それほどに信頼していたのだ。その間、うどんを食べ、玉葱を食べ、豆腐を食べ、作文を書いた。ご飯が炊けたら、すし太郎を作ろうと団扇を用意して待っていたのだ。
 信頼は裏切られた。私が最初に炊飯の順序を守らなかったからだ。
 行き場を失ったすし太郎が途方に暮れいてた。
 悪いのは自分だ。しかし炊けなかったくらいで済んでよかったとも思えた。物によっては器が燃え尽きてしまっていたことも考えられる。

 改めて水を入れてスイッチを押したが、炊飯は始まらなかった。ディスプレイには見慣れないアルファベットが表示され、繰り返し私に反省を促した。何度試みても結果は同じだ。炊飯器は私よりも賢いようだった。


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