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ほろよい、3%のひつじ雲。


「すき」はいつも、ふっとした瞬間に、けれど、あっという間に、ジワッと、真っ白のTシャツに、醤油が飛んだ時のシミみたく広がる。

あ、飛ばしちゃった。

がーん。

落ちにくいよなぁ、これ。

今この海鮮丼屋で服を脱ぐわけにもいかないし。

よりによって、ぎりぎりアウターで隠せないような場所に飛んじゃっていて。

このままこれを着て歩くたびに、見え隠れするシミにばかり気を取られてしまうことを、少し厄介に思う。

おそらく家に帰るまでの道すがら、通りすがる人には気付かれないくらいの小さなシミだ。


私だけが、気付いているだけの、じんわり滲んだ小さなシミだ。

それなのに、家に帰って服を脱ぐまでずっと、そのシミのことばかりを考えていた。

途中で甘いクレープ屋さんの前を通りかかって、一時シミのことを忘れかけても、クレープ屋さんの店員と目が合った瞬間に、私の全神経がシミのことを思い出して「あ、シミ、見られた」って踵を返して家路を急ぐ。


玄関に、荷物を置く。


アウターもその辺にバサっと投げて、すぐにシミがついたTシャツを脱ぐ。

あぁ。やっと脱げた。

ハンカチをあてて、裏からトントンとシミ抜きをする。

ジワジワっと、また広がる。

あぁ、遅かった。

やっぱりその場でトントンしないと、残ってしまう。

そんなことは、分かってる。


落とそうと思ったときには、もう遅い。

シミの部分に漂白剤を垂らして、ネットに入れて洗濯機に任せてみても、そのシミはとれないことなんか、もう分かっている。


それでも。

ウィーン、ウィーン、ガタガタガタ。

土曜の午後に洗濯機がまわる音を聞きながら

シミジミと、思う。


君のこと、好きだなぁって。


心の中には、とっくに落ちずに、染み付いている。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。 このnoteが、あなたの人生のどこか一部になれたなら。