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世紀末の渋谷を追体験~「ラブ&ポップ」

いまから思うと、1990年代は異質な時代であった、と思う。
文字通りそうなのだから仕方ないのだがどうしても世紀末感を帯びて退廃的・刹那的、少年犯罪やテロ事件などもあって、このまま日本はどうにかなってしまうのではないか、そういう空気感にあった。しかしこの感覚の大半は今もさほど変わっていないということも事実である。
そういう意味で、その前の時代との懸隔が顕著に感じられるのが1990年代ということなのかもしれない。いまの日本はこの頃の感覚を引きずっているのではないだろうか。
この時代の空気を強烈に描き出す作品が、1998年公開「ラブ&ポップ」である。

エヴァンゲリオンやシン・ゴジラで名クリエーターとして活躍する庵野秀明の初実写監督作品。原作は当時人気絶頂の村上龍。

作品は、最初から度肝を抜かれる。
いかに今の映画技術が進歩していようと、こんな演出をしている作品はあまり見られないと思う。ぐらぐらするカメラワーク。セルフカメラを駆使して没入感を際立たせているのだろうか。自分がその場、その隣にいるような感覚。

舞台は渋谷。
いまはだいぶ小綺麗になってはいるが、当時の渋谷は汚かった。工事ばかり。渋谷をよく使う人であれば、その映像を観るだけでも楽しめるだろう。

そして白眉はこのエンディング。

歩いているのは渋谷川。この川も当時はかなり汚かったのではないだろうか。匂いも。。そこを10分弱もひたすら女子高生たちに歩かせるという。

内容はというと、なかなかショッキングな場面も描かれていたりはするが、最終的には救いを持たせていると感じた。
冒頭でも書いたとおり、退廃的・刹那的ではあるが、それに対する評価もできないまま生きざるを得ない若者たち。それでも漠然とこのままではいけないかも、とも彼ら・彼女らは思う。
でも、そんな逡巡をよそに現実は選択をつきつけてくる。そこを乗り越えていくしなやかさを人間は持っているものである。そういうメッセージだったのかな。それが渋谷川の闊歩につながっていると。

ストーリーもさることながら、演出の妙によって真に迫った追体験を観る者を誘ってくれる、もっと世に知られてもよい傑作だと感じた。

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