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すべての人間がこうなのだ、と言っているような~「どん底」

黒澤映画に通底するのはヒューマニズムだと言われる。
でもそれは決して甘いものではなく、残酷なまでに透徹したまなざしであるということは、「七人の侍」に込められているのは周知のとおりだが、群像劇に昇華させた傑作も生みだしている。1957年公開「どん底」である。

正直に言うと、初見の時はその面白さがまったく分からなかった。どこかの名画座で見たのだと思うが、ひたすら長く感じたのを覚えている。
それが改めて観るとどうだろう。役者陣の計算しつくされた演技といい、最後のオチといい、なんと面白いことか!

この映画を一言でいえば、「目くそ鼻くそを笑う」ではないだろうか。
彼らのいる境遇はどん底そのもの。でもそこから抜け出そうと思う者、なんとか恙なくその日暮らしをやり過ごそうとする者、様々いる。どっちがいいというわけではないのだけれど、でも結局はどっちもどっち。酒飲んで歌うしかやってられない。
視聴者はそれをなんて哀れな連中だと思って観ているわけなのだが、実は彼らと何ら違わないのではないだろうか。少々身の回りのものに恵まれていたとしても悩んでいることといったたら大して変わり映えしない。楽しいことと言っても、所詮どん底でいっときトンチキトンチキと踊っているだけなのだ。

そう思うと、下手に希望をなげかけていった巡礼者・嘉平は、なんとも残酷な天使であることよ。

原作はゴーリキーの戯曲。「白痴」の原作は大作なので読むの大変だが、こちらは短いのでちょっと読んでみようという気になった。

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