見出し画像

我々の向かうべき道~「夜の大捜査線」

日本で平凡に生活している分には、よくも悪くも人種差別に対してはとても鈍感なまま過ごすことになるわけだが、アメリカにとっては昔も今もとてもセンシティブな問題であり、それは我々にはきっと想像を絶するものなのだろう。
1960年代公民権運動でアメリカが揺らいでいた時代、まさに世相を象徴するような映画が公開された。とても勇気あることだと思う。1967年公開「夜の大捜査線」

かつて20世紀末の日本で「踊る大捜査線」という刑事ドラマが放映されていた。この奇妙なタイトルは、「踊る大紐育」とこの「夜の大捜査線」からとられているという。
前者は警察とはまったく関係ないジーン・ケリー主演のミュージカル映画。後者こそはハードボイルドな刑事ものなのだろうと思っていた。

刑事ものであることは間違いない。
しかしストーリーの中でそれはさほど重要な位置を占めるわけではない。それよりも黒人蔑視の世相をこれでもかと見せつけている点が画期的であったのだろうと思う。
食堂で注文を受けない、指示を無視する、言われもなく暴力を振るう。そんな蛮行がきっと日常になされていたのだろうが、鈍感な我々でも嫌悪を催してくる。

黒人と白人とがどう共存していくべきなのか。それが本作の最大のテーマではなかっただろうか。作中「白人みたいだな」と黒人刑事の振る舞いに驚く場面があるのだが、裏を返せば黒人と白人は別物とカンカンに思っていたということだ。
事件捜査をともに進めていくうちに黒人嫌いであった警察署長も、黒人刑事の敏腕さには敬服せざるを得ず次第に心を開いていく。

そしてこのエンディングだ。

黒人刑事のカバンを自ら持ってあげ、握手を交わす。まるで長年の友人を見送るかのような笑顔で。
当たり前のことだが、相手のことを知り尊重する。そうすれば友として歩んでいけるはず。そう締めくくっているように思うのだ。

この数年前に、やはり差別問題を扱った作品として「アラバマ物語」がある。こちらも差別根強いアメリカ南部の話で、結局は悲劇に終わるのだが、それでも人間としての良心を描きだしている傑作である。

映画は単なるフィクションではない。当時の世相を映し出す鏡のようなものと改めて感じた作品だった。

この記事が参加している募集

#おすすめ名作映画

8,256件

#映画感想文

68,047件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?