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農家バイト奮闘記(2)【ゲットレッド・ドレッド】

※1日目の話はこちら↓

農家バイト2日目。
いつもより早い時間に寝起きしているので、「Pokémon Sleep」のねむりの約束を果たせないでいる。が、晴れやかな朝を迎え、気持ちよく一日をスタートできるのは、早起きの得ってやつだ。

昨夜は「もう行きたくない」とぼやいていたものの、一夜明けてみると案外気分は軽い。なんかがんばれそうな気がする。

「よっしゃ、今日もいっちょやってみっかぁ!」と野沢雅子ボイスで気合を入れ、今日も出稼ぎに向かうのであった。



昨日と同じ圃場にやってきた。
優しい農家さんらがすでにスタンバイしている。
扇風機おじいもいるじゃん。今日もばっちり風を回して、一人WHITE BREATHを決め込んでいる。いや、今は夏だからどちらかというとHOT LIMITなのか?そんなんどーだっていいか。

バイトの顔ぶれもだいぶ変わっている。昨日いたバイトの女性はおらず、代わりに5人くらいのお兄さん、おじさんがいる。むさ苦しさがハンパないが、人数が増えたので効率は上がるだろう。コンテナを運ぶ重機も2台あるので、二手に分かれることになった。

さすがに2日目ともなればある程度慣れてきているので、今日はそう簡単にへばらんよ。と、フラグを立てる僕であった。


ヘタ切り用のハサミを受け取り、いざ参る。
カボチャの葉や茎だけでなく、雑草までもが道を阻む。
それらを掻き分け進み、手頃なカボチャさんを見つけてはヘタをちょっきん、そしてコンテナ係へパス。
草々を掻き分け進み、手頃なカボチャさんを見つけてはヘタをちょっきん、そしてコンテナ係へパス。
草々を掻き分け進み、手頃なカボチャさんを見つけてはヘタをちょっきん、そしてコンテナ係へパス。
草々を掻き分け進み、手頃なカボチャさんを見つけてはヘタをちょっきん、そしてコンテナ係へ……


めっちゃつらいんだけど(2回目)。


だが、昨日の僕とは少し違う。
めちゃくちゃ疲れるのがわかっているから、体力を温存することを覚えた。
手際よりも確実性を重視することで、消耗のスピードを緩くするのである。

具体的には、スピード重視でぱっぱぱっぱと進めるのではなく、葉や雑草に隠れているカボチャさんたちを取り残さないようていねいにサーチするという戦闘スタイル。動作はゆっくりになるが、広い視野と鋭い観察力が必要とする高難易度の技だ。
こういう単純作業一つとっても、各々の性格が出るのだから、人間って面白い。

僕の前方で作業をしているやさぐれたバイトのおじさんは、前者のスピードタイプらしい。目につくカボチャさんたちを手あたり次第に刈り取っていく。
これがカボチャではなく女性だったら、とんだナンパ野郎だぜ。おやおや、そんなに飛ばしていいのかい?体力の配分を間違えちゃいないかい?それに、お前さんが取り残したカボチャさんたちはたくさんいるのだよ。フォローしている僕に感謝したまえ、ふははははははは!
……などと心の中だけでつぶやきながら、黙々とちょっきん係の任務を遂行した。


昨日より作業には慣れたものの、今日は2つの点で準備不足となってしまった。

一つ目は、帽子を忘れたこと。
まぁ、なくたって仕事はできるが、炎天下での作業に変わりはないので、なにも被らないのは危ない。代替案として、タオルを頭に巻くことにした。TOKIOの松兄スタイルだ。この仕事が終わったら、博多大吉先生と一緒に飲みに行きたい。

二つ目は、長袖を着てこなかったこと。
昨日はタケオキクチ白Tの下に長袖のコンプレッションウェアを着ていったが、長袖はその1着しか持っていない。
長袖の服自体はあるのだが、厚手のロンTやパーカーぐらいしかないので、猛暑日に来ていくのはさすがに無謀すぎる。
やむなくユニクロの半袖ポロシャツで挑むことに。

この判断が仇となり、このあと僕は半袖の洗礼を受けることになるのであった。


長袖で作業しているときはあまり気にしていなかったが、カボチャの葉や茎には、小さな白いトゲがびっしり付いている。
これに半袖の腕を突っ込むとどうなるか。

めっちゃ痛くて、めっちゃ荒れるのだ。

その感覚はサランラップの刃に近く、刺さった部分から見る見るうちに赤くかぶれてしまう。

そして、めっちゃかゆい。蕁麻疹のようにかゆい。
掻いてはいけないのに掻いてしまう。掻くとさらにかゆくなる。そしてまた掻いてしまう。負のスパイラル。

これに加え、強い日差しのせいで肌は焼ける。かぶれ&日焼けの悪魔超人タッグによるフルボッコ状態だ。

そんな危機的状況に陥りながらも、僕は真摯にカボチャさんたちと向き合っていった。うまくやればトゲは回避できる。へのつっぱりはいらんですよ。


火事場のクソ力を発揮しながら肌荒れと戦っていると、ある程度進んだところでポジションチェンジ。僕はコンテナ係に異動となった。両腕が安堵の表情を浮かべている。
そして、それまでちょっきん係をしていたグループではなく、もう一つのグループに出向となった。新たな気持ちで再スタートだ。

同じグループには、あの扇風機おじいがいる。
正直すでに彼に対する苦手意識が芽生えていたが、これは仕事だ。ビジネスの世界では、苦手な相手とのチームプレイを強いられることもある。私情は最低限に抑え、穏便にこなすのがデキる男ってもんよ。
さぁ、扇風機おじい。僕にカボチャさんたちを渡すがいい。
……などと心の中だけでつぶやきながら、黙々とコンテナ係の任務を遂行した。

しかし、ここで予想外の事態に陥る。

扇風機おじいが、カボチャさんを僕に投げ渡す。

それはわかる。そういう作業だもんね。



扇風機おじいが、カボチャさんを僕に「2個」投げ渡す。

……にこ!?

えっ、2個!?

2個のカボチャさんたちが弧を描き、僕の胸に激突する。


いってぇ!!!


鈍器じゃん!凶器じゃん!
なんでそんな渡し方するん!?
だれだよ!昨日僕に「そっと置いて?」っていったのは!

一部始終を横で見ていたバイトのお兄さんも、「えっ!同時!?」と目を丸くさせていた。
だよね?やっぱり2個投げっておかしいよね?
そう思ったものの、30代の若造が、80代であろう2個投げ扇風機おじいに物申すことなどできるはずもない。僕はただただ痛みに耐えながら、カボチャさん×2を受け続けた。

いやぁ、なにが腹立つって、自分だけ扇風機で涼しそうなんだもん。


なんやかんやで終業時間。昨日よりは、楽に作業を終えることができたと思う。
ペース配分が割とうまくいったので、疲労度はそこまで高くない。
雨はまったく降らなかったので、びしょ濡れにならなかった。
給料も、途中打ち切りになって減ることもなく、予定どおり満額支給。
2個投げ扇風機おじいの暴挙には面食らったが、今日は小言をいわれなかった。上出来だ。

農家さんから「これ余ったやつなので、よかったら持って帰ってください」と、トウモロコシを2本いただいた。もちろん、2個投げなどせず手渡しだ。これが本来あるべき人の姿なのではないか。


家に帰り、風呂に入る。
真っ赤になった両腕は、お湯を浴びると悲鳴を上げた。

そんなん2個投げ扇風機おじいのせいにして暖め合おう。


(つづく)


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