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ノウゼンカズラとオリオン座
焼かれた肉を啄んでいるとあたかも野性のようであるが、実際のところそれは極めて文明的行為である。火を使うことは人類の特権のひとつと言えるし、肉を焼くという行為はまさにその最たるものであろう。であるから、目の前の友人Aがそれを野性の発露のごとくかぶりついてるのを見るとこちらとしては呆けてきてしまうのだ。そこで私は馬刺しを食べながら、こちらの方がそちらよりは幾分か野性的であろうなどと嘲ってみても暖簾に
もっとみるLetting me down ×3
何度も殺したり殺されたり死んでみたりということを繰り返していると、命の尊厳というものはよく分からなくなる。男は夜なのにあまりにも明るい空を見上げながら、都心の夜景へと目を落とす。さらに目線を下げると黒い川があちらとこちらを分断していた。
黒い川がせり上がってきて白く輝くと女性の形を帯びてそのまま男の身体を半分に分ける。男はまただと思いながら、黒い川を真っ赤に染め上げた。空は闇に溶けていく。
Tumbling down ×3
赤い空に紫の雲。幻想的な映像の中で僕は君と向き合う。
「世界に2人しかいなかったらね……」
僕がそうやって君の瞳を見る時に、瞳の中には僕がいる。
「それは大変なことね」
君は東か西かどちらかも分からない空を覗きながら呟いた。
………………
月の浮かぶ海の中で私は溺れていた。水の向こうから声が聞こえる。
「世界に2人しかいなかったらね……」
声はそう言って沈黙した。青い世界の中には何もない
九月はだってまだ暑いから
静雄が由利香に出会ったのは、伊豆の浄蓮の滝でのことだった。街では五月蝿い蝉の声もせず、ただ滝の流れる音が響いていた。暑い日のことだった。
そこでどんな会話を交わしたのか静雄は覚えていなかったが、もう少し涼しくなったらまた会いましょうと連絡先を交換したことは覚えていた。連絡先を交換してからなにか話したという訳ではなく、履歴にはよろしくの挨拶だけが残っていた。
もうすぐ九月になる。そろそろ何か連絡
くっしゅ くしぇ 〈さ:殺人犯〉
三日月が嫌いだ
「俺はもう上を向いて歩くことができない」
彼はそう言うと、また目線を落とした。オレンジジュースの氷が溶けてカランと音が鳴る。
私は彼の気持ちが分からなかった。それは仕方のない事だったのでは無いのか。コーヒーを一口飲んでから、そのことを聞いた。彼は言う。
「止められたんだ。止められたはずなんだ」
そして彼は顔を覆った。
私は安易な慰めの他にできることがなかった。
くっしゅ くしぇ 〈こ:固形燃料〉
忘れられないことなんてそうそうあるものじゃない。大抵の事柄なんて何年もすれば風化して全部忘れてしまう。でも一つだけ、この感情だけが何故か心の奥底で、燃えることを待っている。
パチパチと弾ける焚き火を見つめる。火の向こうにいる貴方が揺らめいている。こんな日が来るなんて.......。不思議な気持ちに覆われて空を仰ぐ。満月が、傾いている。深い夜。
古い感情というものは溶けるものだ。少
くっしゅ くしぇ 〈け:ゲームセンター〉
化学的な香料がまだ鼻の奥にこびりついている
そこは放課後に行くところ。友達と行くところ。私には縁がない。友達がいないから。
でもその日は違った。普段なら真っ直ぐに帰るのに、その日は何故か私はゲームセンターにいた。
隣ではクラスでちょっと浮いてるギャルの子が笑っている。なんで私なの?
ゲーム機の音がガヤガヤと響いて、耳が痛い。なんで笑っているの?
クレーンゲームの景品を押し付けられた。