見出し画像

桜の咲く頃(恋模様2年1組#1)

出席番号10番  志賀山コウタ

「また、隣ね」
 4月、そう声をかけてくれたのは、七島さんだ。七島さんとは、2年連続で同じクラスになった。僕にとって、席替えをするほんの少しの間、七島さんの隣に座ることができる時間は特別なもの。
 
 彼女と初めて出会ったのは、去年のちょうど今頃。入学式に向かうバスの中だ。
 差し込む日差しで微かに茶色に見えた七島さんの長い髪は、しっかりと一つに束ねられていた。その時の彼女は、少し緊張しているように見えた。

 同じバス停で降りて、入学式に向う。バス停からは長い坂道が続き、周りを見渡すと、皆が家族連れで歩く中、僕と"七島さん"だけが一人で登っていた。
 
 しばらく経つと、"七島さん"のことを、いつの間にか周りが、”ハルカ”と呼ぶようになった。それからすぐに、"七島さん"は、眼鏡を外してコンタクトになった。長かった髪は、肩まで切られ、日差しにあたらなくても微かに茶色になった。

 今の彼女は、クラスの真ん中にいる。
 僕は、入学式からずっと変わらず”七島さん”のままだ。

 チャイムが鳴った。端っこの席から黒板に、一直線に進む。教室の後ろの方では、また、ユウマと七島さんの笑い声がしていた。右上から方程式を消していく。手に取った黒板消しは真っ白で、その煙で僕の眼鏡が、少しだけ汚れてしまった。ちょうど真ん中まで消し終えると、声がした。

「ありがとう」

 振り向くと、すぐ横には、もう一つの黒板消しを持った七島さんが笑っていた。

 僕は、思わず手を止めた。
 
 "七島さん"は、覚えているだろうか。
 初めて声をかけられたあの日も、僕にそうやって、大きな目を細目ながら笑いかけてくれたことを。

 窓から見える桜は、今年はもう散り始めている。あの日から、僕は、"七島さん"に恋をしている。きっと、これからもずっと。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?