オバッカサマへのお詣り 【短編小説】

 僕の住んでいる地域にはオバッカサマと言う神様がいるという。
 この神様というのが恋愛成就の神様だとか、
 世間的には有名じゃないのでそこらへんのことを知っているのは地元のやつらだけだった。

 僕は童貞だ。
 こんなこと堂々と言うことではないだろう
 でも僕が童貞だったことがことの始まりだった。
 年齢=彼女いないを18年続けてきた。
 それがどうというわけがない、今の今まで好きな人というのが出来た試しがなかったのだから。
 その現状を知ってか知らずか母親にオバッカサマのお詣りをしなと命じられたわけだ。
 そんなこと知られねぇババアと言ってやってもよかった。端的に言うと無視して良かったのだがおばあちゃんがお詣りにやる気を出したのが良くなかった。お詣りにやる気を出すとはどういうことかと当然の疑問符を立った、神社に行くだけに何の準備をする必要があるという話である。
 しかしオバッカサマのお詣りは何かしらの準備をしていくらしい、そして僕は興味がなかったので知らなかったのだがオバッカサマの祠はどうやらややこいところにあるそうだ。

 僕は裸で外にいた。
 警察に通報するのは待ってほしい下にはいわゆるふんどしというやつを着ている。それが警察に通報されない理由になるかと、冬の寒さによって自信がなくなってきた。
 何と頼りがない男。ふんどし姿の僕はそう見えた。
 馬鹿らしいことだ。
 しかしそんな馬鹿げたことをやっている奴はどこにでもいるもんだ。周りには同じような装いの男がいたし、女性もいた。
 突然太鼓を強く激しく叩く音が聞こえた。
 それは何かの合図だったようで周りにいる人はどこぞに向かっていく。
 しかしそれが皆バラバラの方だったので誰についていくことも出来ず、1人取り残された。
 いや1人というのは僕の早とちりだったらしく1人女性が残っていた。
 髪が短い女性だった。上はあるが薄手で肌の露出が激しい装いだった。肌は光輝く白色で女性らしいカーブを描くような体のライン。慎ましながらも確かに存在を主張する胸。
 柔らかそう。エロい、エロい、エロい、エロい、えーとっ、エロい、エロい、エロい、、、
 ん?
 悟りの境地に至りそうな僕に誰かが呼びかけているような声が聞こえた。
 いつのまにかなっていた結跏趺坐(けっかふざ)を解き声の主に顔を向ける。嫌ずっと向いていたんだけどね
 僕が呼びかけに気づいたことが分かったのか女性は少し嬉しそうな顔(多分僕の願望でなければ)して口を開いた。
「鳩豆くん、だよね。高校の時一緒だった」
 これはビックリ知り合いだった。この世でも最も重要なことを考えていた気がするので相手の顔を見ていなかった。
 こんな馬鹿げた状況で出会ったからか、それとも分かりやすくその子に欲情していたからか、ちょっとバツが悪い感じで
「そうだよ」
 といった。
 ・・・・・・・・・ー-(ニッコリ
 嫌どうしろと、僕の記憶の限りではこの子、、
えーと、と、富樫小石だろうはずの子とは高校1年生の時のクラスメイトで僕はいわゆる高校デビューというのだろうか、それを失敗してしまったのでその頃のことはあまり思い出したくはないのだし、当たり前にクラスのどの女子とも仲良かった記憶は残念ながら神様に祈ったってないのである。
 気まずい空気がひと通り流れた
「こんなところで奇遇だね富樫さん」
「ホント、奇遇だね鳩豆くん」
「なんでまたこんなところに」
 会話を無理くり続けようとと思って出した言葉だが確かにそうだ。何故ここにいて、そんな酔狂な格好をしているのだろう。それは単純に疑問であった。
「おばあちゃんがね、やってみなさいって」
 僕と似たような理由だったらしい。そういう彼女にちょっとした呆れが見えた気がした。
「僕も似たような感じでね、これからどうすればいいんだろう?」
「どうすればいいんだらうね」
 、
 まぁ、停滞に意味はないし静寂は苦しい
 僕は適当な方向に2、3歩足を進めて後ろにいる富樫さんを見る。意図に気づいたのだろう、富樫さんも同じ方向に歩み始めた。
 何かの始まりを告げるようにあたりが霧がかかってきた。

 遭難したら現在地から動かないことが基本原則であるらしい。
 適当に動き出した僕らはどうやら道に迷ったらしい。
 カムダウン、カムダウン
 落ち着くように頭の中でそう唱える。
 まあ、テキトーな英語で唱えている時点で落ち着いているのだけれど、道に迷ったことで起こった問題がある。道に迷ったということ以外で、
 それはこのお詣り、オバッカサマへのお詣りというのがよく分からないということである。
 おばあちゃんに流されるままこんな格好をしてよく分からないところに連れてこられた。こんなに流される僕も悪いかもしれないが、おばあちゃんが何か知っていそうな感じだったのでとりわけ問題ないだろうと思っていたし、人が集まっている場所で何かしらの説明があるんだと思っていたのだけれどそう類のものはなかった。
 そしてここにいる富樫さんもまた同じ状況であるのだろう。
 そんなことを考えながら歩いていたが富樫さんは道に迷ったことに気付き始めたのか不安そうな顔をし始めてしまった。
「大丈夫だよ」
 大丈夫ではない話の切り出し方をしてしまった気がするが、大丈夫なのである。
 そもそも最初に集まった集合場所には家から30分も歩いてないし、同じく適当に歩き出しはじめてから30分も経っていない。僕がここらへんにいることは連れてきたおばあちゃんはもちろん両親だって知っている。僕らが馬鹿げたことをしなければ最悪の事態にはならない算段がたっていた。
 僕は歩みを止め、富樫さんと向き合ってもう一度、大丈夫と言った。
「大丈夫なの、迷っているんじゃないの」
 まぁ迷っている。
「それに寒い」
 確かに寒い。
「じゃあ、抱き合って僕たち同士で暖め合うというのはどう?」
「そんな遭難の最終局面みたいになりたくないから聞いてるの!」
 大丈夫じゃないんじゃない、そう富樫さんが言った。
 あたりは霧がかかってきた。
 ん?
 視線の先に微かに小屋のようなものが見えた気がした。

 1人は弱いと理解したのは一体いつのことだろう。

 僕たちは小屋の中にいた。
 それは少なくともこの寒空の中外にいるよりは賢い選択だっただろう。
「何もないね」
「………………」
 返事は無かった。
 この小屋の中で2人という状況で返事をしないというのは軽い拒絶である。
 僕は彼女のことを視線から外して考えた。 
 これからどうするのだろうー

 幼い頃迷子になったことがある。
 その時は親が絶対通る場所でずっと待っていた。子供ながらに大丈夫という自信はあったが、しかし不安な気持ちは待っている間ずっとあった気がする。
 今そんなことになっても不安な気持ちにはならないだろう。
 違いは自分が知っているかどうかだと思う。
 子どもころの親に連れていかれるままよく分からない場所に行くのは今思うと不思議な気持ちである。
 今ちょっとそんな気持ちになった。
 僕らは帰れるだろう。
 でも自分がどこにいるのか。
 本当の意味では分からないでいる。
 僕は何となく隣にいる富樫さんに手を伸ばした。
 富樫さんは何も言わなかった。
 富樫さんの顔を見る。
 富樫さんはぼーっとはして見るからに危ない感じになっていた。
 問いかけに対して反応がないあの時から富樫さんはこうだったのかもしれない。
 それなのに拒絶されたと思って僕は、
 何が出来るでもないけれど僕は富樫さんを抱きしめた。
 大丈夫と思いをのせて。

「ソウ君、もう大丈夫だから離れてもいいよ」
 富樫さんがそう言った時に僕の意識は戻った。
 温めようという思いで富樫さんを抱きしめていたがその間僕の意識はいつのも間にか落ちていたらしい。
ごめんと言って僕は富樫さんから離れると、
「ううん、ありがとう」
 と言ってくれた。
「ソウ君って」
 いつのまにやら下の名前を、そう呟く。
 ごめんヤダだったと彼女がそう言うので僕は急いで強く否定する。
 しかし自分だけと言うのも何なので、
「小石」
 と僕も相手の下の名前で呼んでみた。
 何も返してくれないのでやってしまったかと不安になったが、僕の手を握り顔を見て笑ってくれた。
「ソウ君はどんな人がタイプなの?」
「えーっと、髪が長い子とかかな」
 適当に出た言葉であったが何というか馬鹿なことを言ったと思った。
 その後どれくらいかは分からないがたわいもない話をした。身を寄せ合いながら
 外に光を見た気がした。
 それはこの小屋を見つけた時のような感じで微かにだったがそこに行った方がいい気がした。
 僕は小石を連れそって外に出た。外は思ったより温かい気がした。

 僕らが光があった方に向かうとそこには社があった。
 これがオバッカサマの社なのだろう。そこには集合場所にいたような人たちはいなく僕ら2人だけだった。何をすればいいのだろう。
 手を合わせてみようよと小石から提案があったので僕ら2人は手を合わせて何かを願うのだろう。
 オバッカサマは恋愛成就の神様らしい、僕には成就して欲しい恋愛なんてなかったのだけれど
 僕の記憶はここでない。気づいたら家のベッドにいた。その後この社を見つけてみようとしたが見つけることは出来なかった。その日のことを誰も話そうとはしなかったし何となく僕も聞く気にはなれなかった。不思議なことがあったということにして片付けている。
 そんな馬鹿みたいな話。

 それから1年、
 僕は髪の長い女性と結婚した。

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