見出し画像

「そんなことない」って言うのは簡単だけど、それじゃ誰も救えない気がする

うまく行かなかった時やそれを周囲の人に恥じる時、「私って馬鹿だよね」とか「自分おかしいよね」などと自分を卑下する言葉を口にしがちだ。そしてそういう相手に対して「そんなことないよ」と言ってしまうのである。無意識のうちに。

今回は、そんな状況の時に
どんな言葉で相手をケアできるのかについて考えてみたい。

そもそもの話〜ケアと言葉〜

私は福祉学部の学生だが、別に高齢者や障害者の介護方法を学んでいるわけではない。どちらかといえば、いわゆる「普通の人」たちのこと。
福祉は、限られた人たちのものではない。
「普通の人」にだって、困ってしまうことがある。誰かを頼りたいって思うことがある。そして私たちはそういう「普通」の相手に対して、自然にフォローすることができる。

名前を呼んだり、挨拶したり。
微笑みかけたり、仕事を手伝ったり。
話を聞いて、一緒にご飯を食べて
いろんな方法で私たちはケアをする。
そんな日常に溶け込んでいる福祉的な行為を
あえて取り出してみて、考えている。

その日常的なケアの一つに、「言葉」がある。

私たちは何気なく放った一言に傷つくこともあるし、
逆に心が救われたりする。
言葉にそれだけの力があるのなら、相手をケアする言葉を使いたいものだ。

「そんなことない」じゃ物足りない

さて、前置きが長くなったが、最近見ていたドラマで気になる言葉があった。パイロットと航空管制官のラブストーリー「NICE FLIGHT!」

4話では、空港で働く仲間同士でキャンプに出掛ける。

整備士のジェームスはバツイチ。彼に思いを寄せるCAの理香子は、キャンプを機に急接近する。しかし、相手の返事は「恋愛するつもりはない」。

そんな彼女が親友の真夢にこう語る。

「焦ってたんだよね。毎日あの白ジャケットを脱ぐたびに、私からこれを取ったら何が残るんだろうって。私は何者でもなくなる。急になんだかいろんなことに焦っちゃったんだよね。突然彼にアタックなんかして、みっともなかったよね。」

白ジャケットはチーフの証。それがなくなったら何者でもなくなる。恋もうまく行かずに、みっともなかったよね、と。

きっと私だったら「そんなことない」と返しただろう。みっともなくない、そんな風には思わないって。そう思っていたとしても思わなくても。

だが、真夢の言葉は違った。

「どうして切り離すの?あの白ジャケットは、理香子が懸命にがんばってきた証でしょ?理香子の一部なんだから」

どうしてこんなにも温かいのだろうか。
「そんなことない」よりもやけに説得力がある。
そして救われるなぁと思う。
私からはこの言葉は出ないと思った。
どうしたら、こう話せるのか。
どうすれば相手をケアする言葉が出るのか。

口をついて出る言葉を減らす

どうして「そんなことない」って言ってしまうのだろう。
口をついて出てしまうのだからしょうがないのだが。
きっと何も考えずに言葉が出るのは
エネルギーを使わなくて楽だからだと思う。
相手にどう返そうか、何て言ったらいいか、
わからなくて困っているときは
とても苦しい。
とりあえず「そんなことない」と言っておけば
相手に対する申し訳なさを軽減できる。
苦しむことなく、悩むことなく、場をやり過ごせるのである。

そう考えてみると「そんなことない」という返しは
相手のためではなく、自分のための言葉なのかもしれない。

相手に注意を向ける、相手を大切にしようとする
「ケア」の言葉ではないのかもしれないと思えてくる。

では、どうしたらケアの言葉になるのだろうか。

まず、できるのは「そんなことない」という言葉を飲み込んでみること。
声にする前に、考えてみること。
本当に「そんなことない」でいいのだろうか。
相手に何を伝えたいのだろうと考えること。

もちろん、考えてそれでも「そんなことない」が適切なら
そう伝えてよいだろう。

だけど、自分のために、
逃げとしてその言葉を使いそうになったら
踏ん張って考えたい。
私に何が伝えられるか。

自虐を否定しなくてもよい

私が、真夢の言葉に惹かれたのは、
そうした逃げではなく相手のための言葉であるからだ。
そして、自虐は必ずしも否定しなくてもよいのだなと思った。
真夢の言葉は「みっともない」とか「何者でもない」というセリフを否定していない。ただ、前提にある捉え方に疑問を呈しているのだ。

私から白ジャケットをとったら、何物でもなくなる。
その「何物でもない」という部分を否定するのではなく
「白ジャケットをとる」その考え自体が違うんじゃないのって。
取る必要なんてない、だってあなたの一部なのだからと。

言葉が出てこない

こんな風にケアの言葉が自然に出てくる人になりたいと思う。
でも、実際にやってみようとすると、言葉が出てこないのだ。
言葉の持ち合わせが少ないために絶句してしまう。
でも、それは仕方がないのだと思う。
今までの言葉を何も考えずに使い続けたら、
ケア的な言葉は出てこないだろう。

絶句してもいいから、考えること。
言葉が出ないからと言って、テキトーに言葉を選ばないこと。
そういった日々の訓練が、ケアにつながると信じて。

この記事が参加している募集

#テレビドラマ感想文

21,274件

#ドラマ感想文

1,447件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?