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こんなに不幸で、こんなに寛容で、こんなに癒される映画を見たのは初めてかもしれない。「凪待ち」

寛容さ、についてよく考える。
懐の深さや、許すこと。

ちなみに、私は寛容さを持ち合わせていないと自覚している。

人を受け入れるってすごいことだ。
面倒だし、忍耐強くないといけない。
私は「愛がすべてだよ」と伝えた相手に殴られたとしたら、きっと舌の根も乾かぬうちに相手を憎んでしまう程度には忍耐がない。

だからだろうか、映画のキャッチコピーで「泣ける」とか「感動する」なんていう言葉がついていると身構える。
「本当に?」と疑ってしまうのだ。
上っ面の正義や感動だったら承知しないぞ、という気分になってしまう。
愛や感動をプッシュされて、「まさに!」と思ったことがあまりない。

何が言いたいかというと、愛や寛容さについて非常に疑り深い私が、これは心底「救いの物語だ」と感じたのが映画「凪待ち」だった。

主人公はギャンブル依存で金にだらしないが、ぶらぶらしているほかは取り立てて可もなく不可もなく、凡庸に生きている。
同棲中の恋人とその娘と、彼女の故郷である石巻に引っ越して心機一転するはずが…というストーリー。

何もかも奪われて無くなって、夢も希望もなくて、何をやってもうまくいかなくて、それどころか不幸の連続で、自暴自棄になったらさらに堕ちていく。

すごいな、と思うのは、主人公が容赦なく不幸に突き落とされる様だ。
たぶん、普通の(?)映画だったら、この辺りで救いがあるだろう…というあたりでさらに不幸が起こる。
やるせないしどうしようもない、思わず「やめろ!」と叫びたくなるけれど、淡々と泥沼に落ちていく。

しかし、そんな泥沼の底にあったのは、石巻の海のような果てしない寛容さだった。

上っ面の優しさや正義の横っ面を片っ端から張り倒されて、倒れこんだ泥沼に癒される。そんな映画だ。

ストーリーと震災がリンクしている。
主人公の再生は、被災地の再生でもある。

軽々しい「愛」が一瞬で吹き飛ぶくらいの、重く、真摯な関係性がそこにあった。

こんなに不幸で、こんなに寛容で、こんなに癒される映画を見たのは初めてかもしれない。


<Spark Joy!>

★キャストがもれなく、みんないい。すごくいい。最高。
主演は香取慎吾だったのだが、こういう(薄汚れた)役ができるんだ!と驚いた。恋人の父役・吉澤健と、恋人の幼馴染役リリー・フランキーがこれまたすごかった。

★主人公の心情がカメラワークで表現されているのだが、その魅せ方が良かった。

★(ネタバレになるのでぼかしますが)最後、アレを取り戻してお父さんに渡すときのやりとりが沁みる。

★元・ろくでなしが、現・ろくでなしを救う。
救われた経験から、今度は人を救う側になる。

いずれ救われたいから人を救うわけではないけれど、「相手はいつかの自分だ」と感じることが寛容さをもたらすのだなと腑に落ちた。

<Please!>

★こんなにすごくいい映画なのに、あまり周知されていなかったのでは…?
(私は映画ライターの方が褒めていた記事で知った)
主演・香取慎吾と見て、元アイドルかーと思った方は先入観を捨てて是非見てくださいー。良かったですよ!

<凪待ち>

監督:白石和彌
脚本:加藤正人
キャスト:香取慎吾 恒松祐里 西田尚美 吉澤健 音尾琢真 リリー・フランキー


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