マインドフルネス的銭湯殺人事件? 殺し屋…なのに、なぜか「あるある!」と共感しちゃうハートウォーミングストーリー。映画<メランコリック>
あたりまえのことは、疑問を抱きにくい。
いい大学を卒業したら一流の企業に就職するし
銭湯は身体を洗って温める場所だし
人を殺す人はきっと怖い人だし
ニコニコしている人にはきっと裏がある。
…という前提をいちいち覆して「本当にそうなの?」と問いかけてくるのが、映画「メランコリック」だ。
すっごく見たい!と思っていたところ、トークショーつき試写会に当たった。
バイトを始めた銭湯は、深夜に風呂場で人を殺していた…というストーリーの理由が
「人を殺した血を洗い流せるし、死体は燃やせるので合理的」と聞き
「何故いままで誰もこの設定を思いつかなかったんだー!!」と膝を打った人はたくさんいたと思う。
(少なくとも私はそうだ)。
殺人事件が起こるのであればさぞかし手に汗握るサスペンス…と思いきや、超絶ハートウォーミングなお話だった。
主人公は東大を卒業してから一度も就職したことがなく、実家暮らしでバイトをしている。
「お風呂のお湯、抜いちゃったわよぉー」というお母さんの言葉に近所の銭湯に行くと、かつての同級生である女子に会う。
(笑顔が超かわいい)
この女の子の言葉がきっかけでその銭湯でバイトを始めるのだが…
同じ日にバイトの面接を受けた金髪男が、超バカッぽいのに「君も合格ね」と東大卒である自分と同じレベルで採用されちゃうことに動揺する感じとか、とにかく「あるある!」というエピソードが積み重なっていく。
・学歴の差があるのに同じ扱いを受けるジレンマ
・社会で成功した男に群がる女たちを横目に見るやるせなさ
・重要な仕事を自分が任されない悔しさ
・親には強気になれる内弁慶
・逆らえない上下関係
・好きな人につい見栄を張りたくなる気持ち
銭湯で殺人というファンタジーな設定なのに、細かな会話や描写や表情がどれも「あるわー、これはある」という覚えがあることばかり。
気づかぬうちに、登場人物たちと友達になったような気分になる。
そして、すっかり心を許した段階になって、彼らがある危機に直面するのだ。
この映画は、アクションとしてもサスペンスとしてもハートウォーミングな話としても面白いのだが、
私は「何で?」というセリフの使い方にすごくインパクトを受けた。
主人公がとにかく「何で?」って聞く。
「何であいつにだけ仕事を任せるのか?」
そして、彼も、「何で?」ってよく聞かれる。
「東大卒業してるのに、何で銭湯で働いてるの?」
登場人物たちは、
「何で?」って問い続ける人と
「何で?」とまったく問わない人の
二通りにわかれている。
真剣に考えること
考えないこと
何で?って訊くこと
訊かないこと
この対比が重なり合って、ラストシーンになるのが面白い。
結局、あれこれ考えるよりも
「“今”を楽しもうぜ!」って感じになる。
今を感じる…
マインドフルネス的銭湯殺人事件(!?)。
世間的には「考えること」が大事だとされているし、何かが起こればつい理由を探す。
でも「何で?」なんて聞いてこない人に救われていることだって多い。
もちろん考えることも必要なんだけれど、「色々あっていいじゃん」と思える。
楽しみつつ、ちょっとあれこれ考えさせられつつ、本当に存在しているように思える彼らに元気をもらうような、そんな映画だった。
・
銭湯で殺人という、日常的なものに非日常な目を向けるのって、簡単なようでいてすごく難しい。
映画のストーリーも「あたりまえを疑う」というテーマがあるように思うが、そうやって作られたのがこの映画なんだなと思った。スゴイ。
<Spark Joy!>
★登場人物が、どれも愛すべきキャラクター。同僚役の金髪・松本君の銃の構え方にキュンキュンします。(トークショーでは、かなりの銃マニアっぷりを披露してた)アクション指導は、この松本役の磯崎義知氏が担当。
(たぶん男子はヒロイン役の百合ちゃんにメロメロなはず)
★この映画は、主人公兼プロデューサーの皆川 暢二氏が、「(役が来るのを)待っているだけではなくて自分からアクションを起こそう!」と立ち上がって友人に声をかけて作られた映画。だから、あのラストだったんだなーと納得。
余談ですが、映画ではまったく格好良く見えない主人公、トークショーで拝見したらリアルはイケメンでびっくりしました。役者ってすごい。
★あの両親の態度がこう繋がってくるのか!という感動。
全体的に無駄がなくて、テンポがものすごく好みだった。コメディセンスも好き。
★アクションシーン、銭湯、一人暮らしの部屋、家族での食事や居酒屋など、セットっぽさがなくてリアルさを感じるのが良かった。
(日常の食事風景とか、普通のおうちの設定なのに食器が綺麗に揃ってたりすると違和感覚えてしまうので、それが無くて良かった…)
★映画を作るに至ったいきさつにすごく共感したし、応援したくなった。自分も頑張ろうと思えました、ありがとうございます。
<Please!>
★最後にナレーションがあるのだけれど、あの結論以外にも色々な答えを見出せそうな映画なので、あえて何も言わなくても良かったのか…
しかし、メッセージがあることで理解も深まるのであった方がやっぱりいいのか…とか考えつつ答えは出ない(←)。
★すごく面白い映画なので、上映館増えてほしいなー。
私も、二度目観に行きます。
<メランコリック>
https://www.uplink.co.jp/melancholic/
制作:One Gooseワングース(3名からなる映画製作チーム)
皆川暢二(プロデューサー・俳優)
田中征爾(監督・脚本・編集)
磯崎義知(俳優・アクションシーンの構成・演出 )
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