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怒りと悲しみの連鎖

私の住む街は、傭兵の街だ。

南の王国と北の帝国との国境付近に位置しているこの街は、昔から幾度となく戦場となり、その都度、多くの人々が犠牲になってきた。

荒廃した街で、家も親を失った戦争孤児たちの多くが行き場をなくし、人身売買さながらに傭兵団に安く買いたたかれ、そして少年兵として武器をとって戦う。
この街が豊富な傭兵の戦力を備えているのはそのためだ。

そして両国はその豊富な傭兵を戦力として、ずっと激しい争いを続けるのだ。

かくいう私も、10歳のころから剣を持ち、スジと運がよかったのか、今では腕利きの暗殺者として多くの要人を殺めてきた。
今日は王国側の参謀の無力化を任務として、街の入り口に立つ砦へ潜入する。

実はこの砦は幼い頃に来たことがある。
私の父親も兵士で、砦の門番をしていた。
子供心に、敵と戦うという父親の仕事に誇りに思っていた私は、来るなと言われていたにもかかわらず、何度も父の姿を見に門の付近まで近寄っては度々怒られていた。

あのころと比べて、あちこち補修された跡はあるものの、幼い記憶と比べ、随所に残る面影を懐かしく思い、戦場だというのについ口元が緩んでしまった。

「笑ってんじゃねーよ、この裏切り者」

震えながらも強い意志を感じる、子供の声だった。
一瞬の隙があったのだろう、私の懐にはいつの間にか小さな暗殺者の影があった。
わき腹に強烈な痛みとともに、鋭い刃物の切っ先の感触が入ってきた。
うまく息ができず、体を支えることができずにを膝をつく。
なんとか壁に体を預け、声の主を見るとなんとなく見覚えがあった。

帝国側の反乱組織に武器を納めていた闇商人の息子だ。
いつだったか、その闇商人を私が始末したことを、この子はどこからか情報を得て復讐に臨んだのだろう。
年は10歳ごろか、少年兵というにはあまりにも幼く、ただ、その瞳には憎悪の炎がしっかりと宿っている。

強い意志のある良い目だ。
あの時の私と同じ目。
そして実に見事な一突きだった。

こうして私は、思い出の砦の門の前で最期を迎えた。
あの日、私の目の前で父を殺した敵兵士を、父の遺体から引き抜いた短剣で刺し殺し、最初の手柄を挙げたその場所で。

願わくば、この小さな暗殺者の彼には、穏やかな死が訪れんことを。

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