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note連続小説『むかしむかしの宇宙人』第17話

前回までのあらすじ
時は昭和31年。家事に仕事に大忙しの水谷幸子は、宇宙人を自称する奇妙な青年・バシャリとひょんなことから同居するはめに。そんなバシャリが『空とぶ円盤研究会』という謎の会にいきたいというのだが……

→前回の話(第16話)

→第1話

家を出ると、澄んだ青空が広がっていた。最初は乗り気ではなかったけれど、次第に晴れやかな気分になってきた。

「いやあ、いい天気ですね」

空を見上げたバシャリの奇妙な服装を、わたしは見とがめた。

「あなた、いい加減シャツの上に腹まきをするのはやめてくれないかしら

「どうしてですか? これほどの素晴らしい品は、周囲の目に晒すべきですよ」

あの日以降、バシャリはどこに行くにも腹まきを身につけている。それも、シャツの上からだ。

みっともないからやめろ、と口をすっぱくして注意しても、毎回この調子ではぐらかされる。

「それに勝手に帽子まで……」

バシャリの頭の上ではまっ白のパナマ帽が、日光を受け止めている。

「これですか」

と、バシャリは帽子のつばに手をかけた。

「これは周一からの贈答品ですよ。いいものですね、地球の帽子は。あらゆる害悪から身を守ってくれます

また大げさなことを言って、と呆れていると、

「みんなでお出かけかい」

家の前を箒ではいていたマルおばさんに声をかけられた。目尻をさげて微笑んでいる。

「おおっ、マルおばさん。相変わらず栄養を過剰に摂取した体形をされていますね

バシャリがわけのわからない挨拶を返した。

「あんたも、今日も腹まき似合ってるよ」

「そうでしょう。でも幸子は腹まきを外せと言うんですよ。信じられますか?」

「本当だね。そりゃさっちゃんが悪いわ

マルおばさんが豪快にわらいながら同意した。

バシャリはすでに近所中の有名人だ。腹まきをした映画俳優以上に男前の男性が、自分は宇宙人だと言い張るのだ。

目立たないわけがない。バシャリについて問われると「勉強のしすぎでおかしくなった大学生ですわ」と、答えることにしている。我ながら完璧な嘘だと思う。


記事にあった空とぶ円盤研究会の所在地は、五反田駅のすぐ近くだった。わたしは、記事の切りぬきをたしかめた。

「住所はここなんだけど……」

そこは、古びた書店だった。木造の一軒家で、トタン屋根の一部が今にもはがれ落ちそうだ。

店前には一応、新刊本や入荷間もない雑誌も並んでいるが、たいして売れている様子もなく、普通の書店にあるような宣伝用ののぼりもない。

商売っけというものが、一切感じられない店だ。とても空飛ぶ円盤を研究しているような場所には見えなかった。

店に入るかどうか躊躇していると、

「あなた方も空とぶ円盤研究会に用があるのですか?」

背後から声をかけられた。振り向くと、まっ白なシャツが目に飛び込んできた。

視線を上げると、三十歳くらいの男性が柔和な笑みを浮かべている。

バシャリほどではないが、かなり身長が高い。健吉がさっとわたしのうしろにかくれた。

バシャリがずいっと前に進み出た。

「おお、あなたは空とぶ円盤研究会の人間ですか?」

彼は、目をぱちくりさせた。バシャリの身長にたまげたみたいだ。

彼ほど上背があれば、自分より背が高い人間が珍しいんだろう。だが、すぐに落ちつきを取り戻したのか、おだやかな口調で答えた。

「いいえ、違いますよ。ですがここに用があるのはあなた方と同じだ

「そうですか。では目的が同じ同志として一緒に行きましょう

「ええ、ぜひそうさせてください」

彼は、小さく頭を下げた。

空とぶ円盤研究会に用があるんだから、この人も変わった人なのかしら……

ちらちらと彼を観察した。でも、別段おかしな点は見当たらない。それどころか物腰もやわらかで品も良さそうだ。

足元に目をやると、よく磨きこまれた靴が光を放っている。ずいぶんと上等そうな革靴だった。

→第18話に続く

作者から一言
空とぶ円盤研究会を一緒に訪ねて来た謎の男。この男のことが書きたくて、この小説を着想したんですよね。
そして彼がこの物語の重要な役割を担ってくれます。

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