浜口倫太郎 作家

作家、小説、脚本、漫画原作。元放送作家、漫才作家。毎日1分で読める1分小説書いてます。…

浜口倫太郎 作家

作家、小説、脚本、漫画原作。元放送作家、漫才作家。毎日1分で読める1分小説書いてます。新刊『コイモドリ』、著書『ワラグル』『お父さんはユーチューバー』『AI崩壊』『22年目の告白』『廃校先生』『くじら島のナミ』『ゲーム部はじめました』『私を殺さないで』『シンマイ!』

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  • 1分小説

    たった1分で読める1分小説をまとめています。

  • エッセイ

  • 小説の書き方

  • 小説 むかしむかしの宇宙人

    時は昭和31年。家事と仕事に追われる19歳の水谷幸子の元に、宇宙人を名乗る奇妙なイケメン男性があらわれる。とびきりコミカルでキュートなノスタルジックSFラブストーリー。 毎日7時に一話ずつ更新。

  • 作品分析

最近の記事

入ってますか?ーたった1分で読める1分小説ー

「あー、むかつく」 隆弘に正人が電話をかけてきた。二人は幼なじみだ。同じアパートで、部屋は隣同士だ。 「どうしたんだよ」 隆弘が訊くと、正人が不機嫌そうに答えた。 「今腹が痛くなってトイレの扉をノックしたんだよ。で、『入ってますか?』って聞いたら、『入ってます』って言われたんだよ」 「普通のことだろ」 「でもよ、もう十分も待ってるんだぜ。長すぎねえか」 「……中でスマホいじってるな」 隆弘にも経験があるので、そのいらだちは共感できる。スマホのせいで、トイレにこもるや

    • 窓越しの恋ーたった1分で読める1分小説ー

      明美は、ある男性に恋をしていた。 ただ男の名前も住所もわからない。明美がいつも乗る電車は、ちょうど電車が二台並んで走る箇所がある。 明美とは別の電車に、彼は乗っていた。時間も場所も毎日同じだ。彼を窓越しに眺めるうちに、明美は好きになってしまった。 でも二台の電車が並走する時間は、約二十秒ほどだった。 彼と連絡がしたい。そこで明美は、自身の連絡先をQRコードにしてそれを拡大コピーし、電車の窓にくっつけた。その二十秒間だけ。 三日目で、彼はその意図を察した。スマホでコー

      • 山頂の景色ーたった1分で読める1分小説ー

        「なんだ。ぜんぜんたいしたことないな」 山頂で、若い男は舌打ちをした。 この山頂の景色は世界一美しい。そう言われて来たのだが、とんだ期待はずれだった。 隣で老人が景色を眺めていた。そして心の奥底から感嘆の声を漏らした。 「なんて美しい眺めなんだ……」 「はっ? どこがですか?」 老人が男の足元をチラッと見た。 「君はロープウェイを使ったのかね」 男の靴は泥ひとつなく、綺麗なままだった。 「ええ。足で登ってくるなんて面倒で時間のかかることしませんよ」 ふもとから

        • 告白ーたった1分で読める1分小説ー

          「私、彼氏と別れたんだ……」 喫茶店で望美が寂しそうにこぼすと、拓海の胸が波打った。 拓海はずっと前から望美が好きだったが、望美には彼氏がいたので、その気持ちを必死に抑えていた。 「去年おじいちゃんが亡くなって、おばあちゃん一人になったでしょ。おばあちゃんの寂しさが、彼と別れてよりわかるようになった……一人って辛いよね……」 拓海がキッと目を見開いた。 「俺、ずっと前から好きだったんです。付き合ってもらえませんか!」 ここで告白できなければ一生後悔する。えっと望美

        入ってますか?ーたった1分で読める1分小説ー

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        記事

          硬さ比べーたった1分で読める1分小説ー

          「バカな、俺の方が硬いに決まっているだろ」 「ふざけるな、俺だ。俺の頭はダイヤモンドだ!」 どちらの頭が硬いのか、エビとカニがもめていた。甲殻類にとって頭の硬さは、何より重要なことだった。 その二匹の間で板挟みになったように、カモメがおろおろとしている。 自分が一番硬いとカニが豪語していた。そうエビに口を滑らせてしまい、この騒ぎになってしまったからだ。 そこでカモメが閃いた。 「そうだ。いいことを思いつきました。エビさんがジャンプして、カニさんの頭に頭突きをする。そう

          硬さ比べーたった1分で読める1分小説ー

          お父さんはユーチューバーの韓国版。沖縄の宮古島が舞台だけど、韓国で映画化するんだったら済州島がいいな。

          お父さんはユーチューバーの韓国版。沖縄の宮古島が舞台だけど、韓国で映画化するんだったら済州島がいいな。

          秘剣ーたった1分で読める1分小説ー

          「ではおぬしに、秘剣『流水』を授ける」 しわがれた師範の声に、はっと六兵衛は平伏した。 六兵衛は幼少の頃よりこの道場で修練を重ね、ついに免許皆伝となった。 秘剣・流水とは、九鬼一刀流の皆伝者のみに伝えられる奥義で、会得したものは負け知らずになると言われていた。 いよいよ流水が我が手中に……六兵衛は緊張と興奮で武者震いをした。 「その前に厠に行ってくる。心身を統一して待っておれ。決して動くな」 師範が重い腰を上げ、よろよろと道場から出て行った。 ところが師範は一向

          秘剣ーたった1分で読める1分小説ー

          田中兄弟歯科ーたった1分で読める1分小説ー

          男は以前から『田中兄弟歯科』が気になっていた。 兄弟でやっているのだろうか? じゃあ田中歯科でもいいじゃないか。そんなことを思っていると、歯が痛み始めた。 ちょうどいい。ここで診てもらおう。中に入ると、先生があらわれた。 「ここは兄弟でやってるんですか」 「はい。私が兄の田中一平です」 やはりそうか、と男はおかしくなった。 「あー、上にも下にも虫歯がありますね。まずは上の歯からやりましょう」と兄の先生は早速治療を開始した。 すると途中で、「弟の田中二郎です」と弟の

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          聖地巡礼ーたった1分で読める1分小説ー

          「小園さんは、聖地巡礼が好きみたい」 健太郎は小園恵に惚れていて、なんとか距離を縮めたいと画策していた。 何か共通の趣味でもあればと、小園のクラスメイトから耳寄りの情報を仕入れた。 聖地巡礼とは、アニメや漫画の舞台になった場所などを訪れることだ。夏休みの間、聖地巡礼をしたと小園は語っていたらしい。 健太郎はアニメには疎かったので、猛勉強の日々を送った。流行っている作品や有名な作品はすべて見て、休日になれば聖地巡礼を行なった。 もうバッチリだ。健太郎は緊張しながらも、

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          首斬り役人ーたった1分で読める1分小説ー

          矢切六兵衛は首切り役人だった。 首切り役人とは死刑執行人のことだ。囚人の首を刀で斬って落とす。先祖代々それを生業としてきた。 その技量は、首の皮一枚残して首を斬れるほどであった。 街を歩きながら、六兵衛は己の手のひらを見つめた。シワだらけの手が、見えない血で染まっている。 一体この手で、何百人の命を奪ったことであろうか。役目とはいえ、これではまるで死神だ。わしの人生は、人を殺すためだけのものだったのか……。 歳をとったせいか、近頃漠とした陰鬱な気持ちに包まれる。その

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          おじいさんの古時計ーたった1分で読める1分小説ー

          「この時計が止まるとわしは死ぬ」 祖父は古時計を見ながら、孫の武史にいつもそう語っていた。この古時計は、祖父が生まれた朝に曾祖父が買ってきた。だから自分の分身だと祖父は言い張っていた。 武史はこの古時計が好きで、「この時計欲しい」と祖父にいつもねだった。 けれど祖父は、「武史が大人になったとわしが思ったら、時計をやるよ」とうまくはぐらかし、武史はその度にむくれていた。 時が経って、武史は成人した。ただ祖父は重い病を患い、病院にいた。もう長くはない……医者からはそう言わ

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          宇宙マッチングアプリーたった1分で読める1分小説ー

          男は、宇宙マッチングアプリに登録していた。 男は壊滅的にモテなかった。マッチングアプリで恋人を探すも、惨敗続きの日々を送っていた。 そこで男は、対象範囲を宇宙にまで広げた。 宇宙マッチングアプリを使うと、地球人と容姿がほぼ同じ、マチルダ星の女性がマッチングした。しかも、素晴らしい美貌の持ち主だった。 画面越しにオンライン通話をするたび、男は彼女に惹かれていった。 男は勇気をふりしぼって告白した。 「好きです。よかったら直接会いませんか」 彼女の顔がパッと輝いた。

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          子供部屋おじさんーたった1分で読める1分小説ー

          隣の部屋から不気味な男があらわれ、光助はぎょっとした。 その男は中年で太っていて、色白だった。運動なんて一ミリもしたことがないような、見るからに不健康そうな体型だ。 光助は十歳だ。今日は友達の健太郎の家に遊びに来ていた。 男は生気の欠けた目で光助を見つめる。昆虫みたいなまなざしだ。光助はぞくりとした。 男は、バタンと扉を閉めて部屋に引き返した。 健太郎がすまなさそうに言う。 「……ごめん。お兄ちゃんなんだ」 「お兄ちゃん? ずいぶん年が離れてるね」 「光助くん、子

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          熱心な先生ーたった1分で読める1分小説ー

          「田中、学校に来ないか?」 「……」 扉越しに先生の声が聞こえたが、僕は口を閉ざしていた。 僕は、学校に行っていなかった。 いじめが理由だが、それを親にも先生にも言わなかった。この一ヶ月間毎日のように先生は来てくれるが、僕は会うことを拒否した。 扉一枚を挟んで、先生は一方的に話し続ける。昨日あんなことがあってな、こんなアニメを見てな、などのたわいもない話。 そして、「また明日もくるよ」と寂しげな声を漏らして帰っていく。 無視するたびに、心がじくじくと痛む。 あん

          熱心な先生ーたった1分で読める1分小説ー

          最後の銭湯ーたった1分で読める1分小説ー

          男の背中には、見事な龍の刺青が入っていた。 ここは銭湯だ。男は昔悪の道に入っていた。この刺青はその名残だ。今は足を洗い、まっとうな生活を歩んでいる。 男の隣では、小さな子供が頭を洗っている。最近、シャンプーが目に入るのを怖がらなくなった。 風呂から出ると、老人が微笑んだ。老人は長年この銭湯を営み続け、今日が最後の営業日だった。 刺青があると、他の客に迷惑がかかる。そこで老人は営業時間が終わると、この親子を銭湯に入れた。 汗まみれで働いた後に、息子と二人きりで広い風呂

          最後の銭湯ーたった1分で読める1分小説ー

          女神の階段ーたった1分で読める1分小説ー

          女神の階段を登れば、あらゆる望みが叶う。 太古の昔からそう言われていた。女神の階段とは、天まで続くほどの果てしなく長い階段だ。そこに女神が住む神殿があるらしい。 だが誰もその神殿を見たことがない。歴史上、女神の階段を登りきった人間はいないからだ。 男の夢は、女神に会うことだった。 彼の体力と頭脳は世界一であり、歴史上においても彼を超える人間はいないと賞賛された。 彼は準備に準備を重ね、女神の階段に挑んだ。登れども登れどもその果てが見えない。何度もくじけそうになったが

          女神の階段ーたった1分で読める1分小説ー