浜口倫太郎 作家

作家、小説、脚本、漫画原作。元放送作家、漫才作家。毎日1分で読める1分小説書いてます。…

浜口倫太郎 作家

作家、小説、脚本、漫画原作。元放送作家、漫才作家。毎日1分で読める1分小説書いてます。『異世界リュウジ』連載中。新刊『コイモドリ』、著書『ワラグル』『お父さんはユーチューバー』『AI崩壊』『22年目の告白』『廃校先生』『くじら島のナミ』『ゲーム部はじめました』『私を殺さないで』

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  • 1分小説

    たった1分で読める1分小説をまとめています。

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  • 小説の書き方

  • 小説 むかしむかしの宇宙人

    時は昭和31年。家事と仕事に追われる19歳の水谷幸子の元に、宇宙人を名乗る奇妙なイケメン男性があらわれる。とびきりコミカルでキュートなノスタルジックSFラブストーリー。 毎日7時に一話ずつ更新。

  • 作品分析

最近の記事

不眠症−たった1分で読める1分小説−

「少しは眠れてますか?」 「ぜんぜんですね」  医師と翔太は、毎度のやりとりを重ねた。  翔太は不眠症だった。  十歳の頃から眠れなくなった。ベッドに入っても一睡もできず、まどろみすら訪れなかった。  両親が心配して病院に連れてきた。脳波などあらゆるデータをとったが、原因は不明だった。  ただ翔太は、まるで気にならなかった。眠気がないだけで、体に不調は一切ない。人が寝ている間も起きていられる。人より睡眠時間分を得しているようなものだ。  翔太は不眠人生を歩み続けた。定期

    • よくあたる占い師−たった1分で読める1分小説−

      「えっ、すごい。全部あたってます」  理香は、占い師に占ってもらった。よくあたると評判で、友達が紹介してくれた。  性格や悩み、過去にこんなことがあったなど、まるで見てきたのかと思うほどズバズあてられた。  占い師が微笑んだ。 「ありがとうございます」 「素晴らしい才能ですね」 「才能というよりも、断固たる決意ですね」 「決意ですか?」 「ええ、私の占いは必ずあたる。そう心の底から信じて占うことを心がけています」  なるほど。一流の人の考え方だ。理香は深く納得した。 「と

      • サプライズパーティー−たった1分で読める1分小説−

        「6月29日、サプライズパーティーね」  えっ、と美奈子は急いで身を隠した。廊下で小百合達が話しているのを、偶然聞いてしまった。  6月29日は美奈子の誕生日だ。小百合が企画したのだろう。 「もうっ、だったらバレないように気をつけてよ」  美香子は知らない演技を続ける必要がある。面倒だなと思いつつも、顔がにやけた。  ただその日が迫ってきても、誰も誘ってこない。フェイクのイベントで、美奈子を誘い出す必要があるのに……。 結局、美奈子は誕生日に家にいた。  なんだ、私の勘

        • ペットの治療費−たった1分で読める1分小説−

          「犬の骨折の治療費が四十万円! てめえふざけてんのか」  動物病院で、男が怒鳴り声を上げた。  ベッドの上では、犬が苦しそうにうめいていた。  男は誤ってペットを床に落とし、犬は骨折してしまった。 「犬だぞ、犬! 人間様の治療費だったらまだ納得できっけどよ、犬の骨折で四十万円だと! ぼったくりか」  獣医が困り顔で説明する。 「ペット保険の加入もなしで複雑骨折ですので、それが正規の料金です」  激怒する男に閉口して、獣医が首を縦に振った。 「……わかりました。四十万は結

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        記事

          ソクラテスの嘆き−たった1分で読める1分小説−

          「文字など使ってはバカになる」  古代ギリシアの哲学者・ソクラテスは大いに嘆いた。  文字に頼れば人間は覚える必要がなくなる。だから記憶力は衰える。ソクラテスはそう考えていた。 「未来はそんな騒ぎではありませんよ」  そこに未来人だと名乗る、裕太があらわれた。  ソクラテスは得意の問答法で、彼が未来人だと認めた。  裕太は、ソクラテスを未来に連れてきた。まずは彼に書店を見せた。  ソクラテスが苦い顔で訊いた。 「書物がこれほどに……この世界の人間は、ものを覚えられないの

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          憧れの人物−たった1分で読める1分小説−

           ロジャーにとって、ベンジャミンは憧れの人物だった。  ベンジャミンは実業家で、時価総額世界一の企業を経営していた。ロジャーは幼少の頃から、ベンジャミンを目指していた。  ロジャーは起業すると、すぐに結果を出した。  なぜならばロジャーは、どんな手段も使ったからだ。  脅迫、裏切り、暴力はお手のもの。非合法なビジネスにも手を染めた。表向きは新進気鋭の起業家だが、裏の顔はまっ黒だった。  ベンジャミンも影ではそうしている。成功者とはそういうものだ。それがロジャーの哲学だっ

          憧れの人物−たった1分で読める1分小説−

          徳を積む−たった1分で読める1分小説−

           高校生の貫太がタバコを捨てると、後ろで気配をした。  クラスメイトの健太郎が、その吸いがらを拾っていた。そのまま立ち去ろうとする姿が、貫太の神経を逆撫でした。 「なんだ、てめえ。文句あんのか?」  健太郎は笑顔で否定する。 「文句どころか、ありがとうって言いたいよ。徳を積ませてくれたんだから?」 「徳? 何言ってやがんだ。坊さんみてえなこと言いやがって」 「徳は実際にあるんだよ。人が嫌がることを率先してやると徳が積めるんだ」  健太郎は日々学校や街中を掃除して、生徒会

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          ホールインワン−たった1分で読める1分小説−

          「なぜだ。なぜプロになれないんだ」   男は、プロゴルファーを目指していた。だが何度プロテストに挑んでも合格できなかった。 「もう死んだ方がましだ……」 「おいらに任せてよ」  そこに天使があらわれ、男があわてふためいた。 「嘘だって、死ぬのは嫌だ」 「なんか勘違いしてるね。僕はゴルフの天使だよ。僕の力でホールインワンができるよ」  ホールインワンとは、一打目がカップインすることだ。 「ほんとか。そんな能力があるなら、プロどころかマスターズも優勝できるぞ」 「それは無理さ

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          フードデリバリー−たった1分で読める1分小説−

           瑛太は、フードデリバリーのバイトをしていた。  配達中、誰かに呼び止められた。 「……私の声が聞こえる人はいないか」  瑛太は驚いた。その声は、瑛太の頭に直接響いているのだ。 「なんだこれ?」 「これはテレパシーだ。申し訳ないが何か食事を持って、この住所まで来て欲しい」  指定された場所は、普通のアパートの一室だった。そこに一人の男がいた。 「私の名は、リムル。パトレス星の宇宙人だ」  瑛太はその言葉を信用した。テレパシーを使えるのが何よりの証拠だ。  地球に来たが、リ

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          つまらない親父−たった1分で読める1分小説−

          「親父……つまんねえ、人生だったな」  父親の遺影を見つめながら、敬一がつぶやいた。  今日は父親の葬式だった。敬一の父親は公務員で、酒もタバコもギャンブルも一切やらず、凪のような人生だった。  敬一はそんな父親が昔から嫌で、波瀾万丈な人生を送っていた。  参列者がやってきて、敬一は目を丸くした 彼は金髪のモヒカンで、顔中がピアスだらけだった。 「このたびはご愁傷様です。お父様とは生前一緒にパンクバンドを組んでいました」  彼が沈痛な面持ちをする。親父がパンクバンドを

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          前段階−たった1分で読める1分小説−

           どんなジャンルにも天才と呼ばれる人物がいる。  次郎は、まさにそんな天才の中の一人だった。業界で、天才の名を欲しいままにした。  ところが、彼がこの世界を止めると言い出した。  次郎の事務所の社長が引き止めたが、次郎の意志は固かった。 「なぜ止めるのだ?」 「私には最終目標があります。その前段階のために、この業界に入っただけです」 「前段階? どういう意味だ」 「例えば小説家は、前職は新聞記者だったケースが多い。記者として文章の修行を積んで小説家になった。私もようやく

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          冷蔵庫の余りもの−たった1分で読める1分小説−

          「じゃあ冷蔵庫の余りものでチャチャッと作るよ」  涼太がエプロンを身につけた。  今日は俺と小春で、涼太の家に遊びに来ていた。俺は小春に惚れていて、どうにか付き合いたかった。  その涼太の焼き飯は絶品だった。小春が絶賛する。 「おいしい、これっ、本当に冷蔵庫の余りもので作ったの?」 「そうだよ。俺、余りものでなんでも作れるんだ」  涼太が爽やかに笑った。  俺と小春で帰ると、小春が余韻に浸るように言う。 「あの焼き飯おいしかったね」 「……スーパーで材料をそろえれば、俺

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          ココナッツヘッド−たった1分で読める1分小説−

          「おまえを笑わせるのはあきらめた」  太一がそう言い、「やっとか」と小太郎がうなだれた。  二人は九十歳を越えた老齢だが、子供の頃から太一は小太郎を笑わせようとした。だが太一はつまらなく、小太郎は一切笑わなかった。 「生きていて笑わせるのはあきらめたが、面白い死に方をして笑わせてやる」 「……おまえは何を言ってるんだ」 「ココナッツヘッドって知っとるか?」 「なんだそれは?」 「ココナッツ、つまりヤシの実じゃな。ヤシの木は高く、ヤシの実は硬い。南国では落ちたココナッツが

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          巨人の野球−たった1分で読める1分小説−

          「このままでは隕石が衝突し、多大な被害が予想されます」  科学者がそう説明すると、国王は苦い顔をした。 「想定の被害者数はどれほどだ?」 「国民の半数は死亡するかと……」  国王を含めた大臣達が、暗澹たる気持ちになった。 「私に任せてください」  外から野太い声がした。全員が窓の外に顔を出し、首が折れそうなほど見上げた。  そこには大きな巨人がいた。 「私ならばこの危機を救えます」  国王が目を瞬かせた。 「一体、どうやってだ?」 「私は野球観戦が好きなのですが、ち

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          ライバル−たった1分で読める1分小説−

          「貫太郎、俺はおまえを必ず越えるからな」  それが秀夫の口癖だった。  貫太郎と秀夫は、幼い頃からの友達だった。  貫太郎は成績優秀で、スポーツも万能だった。秀夫は、そんな貫太郎に何かと張り合おうとした。ただ優秀な貫太郎にはいつも敵わない。そのたびに歯をギリギリと鳴らし、地団駄を踏んで悔しがるのだ。  貫太郎は秀夫が好きだが、その強烈なライバル視だけは閉口していた。  貫太郎は大手商社に勤めると、あるビジネスのアイデアを閃いた。  それはすべての商品を百円均一で売るとい

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          月の石−たった1分で読める1分小説−

           1970年、大阪万博。  万博とは、各国が参加する博覧会のことだ。  大阪万博の目玉が、アメリカのパビリオンで展示されていた『月の石』だ。月面着陸を成功させたアポロ12号が持ち帰ったものだった。 「よしっ、凄い人気だ。今日は四時間も行列ができたぞ。大成功だ」  アメリカのパビリオンの責任者が、満悦顔で言った。この調子ならば、1400万人ほどが見学するだろう。 「何が大成功だ」  いつの間にか、妙な男がいた。 「私はパルサ。月の住人だ」  責任者が鼻で笑った。 「何をく

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