ココナッツヘッド−たった1分で読める1分小説−
「おまえを笑わせるのはあきらめた」
太一がそう言い、「やっとか」と小太郎がうなだれた。
二人は九十歳を越えた老齢だが、子供の頃から太一は小太郎を笑わせようとした。だが太一はつまらなく、小太郎は一切笑わなかった。
「生きていて笑わせるのはあきらめたが、面白い死に方をして笑わせてやる」
「……おまえは何を言ってるんだ」
「ココナッツヘッドって知っとるか?」
「なんだそれは?」
「ココナッツ、つまりヤシの実じゃな。ヤシの木は高く、ヤシの実は硬い。南国では落ちたココナッツが頭に当たって死ぬ事故が時々あるそうだ。それをココナッツヘッドと呼ぶ。
そこで庭中をヤシの木で埋めつくし、暇さえあれば散歩をする。いつか頭に当たってわしは死ぬだろう。おまえはその知らせを聞いて大笑いする。その姿を天国から見るのが今から楽しみじゃ」
くつくつと太一が肩をゆすり、小太郎はあきれ果てた。
そんなにうまく頭に直撃するわけがない。だいたい先にその話を聞かされたら笑えるものも笑えない。
太一ほどのバカはいないなと、小太郎は再確認した。
数日後、太一の主治医から小太郎に連絡があった。太一が入院したというのだ。
「ココナッツが体のどこかに当たって、怪我をしたのですか?」
「いえ、違います」
「ではなんですか?」
「いつヤシの実が落ちてくるのかと緊張しすぎて、失神されたのです」
小太郎ははじめて爆笑した。
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